2017年12月7日木曜日

げんこつスイムを試す

スイム 3000yds

最近気温が15度を下回るようになり、寒くなってきた。
泳ぎ始めではTシャツを着たままプールサイドまで行って、脱ぐのをぎりぎりまで遅らせるようになり、泳ぎ終わったら注意されるぎりぎりの急ぎ足で更衣室に向かう。
来年はサンフランシスコ湾で10km泳ぐこともターゲットにしているので、冬の間できるだけ外で泳いで寒さ慣れする必要がある。
気温が10度を切ると、温水プールは湯気が立ってくる。1月に米国に戻るころにはそうなっているだろう。

○げんこつスイム 100+100+200

隣の人がパドルを使って泳いでいるのを見て、フィストグラブを思い出した。
フィストグラブは指のないゴム手袋である。手のひらで水を押すことができないので、前腕を使って水を押したり、水をかく以外の推進力を絞り出すことで、グラブを外したときに見違えるように進むことができる。
残念ながらフィストグラブは10年以上前に販売終了したので、代わりにげんこつスイムを行った。

  • 最初のラップはげんこつ(親指を隠す)で泳ぐ
  • 次のラップは普通に泳ぐ
  • 次のラップは1本指で泳ぐ
  • 最後のラップは普通に泳ぐ
げんこつで泳ぐと、手が空回りして悲しくなる。指の第2関節より先の面積を失うだけで、水が手に当たる感覚がこれだけ違うのかと驚く。
次に手を広げると、水中の手の安定感が格段に向上する。
1本指で泳ぐと、手の動線を繊細に感じることができる。動線をより長くすることで、指が水を押さえる感じが得られるだけでなく、手を広げたときに水をより長い時間押すことができる。

○ストロークピラミッド:10×200yds


ストローク数を維持する距離をこれまでの倍にする。
結果は以下の通りで、ピラミッド後半の14/15ストロークで最初の目標ペース(ベストペースの8%落ち)である1分30秒を達成している。
また16/17でベストペース1分24秒を達成しているが、これは200で精一杯であった。

ストローク数200ydsペース
15/163:17.61:39
14/153:16.71:38
13/143:15.31:38
12/133:14.31:37
11/123:12.01:36
12/133:10.91:35
13/143:05.51:33
14/153:00.31:30
15/162:56.11:28
16/172:47.71:24
最小ストロークである11/12を折り返してからは、毎回4秒近く速くなっている。
また泳ぎ始めに比べて、最後の200は30秒速くなっている。
ストローク数を単純に減らしても速くはならない。伸びる時間を増やしながら力を加えることで、「強いストローク」を作る必要がある。

今後はストローク数を減らして増やすことで強い泳ぎを作ってから、より長い距離を泳ぐことにする。

2017年12月5日火曜日

力の入れどころを意識して18秒速く泳ぐ

スイム 3000yds

先週は各ラップのストローク数を同じにすることで、加速を意識することができた。
今回はより自然な形でより長く泳げるようにする練習を行った。

○ストロークピラミッド:2×10×100yds

練習前に以下のペースについて再確認した。
  • 目標達成のためのペースは81秒(100yds、以下同)
  • ベストタイムのペースは83秒
  • 当面はベストタイムより8%遅い90秒で劣化せず泳げるようにする
今回は100ydsのうち、2ラップ目以降のストローク数を1ラップ目+1とした。
最初のセットのストローク数は15/16だったので、以降14/15、13/14、12/13、11/12
、12/13、13/14、14/15、15/16、16/17まで行った。

・水中で手を動かす速度とからだが前に進む速度を合わせる

隣で泳ぐ人達を水中で見ていると、からだが前に動く速度よりも水中の手の動きが速い。
決して速く泳ごうとしているのではないのに、水中で手が素早く動いているのである。
これを反面教師として、自分が前に進む速度と水中で手を後に動かす速度を一致させてみた。

速度を合わせるためには、より多くの水を手に当てて、しかも集めた水を逃さないように後に押して抵抗を増やす必要がある。また増加する抵抗に負けずに水を押すためには、さらに力も必要になる。

このように手の動かし方と力を入れるタイミングを変えながら、手が後に動く速度とからだが前に進む速度を合わせる。ストローク数が小さくなるほど手が動く距離を延ばし、入れる力の量を増やす。

ストロークピラミッド20回の結果を以下に示す。最初の15/16ストロークよりも後の方が15.6秒速くなっている。また最後の16/17ストロークでは、最初よりも18秒速くなった。

ストローク数1回目2回目
15/161:37.61:36.7
14/151:34.91:35.4
13/141:38.31:36.0
12/131:36.41:36.8
11/121:37.21:35.4
12/131:33.21:32.9
13/141:27.81:27.1
14/151:26.11:26.5
15/161:24.21:22.0
16/171:20.61:19.3

次に200ydsを2回泳いだ。最初は15/16ストローク、2回目は14/15ストロークである。結果は88秒、89秒ペースであり、かなりラクに泳げた。ベストタイムの8%落ち(90秒)は14/15ストロークで泳げそうである。

このように一旦ストローク数を減らす練習を行うと、加速を上げ方、すなわち力の入れどころや水中の手の軌跡がわかってきて、その後ストローク数を増やすとそのままタイムアップにつながる。最初に泳ぐ15ストロークと、一旦減らしてから増やして泳ぐ15ストロークでは加速感が明らかに異なる。

先週と同様に200ydsのセットを行ってから、ストローク数一定で長距離を泳ぐことにする。


2017年11月29日水曜日

行きと帰りのストローク数を同じにして16秒短縮する

スイム 2600yds

来年の目標を長水路で1500m22分30秒(2015年のベストタイムより5.8%アップ)と定めた。今後はこの目標を達成するための練習ステップを記録する。

○ペースの計算と練習の方針

普段は25ヤードプールなので、1500m=1650ydsとなる。
  • 目標の100ydsペースは22.5×60÷1650×100=81.8秒(1分21秒8)
  • ベストタイムの100ydsペースは1371÷1650×100=83.2秒(1分23秒2)
  • 目標ペースはベストペースより1.7%速い。
ベストタイムを出したときは毎日5000yds以上泳いでいた。そこで次のように組み立てることにした。
  1. ベストタイムを出すことを最初の目標とする。
  2. つまり100ydsペースで83秒を16.5回維持できるようにする。
  3. 一方で劣化せずに確実に泳げるペースとして、ベストペースの8%落ち(6.7秒遅い)である89.9秒を設定する。
  4. 練習では、ベストペースの83秒と劣化しないペースの89.9秒の2つをキーとなるペースとして使う。
  5. 練習では、(1)劣化しないで完泳できるペースの引き上げと、(2)ベストペースで泳げる距離の延伸を同時に行う。
  6. 技術的な面では、(1)はリラックスした状態で加速を上げること、(2)は力の入れどころを絞り込んで持続力を上げることが必要になる。
  7. 練習はできるだけシンプルな内容にする。多くて3種類の練習にとどめる。

○ストロークピラミッド:2×10×100yds

100ydsは25ヤードプールを2往復(4ラップ)する。最初のラップはプッシュオフによるグライドの距離が増えるので、ストローク数は少なくなる(逆に言えば2ラップ目以降はストローク数が増える)。
2ラップ目以降のストローク数を最初のラップと同じにするためには、次のいずれかを行う必要がある。
  • 2ラップ目以降のテンポを遅くして、グライドして伸びる時間を増やす。
  • 2ラップ目以降の加速を上げて、1ストロークで進む距離を延ばす。
ストローク数が減るほど速度が落ちるので、加速を上げる後者を狙う必要がある。道具として以下を使う。
  • 1ストロークたりともおろそかにせず、丁寧に動作を行う:入水、スイッチ動作、手を前に伸ばす動作、水中ストローク動作
  • 入水てこ:入水動作とキャッチ&プルの連動
  • 肘てこ:キャッチ&プルでより多くの水を手に当てる
  • 体幹てこ:プッシュで体幹を使ってさらに遠くに水を押し出す
ピラミッドでは、最初のストローク数を15とした。以降14, 13, 12, 11まで4下げて、その後16まで上げた。それぞれ2回行った。

結果は以下の通りである。ストローク数を減らす局面で得られた加速が、ストローク数を増やす局面において有効に使われていることがわかる。最初に比べて後の15ストロークでは16秒近く短縮している。


ストローク数1回目2回目
151:39.61:37.2
141:37.21:38.8
131:38.31:38.6
121:39.21:37.2
111:38.41:37.1
121:31.81:33.0
131:28.51:29.1
141:28.31:27.4
151:23.31:22.9
161:22.41:19.0

また今回の結果から、劣化しないペース1分30秒で泳ぐためには13~14ストロークで泳げばよいことがわかる。一方ベストペース1分23秒で泳ぐためには15~16ストロークで泳ぐことになる。

このように、ペースを保つための泳ぎを作るために、ストローク数を決めることはとても重要である。各回の泳ぎのタイムが計測できるのであれば、テンポ・トレーナーを使わなくてもペースの泳ぎが決められる。

今後は1回に泳ぐ距離を200ydsまで延ばして、ストローク数を維持して泳ぐための道具を身につける。そのうえで劣化しないペース、ベストペースの両方の泳ぎを作り上げる。




2017年11月26日日曜日

テンポ・トレーナーが使えないときのスピードアップ練習

スイム 2000yds

久しぶりの地元でのプール練習であったため、40分間の慣らし運転とした。
先日千駄ヶ谷のプールでテンポ・トレーナーを使って練習していたら、終わり頃になって使用できないとライフガードが忠告してきた。1コースあたりのスイマーは多いし、あれはダメこれはダメと制約も多いし(練習メニューを置くこともできない)、日本のプールは実に練習しづらい環境であると実感した。

今回はそのような環境でもスピードアップ練習するにはどうすればよいかを試すことにした。

○アップ 400yds

100ydsずつ意識を変える。

  1. ラップごとにリラックス感ー前のめり感ー安定感ーなめらか感を高める
  2. 入水の場所を頭頂部の横延長線上にする
  3. キャッチとプルで肘てこを使う
  4. プッシュで体幹てこを使う

○ストロークピラミッド 18×50yds

最初にストローク数を数える:行き16(=n)帰り17
次の回は同じストローク数で泳ぐ
以降はn-1, n-2, n-3, n-4, n-3, n-2, n-1, nで2回ずつ泳ぐ
帰りは行きの+1とする

ストローク数を2減らすまでは伸びる時間を増やしてゆっくり泳ぐことで対応できる。
さらに減らすためには、水中で動かす手の距離を延ばしたり、水を強く押すなどの加速の道具が必要になる。

最初の50ydsのタイム:50秒
12ストローク(n-4)のときのタイム:52秒

ここからストローク数を増やし始めるが、急激にタイムが3秒速くなり49秒となる。以降は毎回タイムが速くなり43秒で終えた。つまり最初と同じ16/17ストロークで泳ぎながら、50ydsで7秒速くなったのである。これが加速を上げる練習の効果である。


○ストロークピラミッド 6×100yds

n-2/残りn-1, n-1/残りn, n/残りn+1でそれぞれ2回泳ぐ。つまり14ストローク/残り15ストロークで100を2回、15ストローク/残り16ストロークで100を2回、16ストローク/残り17ストロークで100を2回泳ぐ。

14/15ストローク 1分32秒
15/16ストローク 1分29秒
16/17ストローク 1分24秒

ストローク数の増加がタイムの短縮につながっていることから、空回りしていないことがわかる。

私の来年の目標は23分であり、目標ペースで100ydsを泳げたことになる。

以上より目標達成のためには最初のラップを16ストローク、以降のラップを17ストロークで泳ぎ、100ydsあたり1分24秒のペースで泳げばよいことがわかる。
実際には6%の劣化を考慮する必要があり、そうなると15/16ストロークで1分24秒が維持できる泳ぎを作ることになる。

このようにテンポ・トレーナーがなくても目標を達成するための泳ぎを作ることができる。
なおテンポ・トレーナーがあればペース練習ができるので、長距離における泳ぎの誤差が小さくて済む。この代替としてはインターバル練習を取り入れるのがよいかもしれない。
今後自分で試すことにする。








2017年11月17日金曜日

水と仲良くしなければ美しく泳げない2

水と仲良くするとは、
・水から得られる反応を観察する。
・自分が得たい結果であったどうか判断する。
・得たい結果を得られるように姿勢や動作を修正する。
という一連の流れのことである。
これはコミュニケーションのまさに本質であり、「水と仲良くする」ことを言い換えれば「水とコミュニケーションする」「水と対話する」となる。

○水から得られる反応を観察する

水泳は自分の姿や手足をほとんど見ることができないので、観察する対象が限定される。
しかしそれでも次のようなものが観察できる。
  • 水中の手(視覚):伸ばした手の形、入水する手との連動、キャッチとプル
  • 水の表面(触覚):入水時の指先、頭頂部、かかとで感じる
  • しぶきや泡(視覚/触覚/聴覚):手足が水と接触したときに発生する
  • 水面からの深さ(触覚):頭の位置、伸ばす手の位置、腰、足の位置を水の圧力で感じる
  • からだの表面で感じる水が押し返す力(触覚):体重を前にかけたとき、手で水を押すとき
  • 座標系(主に平衡感覚):対水面、対進行方向、対垂直面
  • 感覚:リラックス感、前のめり感、安定感、なめらか感、滑り感、加速感、水抱え感

水と仲良しになるためには、これら水から得られる反応を増やす必要がある。
これまでの指導経験によると、水と仲良しの人が得られる水からの情報量を10とすると、そうでない人が得られる情報量は2か3程度である。

○情報量を増やすためのカンタンなトレーニング

・鏡の前でドライランド・リハーサルを行う

水と仲良しの人は、自分のからだからも情報を得ようと努力している。
鏡の前に立って素振りをしてもらうと、チェックすべき箇所を自分で決めて確認しながら素振りをしている。
水と仲良しでない人は、鏡の前に立っているのに鏡を見ないで素振りをする。
まずは姿勢が動作を正しく行っているかを確認する必要がある。

・浮いて進んでみる

両手前グライドで、浮いて進んでみる。
浮いているというのは、水に上方向に押されていることだと感じる。
進んでいるというのは、水に前に押されていることだと感じる。
自分の力で浮いて進んでいるのではなく、水に浮かせてもらい、進ませてもらっていると感じる。

さらに進む力の元が、重力と自分の力を合わせたものであることがわかればさらに良い。

2017年11月13日月曜日

食わず嫌いのインターバルトレーニング

スイム 30×100m 2分30秒サークル

キャンプが終わり、午前中はランとスイム、午後はゴルフでもしようかと思っていたら、お客様のMMさんよりインターバル練習100m30本の誘いを受けた。
私は強烈なアンチインターバル派であり悩んだが、通常のインターバル練習を発展させるチャンスと思い参加することにした。

○水泳のインターバル練習とは

水泳でいうインターバル練習は、決めた時間でスタートすることを何本か繰り返す練習である。この決めた時間を「サークル」と呼ぶ。
今回は他に参加される方のスピードを考慮して、100m2分30秒で30本泳ぐことにした。

○私がインターバル練習に反対する理由

・前提となる心拍数の増加が水泳では見られない

インターバル練習の目的は、運動直後に心拍数が上がる特性を利用して、短い休憩時間で繰り返し運動することで持久力を増加させることである。
ところが水泳において心拍数が逐次計測できるようになり、運動直後に心拍数は上昇しないことが明らかになった(グアムキャンプ参加者実測値に基づく)。
つまりインターバル練習の前提が崩れているのである。

・速く泳ぐためのプロセスが提示されていない

スタート時間を固定することで何が起きるか。
 ー遅く泳ぐと休み時間が短くなる
 ー速く泳ぐと休み時間が長くなる
この2つだけである。速く泳げば長く休めるという報酬はあるものの、具体的に速く泳ぐにはどうすればよいかというプロセスの提案はない。
ややもすると「根性」とか「頑張る」とか再現不可能な非技術論になってしまう。

・運営者側の論理である

インターバル練習はグループスイムで多く導入されている。
あるコーチは「この方が多くの人数を回せる」とまで言った。
お客様に対して失礼ではないか。猿回しではない。
多数のお客様でも個別のレベルを考慮しながら上達させられるようにするのが付加価値である。

・達成感がクセモノ

集団で行うことで、連帯感や一体感が生まれて頑張れるという意見がある。
また達成感が味わえるという意見もある。
結構なことである。それが速さに直結する明確な論理があれば。
達成感は得られても、技術的には何一つ得るものがない。

○テンポピラミッドを取り入れる

30本を単純に泳ぐだけでは意味がないので、10×3として10段階のテンポピラミッドをインターバル練習に取り入れた。
最初はテンポ1.15秒でスタートして、3本泳いだらテンポを0.05秒遅くする。1.30秒で3本泳いだら今度は0.05秒速くして、テンポ1.00秒で終了する。
テンポが遅くなる局面ではストローク数をできるだけ減らす。
テンポが速くなる局面ではストローク数をできるだけ維持する。

・テンポ1.15秒→1.30秒

1本目のストローク数は行き43帰り45であった。泳ぎ慣れてきた2本目からはスカリングによるプルとプッシュ、入水てこ、肘てこなど加速の道具をフルに使った。
テンポを0.05秒遅くする毎にストローク数は1から2減らすことができ、テンポ1.30秒の段階で行き38帰り40まで減少した。

タイムは1分44秒で、テンポが遅くなるにつれてタイムも遅くなった。ストローク数は減っているのでタイムはもうちょっと速いままかと思ったが、2本目よりも4秒近く落ちて1分49秒であった。

・テンポ1.25秒→1.00秒

ピラミッドの効果が出たのがテンポを速くした局面である。
テンポを0.05秒速くしたときに、前のタイムより3秒速くなった。
ここから先は同じテンポの3本ともタイムが速くなるだけでなく、3本の中でも次第にタイムが速くなるディセンディング状態であった。
最後の30本目はテンポ1.00秒で1分32秒、ベストよりも速いペースで終えることができた。最初のペースより12%速いペースである。

・検討時間の締切があるのがよい

3000mを泳いでベストタイムより速いペースが出せたので、インターバル練習の効果はあったと評価できる。
時間が経ったら強制的にスタートするというのは、次に何をするのかを考える時間に限りがあることを意味する。このためあれこれ考えず、一つの道具に集中することができる。
また今回初めてピラミッドで同テンポにおいて複数本を泳いだが、一つの道具に集中して失敗した場合に、同じテンポで他の道具を使ってみることができるのは非常に良かった。

インターバル・トレーニングに良さを見いだすことがなかったが、実際にやってみると良い面もあることがわかった。ただしそれはテンポピラミッドやペーススイムと組み合わせて、別のタスクを設定した場合に限る。

インターバル・トレーニングの良さを見いだすことができたので、MMさんには大いに感謝したい。

○お勧めのインターバル・トレーニング

  • 100m以上であれば20秒~30秒休憩できるように時間をセットする。
  • 速く泳いで休み時間を増やそうとしない。
  • テンポピラミッドを必ず取り入れる。
  • できれば同一テンポで2本か3本泳ぐ。
  • ストローク数を数えて、テンポが遅くなる局面ではストローク数を減らす。
  • テンポが速くなる局面ではストローク数の増加を抑える。

以上がグループ練習でも使用できるやり方である。
休み時間を確保するために、普段よりも遅めのサークルのグループに入った方が、結果的に速く泳げるかもしれない。







2017年11月3日金曜日

泳げない子と泳げないお母さんが泳げるようになる話 2

レッスン2回目

泳げない人に対する2回目のレッスンは、1回目に学んだ内容を頭で理解することに重点を置く。
1回目のレッスンでは慣れない環境で慣れない動きを行っていたので、言われるがままにやってできたというところであろう。持ち帰ってみて再現しようとしても、ビデオを見てメモでもとらない限り何をしていたか思い出せない。
2回目は1回目とほぼ同じ内容を繰り返すことで、姿勢や動作の正しいやり方について理解するとともに、クロールを泳ぐためには何が必要なのかをマクロの眼で確認する。

両手伸ばしグライド

肘を伸ばすこと、水平面と垂直面の手の位置、頭の向きなどをA/Bコントラスト(極端なケースを試しながら自分の現在位置を知る)を使って正しい状態を理解する。

特に手の深さについては注意深く決める。人間の本能として進む方向=水面に沿って手を伸ばすが、これを斜め下にすることでからだがより前に進むことを理解する。ここは脳が手にコマンドを送る重要なポイントである。

斜め姿勢グライド

斜めと水平の違いがまだ理解できないので、手の位置を下げてから、水面に対する両肩の位置を観察し、上下関係を作るようにした。

斜め姿勢キック/スイッチ姿勢の維持

キックが水平だと腰や背中も水平になるので斜め姿勢が作れない。ひざを斜め向きに動かせるか確認して、動かせたら「ひざ→腰→肩→手」の順番で斜め姿勢を作る。最近は脳からの命令の順番についても細かく決めている。初心者はこの順番が決められないためである。

斜め姿勢をキックで維持できるようになったら、次にスイッチ姿勢を保つ。成功確率は3割程度だが、不安定になることが体験できればOKとする。泳げる人でも確率は5割程度である。

倒れ込みスイッチ(水平姿勢でスイッチ)

倒れながらではなく、床を蹴って水平姿勢になってからスイッチする。
浮いた姿勢でスイッチするので、入水する手の形が下がりやすく変わりやすい。また姿勢が不安定になるのでスイッチ動作もあいまいになる。
ここでは姿勢の完璧さを求めるのではなく、入水動作ができて両手が同時に動けば良しとする。

肘を沈めたリカバリー

2回目のレッスンでリカバリーを導入する。手を前に送ることについて、大人はどうしても上に動かそうとする。それにより肘が背中の面を越えて、肩の可動域を越える動きになる。
まず肘を沈めたまま手を「横」に動かすリカバリーで、手の動かし方の基本を理解する。

ここからビデオ撮影と再生を取り入れる。自分がどう動かそうとしているのか、なぜそれでは問題なのかを眼で見て確認する必要がある。泳げる人のレッスンとほぼ同じ流れになる。

手首を沈めたリカバリー/スイッチ

次に肘の位置を上げて、手首を沈めたままリカバリーする。ここで大人は直線軌跡にしようとするので、半円を描くように肘の軌跡を変える。重要なのはわきの下が動作を決めることである。

息継ぎなしの複数スイッチ

前回と異なるのは、ビデオを見ながら正しい姿勢や動きを作る過程が入ることである。ここで斜め姿勢の重要性を理解することができる。斜めにならないとリカバリーで手が水中に入ってしまうためである。

泳ぐービデオ確認ー意識を変えて泳ぐー変化をビデオで確認、という流れの中で、手足をどのタイミングでどのように動かせばよいのかについて、脳が命令文を作成することができる。

またここで、脳が命令を出さない限り手足はそれなりにしか動いてくれないということもわかる。得たい結果を得るためには脳がフル回転する必要がある。

加速の理解

ここまでくると、入水した手の肘を素早く前に伸ばすことで、加速することがわかってくる。素早い動作が加速につながれば、手でかいたり足で蹴ったりすることを意識しなくなり、ラクに泳げるようになる。

素早く動かすタイミングが力を入れるタイミングでもあるので、泳ぎにメリハリが生まれる。

加速により姿勢がさらに安定するので、上向き息継ぎに移ることができる。

息継ぎは2人ともできないままではあるが、息継ぎしないで泳いでいる姿は、息継ぎができないとは誰も想像できないくらい普通のクロールに進化した。


82歳の女性がラクに泳ぐには

前日の9歳の女の子に続いて、今日は82歳の女性(私の母親)を教えた。
手術や高血圧、さらには裂傷などにより1年半以上水泳から遠ざかっていたのだが、来月シンガポールに行き、例のマリナ・ベイ・サンズのプールで泳ぐという目標を掲げて練習することになった。

春には安全装置の充実した新車を買い、これで伊勢丹に週3行くと意気込んでいたのだが、先日松戸伊勢丹が閉鎖されることになり相当なショックを受けたようであった。このままではボケてしまうと思ってシンガポール行きに誘ったのだが、新しい目標ができて何よりであった。

所見:浮いてかいて進んでいる

脂肪による浮力で、バランスについては何の問題もない。ウェットスーツを着ているのと同じ状況か。
浮いていれば、手で水をかいていれば前に進む。
一方姿勢が平らになっているので、肩が半分水没していてリカバリーが難しくなる。
手を水上で運ぼうとすると、肩の可動域を越えるため上腕がロックされ、手を入水するときの肘の位置が下がってしまう。

・両手前グライド

足首の軟骨がすり減り足が痛いというので、倒れ込んで床を蹴る動作ができないと判断した。
倒れるだけの勢いを使う。
昔教わったように手を中央に伸ばそうとしているが、肩が動かなくなっているので伸ばしたまま手を寄せることができず、肘を曲げてしまう。60歳代以降によく見られる。
手は肩幅より広げて伸ばし、さらに水面から30度下げるようにしたらラクにグライドができるようになった。
もともと浮力があるので、本人は「からだが浮いた」という感覚よりも、「姿勢が安定した」感覚が大きいようである。

・斜め姿勢グライド

以前米国で浮力の大きい女性を教えたときに得られた知見が、「浮力が大きいと斜め姿勢ができない」であった。
斜め姿勢が今できなくても、スイッチと組み合わせればできるようになるという期待から、ここではできないまま次に移った。

・倒れ込みスイッチ

入水する手を水中で伸ばすことで体重が前に移動して、片手を前に伸ばした姿勢でグライドできること(まだ斜め姿勢はできないので平らな姿勢のまま)を、ビデオ撮影・再生で確認した。

この時点でのビデオ撮影と再生は非常に有効である。未知の動作を積み上げているので、本人としては何がなんだかわからなくなってくる。自分の姿勢や動作を目で確認できれば、次も正しい姿勢を作ることができる。

両手の倒れ込みになって、スイッチ後にからだが斜めになる場面が増えていった。あとは伸ばした手に体重を乗せることができれば、スイッチの趣旨を脳が理解したことになり、より正確な命令を手足に送ることができる。

・バタ足

足をももから動かして大きな動きを作っていたので、両足キックから始めてバタ足までを教えた。
テンポは緩慢であるが、これは年齢上仕方がない。
足が浮いていて、本人がラクに感じればOK。
バタ足を入れたことで、ラクになっただけでなく下半身が安定した感覚が得られた。

・完成形

入水した手を深く伸ばすことで斜め姿勢ができるようになったので、リカバリーの軌跡を上ではなく横にするように指示したところスムーズに手を動かせるようになった。

息継ぎは頭頂部を沈めたまま頭を回す意識だけで、がまんの手も少しできるようになった。

30分程度の練習ではあったが、本人もその違いに驚いて、納得したようである。

実は母は2011年にテリーが来日したときに、テリーから直接教わっている。何を教わったかは今となっては忘れてしまっただろう。もったいないことである。
ラクリン夫妻が母と庭で撮影した写真を先日偶然見つけてから、1週間もしないうちに訃報を聞いたので、何か運命的なものを感じた。

グライド姿勢で肘を伸ばすことが次の課題





2017年11月2日木曜日

泳げない子と泳げないお母さんが泳げるようになる話 1

最近水泳を教える時間を減らして、カリキュラムの作成に力を入れている。
5月にはカンタン・クロールが完成し、現在カイゼン・クロールと3種目のカリキュラムを新たに作っている。
ここで抜けていたのが「泳げない人」である。まさに偶然か天命か、知人のお子さんとお母さんを教えることになり、これまで3回60分のレッスンを行った。


○こんな子供さんです

9歳の女の子。全く泳げず水も怖がっていた6歳のときに水泳の短期教室に通ったが、ほとんど成果がなかった。
学校では年数回水泳の授業があるが、具体的なことは教えてくれずにテストだけ行う。これまでの3年間で、顔浸けからけのびまでできるようになった。

○こんなお母さんです

息継ぎができないので息が止められる範囲で「泳げる」。何回か手でかいてから立つ。
顔を出したまま平泳ぎをすることもできない。

10歳で泳げないのは親の責任重大

現在検証しているが、クロールで息継ぎしながら25mを泳ぐことが10歳までにできないと、一生できないままになってしまう仮説を立てている。
もちろん現在のお客様の多くは大人になってから水泳を始めた人達であるが、この人達のように「水泳で健康になる」という強い意志を持たない限り、大人になってから自主的に水泳を学ぶことはない。

これまで多数のお客様から聞いた話によると、顔浸け、けのびができるレベルから25mとりあえず泳げるようになるまで、40歳以上がフィットネスクラブなどのレッスンを受ける場合数ヶ月~1年程度かかる。そこからさらにターンや別の種目となると数年単位である。そこまでの長期間少しずつ技術を磨くことのできる忍耐力のある人達だけが、泳げるようになる。おそらく何倍もの方達が途中で挫折しているのであろう。

一方子供は、10歳ぐらいまでなら一般のスイミングクラブで半年ぐらいで泳げるようになる。圧倒的に早い。だから子供のうちに学ぶ必要がある。

ところが小学校高学年になると、泳げないことが恥ずかしいと考えるようになり羞恥心が芽生え、低レベルのクラスに入ることを嫌がる。中学生以降なら教わる場もなくなってしまう。そして泳げないまま大人になってしまうのである。

自転車に乗ることと同じように、泳げるようになることも親の責任である。中高年にとって水泳を有酸素運動の手段として持つことは非常に重要である。自分の子供の40年後、50年後を見据えて、将来生活習慣病にならないように今から準備をしてあげるのが親の努めである。

レッスン1回目

水に対する恐怖心がどの程度あるかわからなかったため、以下をテストした。
  • 口で吸って口で吐く
  • 息を止めて口の上まで頭を沈める
  • 息を止めて鼻の上まで頭を沈める
  • 頭を横にして耳を水に浸ける
  • 下を向いて顔を水に浸ける
  • 頭を水没する
  • 顔を水に浸けたまま足を床から離す
  • 浮く
いずれも親子でクリアしたので、ここから先はカンタン・クロールのドリル進行とした。

平らな姿勢:問題なし

浮くことができれば、姿勢をまっすぐにすることができる。あとは前傾して床を蹴ることができれば、両手前グライドの完成である。
水慣れテストでは5秒しかもたなかった息も、この段階で8~10秒まで止めることができるようになった。

斜め姿勢:できない

当たり前である。こんな姿勢は陸上で作らないので、水中ではイメージができない。
カンタンレベルのお客様が斜め姿勢を安定させるのに苦労するのを見てきたが、その前段階でも大きな山があることがわかった。問題のステップは以下とみた。
  1. 斜め姿勢がなぜ必要か、脳が理解できていない。
  2. 水面に対してからだを斜めにするという座標感覚がない。
  3. 斜めにするためにからだのどの部分に何を命令してよいかわからない。
どれか一つでも解決できないと、斜め姿勢はできないのである。
何回かアドバイスしながらやってみて、一つの結論を得た。
できないまま先に進める
脳が重要性を理解するためには、スイッチで体重をかけたり、リカバリーで手を水上に出すという斜め姿勢が前提となる動きを行うことが必要と判断した。そこでできないまま倒れ込みスイッチに進めたのである。

片手スイッチ:平らな姿勢で終わる

斜め姿勢から始まる片手スイッチも、平らな姿勢で終わる。
しかし手を入れて前傾すればからだが前に進むという後ろから前への重心移動はこの段階で理解し実践できるようになった。これで良しとする。


両手スイッチ:両方の手が同時に動かせるようになる

これまで大人を教えているときに苦労していた「両手を同時に動かす」ということは、一発でOKであった。これは「手で水をかく」という動作を習ったことがないのが理由である。

キック:バタ足ができるようになる

両足から片足ずつ交互、さらにバタ足への流れも、子供さんは一発でOK。お母さんは「水を後ろに押す」という考えが残っていてクセのあるキックになったが、ラクになったということでこれもOKにした。

最後:6回スイッチで終わる

リカバリーについてはわきの下を開いて手を前に送ることだけを教えて、続けてスイッチできるか試した。
結果は二人とも6回スイッチまでできるようになった。息継ぎなしクロールの完成である。
リカバリーの手は半分沈んでいたり水上で投げ出したりしていたが、いずれもこの段階ではOKとした。
グライドするときの斜め姿勢も、子供さんはほぼできるようになった。お母さんは「からだの浮き輪」もあるのでできなかったが、これは次回修正する。

顔浸けからけのびまで3年かかっていたのが、60分でクロールが泳げるようになったことに二人とも大喜びであった。お母さんは娘と自分の分とで2倍の喜びであった。

最後にお楽しみタイムとして、エンドレスプールの流れに乗る遊び方を教えたところ、最高速の水流に乗って流れるのを大層喜んで繰り返していた。60分前までは頭を沈めるのがやっとだったのに、トラウマがなければ恐怖はすぐに除くことができるのだと感心した。


知らないうちに斜め姿勢ができている

2017年10月30日月曜日

水と仲良くしなければ美しく泳げない1

2日間の美しいクロール・ワークショップが終わった。
遠いところから美しさを目指していらっしゃるお客様にお会いするたびに、その意欲的な姿勢に頭が下がる。

コーチ専用サイトのイベント実施履歴によると、最初の美しいクロール・ワークショップは2008年3月30日、スカイフィットで10名のお客様で実施した。今回のワークショップは18回目であり、17名のお客様が日夜美しいクロールの技術を磨いた。

10年近く続けていると、いろいろなお客様が来てくださるのでとても楽しい。最近のお客様は夜のセッションでも質問攻めというわけでもなく、また11:30で消灯となり強制終了してしまうので少し物足りない。午前2時半までクラスルームでガンガンやっていた(お客様はやらされていた)のは遠い昔である。あの頃は若かった。

過去のビデオを研究目的で見ているが、「新しいドリルの動きがすぐにできる人」と「できるまでに時間がかかりそうな人」はすぐにわかる。どちらも同じように脳がからだに対して新しい動きをさせようとするのだが、

  • できる人:意識してからだを動かすことができる。もし得たい結果が得られなかった場合(コーチにアドバイスされるなどして分かる)、意識を修正して動きも変えることができる。
  • できない人:意識はするがからだが思うように動いてくれない。得たい結果が得られない場合、意識を修正するが動きは変わらない。
という差がプールの上から見える。できない人の原因は3通りある。
  1. 脳がからだに対して指示する内容があいまいであるため、からだが脳の思うとおりに動いてくれない。
  2. スタート前は脳がやることを決めているが、いざスタートすると脳が忙しくなってからだに指示ができない。
  3. 脳は指示を出しているが、からだが忙しくて脳の言うことを聞けない。
どれに該当するかは、問い掛けて1回やってもらい、その結果を報告してもらうと確実にわかる。ワークショップはグループレッスンなのでその時間がなかなかとれないが、昔は3分プライベートレッスンを実施して、上記の原因を見極めながらアドバイスをしていた。

原因の1は、脳がやるべきことの全体像を把握して、現在どの部分に焦点を当てているのかを理解し、さらに動作や感覚(フィードバック)を「言語化」すれば解決する。1の人の特徴は「今何をしようとしていますか?」という問い掛けに対して「○○○」と即答できないことである。この場合できるだけコーチからの指示内容を自分の言葉で解釈してもらう。自分がコーチになったつもりで手足というお客様に対して説明するのである。このアプローチによってざっくり7、8割は解決する。

原因の2と3は、やりたいことよりも環境の変化に脳やからだが適応していない状態である。特に「不安定である」「息ができない」という水中での特性に対して慣れていない。
できる人は「不安定である」「息ができない」という事実を素直に受けとめ、そのうえでからだを動かそうとするが、できない人はこれらの事実を「変える」ことからスタートしようとする。
  • 不安定である→自分のからだを板みたいに硬くすれば安定するのでは、と筋肉を緊張させる→さらに不安定になる悪循環
  • 息ができない→口を膨らませて空気を貯め込む、息を止める→吐く時間が短くなり吸う量が減ってかえって苦しくなる悪循環
結局悪い方向に進んでしまい、脳が手足に命令できなくなる。
カンタン・レベルのお客様であれば半分ぐらいがこのタイプに属する。

それではどうすれば解決できるか。答えは「水と仲良くする」ことである。
次に水と仲良くするための方法についてまとめる。



2017年10月24日火曜日

TI創設者テリー・ラクリンとTIが支持された理由

2017年10月20日に伝説の人となったテリー・ラクリン。
彼の考案したトータル・イマージョンというメソッドがなぜ画期的で、多くのスイマーに受け入れられたかを考えてみる。

理由1:効率泳ぐ技術は大人になってからでも習得できることを証明した

上手な中年スイマーは、大方過去に水泳部に所属して泳いでいた人達である。大人になってから水泳を習った人とはすぐに見分けがつく。その違いを「技術」の観点で分析して、ドリルの形で習得可能にしたことが、テリーの最大の貢献である。

もっともこれは、彼自身の生い立ちが大きく影響している。最年少で大学の水泳部のコーチに就任したテリーは、速さを結果として常に求められる世界に居た。自分が遅いならあきらめもつくが、チーム全体のスイマー全員に対して責任を求められるのは大変なことであっただろう。

そのような世界がいやになって、彼は一旦水泳の世界から離れる。そして戻ってきたときには、競泳の世界ではなく成人向けの水泳指導という彼にとっても初めての世界に入ることになった。当時の成人向け水泳指導ビジネスはマスターズ、泳げない初心者と二分化されており、その中間、すなわち泳げるけど速く泳ごうとは思わない人達は相手にされていなかった。

再挑戦するにあたり、このような競争のないセグメントで教え方を考えるところがテリーらしいのである。そしてトライアスロンの勃興と共に、トータル・イマージョンのスイムキャンプは一部の狭い分野の人達に強烈に支援されるようになる。

自分で考えたメソッドなので、被験者が多いほどメソッドは最適化される。数年も経つうちにこれで食べていけるようになったところは凄い。そのあたりのエピソードはいろいろ教えてもらった。

理由2:水泳の世界に東洋的な味付けを加えた

「考えながら泳ぐ」という禅思想、「カイゼン」などの新しい概念など、テリーの思考には東洋的なアプローチ、特に日本人の考え方が深く影響している。

彼は玄米茶をたしなみ、漬物が好物(京都の百貨店では試食コーナーから引き剥がすのが大変であった)であり、日本的な発想や日本人の生産性、勤勉さなどに非常に興味を持っていた。

トータル・イマージョンが台頭した1990年代後半から2000年にかけては、米国における中国の影響は少なく、東洋といえば日本であり、日本の神秘的(言い換えれば不気味)な世界を水泳というめずらしい分野に取り入れることで、米国人の東洋に対する憧憬を満たすことになった。


理由3:自らカイゼンし続けた

コーチは教えることが仕事である。ところがテリーは教えるだけでなく、自らがレースに参加し、練習する過程で得られた経験により、カリキュラムを磨いてきた。まさに日本のカイゼンである。

練習のアプローチや意識するポイントが成果を伴わないものであっても、それを反省してさらにアプローチを変えて取り組む。その姿勢が多くのスイマーを感動させ、トータル・イマージョンのブランド価値を高めた。

ここまで自分をコミットしてメソッドを作り上げたコーチを私は知らない。一方テリーの後には、名前を挙げればきりがないくらい多くのコーチが同じ道を歩んでいる。テリーは自らをコミットする先駆者である。


理由4:一流のビジネスマンである

テリーはいつも、「私はコーチだからビジネスのことはよくわからない」と言っていた。しかし市場のセグメント、ブルーオーシャン市場の見極め、ブランド構築などの観点では、彼は非常に秀でている。

だからこそ文字通り「裸一貫」で、ここまでの世界を作り上げたのであろう。
今後トータル・イマージョンはどうなるのか。興味深い。

おまけ:「テリー・ラクリン」という呼び方

Laughlinはスコットランド由来であり、いくつかの呼び方がある。しかもいずれも日本人の発音にはない音であり、近似化する必要がある。
そこで私はいくつかの音を日本語読みで発音し、どれが一番フィットするか本人に判断してもらった。その結果「ラクリン」となった。これは本人が認める呼び方なのである。

2017年10月23日月曜日

テリーを偲ぶ

私の人生を変えた師、テリー・ラクリンが10月20日に永眠されました。66歳でした。

テリーへ

2004年5月、生徒として参加した最初で最後のワークショップ、そしてコーチ研修初日が終わりリラックスして泳いでいるときに、あなたはプールサイドに現れました。

ビデオテープではおなじみでしたが、恰幅の良いひげづらの中年白人男性はシアトルのプールにはうようよいるので、本当にあなたかはどうかは半信半疑でした。

しかしあなたがプールで泳ぎ始めた瞬間、あなたであることが確信できました。ビデオテープの中で優雅に泳いでいる人と同じだったのです!

緊張しながら、私は「初めまして。シンジです。日本でTIを教えたくてコーチ研修に参加しました。」とあなたに言いました。するとあなたは、「じゃ泳いでみて」と言いました。

緊張しながら泳いだのは生まれて初めてでした。できるだけなめらかに、リラックスして泳ぐように心がけました。1往復泳いだ後、あなたは、「上手だね。日本で教えていいよ!」といきなりOKするではありませんか!

私は日本での事業を承認してもらいたくて、コーチ研修中2回の会議の時間をとってもらい、これまでの市場調査の結果や事業プランをパワーポイントのスライドにすべく毎晩遅くまで準備していました。もちろんリハーサルも入念に行いました。

それなのに、往復泳いだだけで認めるとは!!しかも後日あなたの会社で正式に契約を結んだときにあなたは言いましたね。「日本人だから背広を着て、アタッシュケースに現金を入れてやってくると思っていたんだ。だけどTIが好きで、TIを熱心に研究して練習した人でなければ断るつもりだったんだ。シンジが一人であそこまで泳げるようになるのには、ドリルを随分練習しただろう。TIの良さがわかっていて、TIを広めたいという熱意を持っているからこそ、条件抜きにOKしたんだよ」

このとき私は、世界にTIが広まるように全力で手伝うと決心しました。そしてTIの社長になり、またYouTubeを通じて世界中の人にTIの良さを知ってもらうことができました。

テリー、あなたのおかげで私の人生は大きく変わりました。そのあなたが、66歳という若さでいなくなってしまったことはとても寂しく思います。しかしあなたが残したTIというメソッドは、レガシーとなって世界中の人達に受け継がれています。これまであなたが行ってきたこと、残してきたことに深く感謝するとともに、より良いものにすべくカイゼンに務めることを約束します。

Rest in Peace

シンジより




2017年9月8日金曜日

水面を下げて息継ぎをラクにする

カイゼンシリーズの新版を作成するため、再びドリルの撮影に取り組んでいる。
DVDジャケット用の写真を撮影するため、スマートフォンの連続撮影機能を使ったところ、高速撮影で鮮明な画像を入手することができた。
今回はこの写真を使って息継ぎの詳しい動きを説明する。

○息継ぎ完成形:水面を下げる


私が息継ぎで口を開けている瞬間(写真)である。
進行方向で頭の前の水面が盛り上がっていて、口の周りの水面の高さと隆起している部分の水面の高さの差が20cm以上あることがわかる。
口の周りの水面を下げることと、口の端が水面にかかる程度に顔を回すことで、からだの回転を最小限にして息継ぎをすることができる。

○船首波ができるステップ

この水面が盛り上がった状態を「船首波(Bow wave)」と言う。頭の前にある水が素早く押されることで、頭の周りに逃げ込むようにして波ができる。このときに頭の周りにくぼみができる。このくぼみを使って呼吸するのである。

それではこの波をどのようにして作ることができるのだろうか。
下は息継ぎをする前の状態で、プッシュが終わる前のタイミングである。頭頂部は水面下にあり、顔とからだが回っていることがわかる。
水面をよく見ると、ざわざわしているようだが船首波はできていない。


下はフィニッシュが終わる直前のタイミングである。水面を見ると、船首波ができつつあることがわかる。頭の位置は下を向いているときに比べて3cm程度上がっている。
口は水面に近づいていて、表面張力でまとわりつく水を飛ばすために息を吐き始めている。


以上より、船首波を作って水面を下げるためのステップをまとめると以下のようになる。
  1. 頭の位置は下を向いたときに水面直下(後頭部が水面下)にある。
  2. 水中のプッシュ動作で、頭を素早く前に動かすと同時に頭の位置を3cm上げる。
  3. 手を水上に出すフィニッシュ動作の直前から、口から息を吐き始める。
  4. 口の端が水面に来るぎりぎりのところまでで顔を回し終える。
  5. 横の景色、特に水面の高さを目で確認する。
練習では頭の位置と水中の手を素早く動かすタイミングを変えながら、顔を回す角度を抑えて口の端が水面に来るようにする。
水面が下がると、息継ぎをしているときに水面が目の位置よりも高く見える。景色によりできたかどうか確認することができる。



2017年8月5日土曜日

「強く泳いで」10%速くする

  新しいカンタン・クロールのコンテンツ作成が一段落して、速く泳ぐための練習について研究している。これまで提案してきた練習をゼロベースで見直して、より効率良く練習できるようにすることが目的である。

○テンポを速くすれば速く泳げるのか?

  テンポ・トレーナーはスピード練習に欠かせないツールである。製造元のFinisは、速く泳ぐためには速いテンポで泳ぐようにアドバイスしている。参考として過去のオリンピックの男女別・距離別の平均テンポ一覧が付属している。しかし0.70秒とか0.60秒とか、中年スイマーにはありえない数字が並んでいるので役に立たない。

  そこでテンポを速くすれば速く泳げるのか実験してみた。200mのセット(200mを数回泳ぐ)において、テンポを1.30秒から1.00秒まで0.05秒刻みで速くした。泳いでいるときは「入水をビープ音に合わせる」ことにのみ集中した。

  結果が下のグラフである。最初のテンポで泳いだタイムを基準としており、テンポに合わせていれば、計算値のようにタイムが22%速くなるはずである。しかし実際には途中まで5%程度速くなった後は、タイムがほぼ変わらない。




  ストローク数を見ると、1.20秒以降は150~154ストロークで推移しておりほぼ変わらなかった。従ってストローク数が増えて「空回り」しているわけではない。泳いでいる感覚としては、「ラクにテンポを上げている」状態であった。テンポに合わせるだけだとラクに泳ごうとするので、速度の上昇に限界があると考えられる。

○10%速くするためには


  より速く泳ぐためには、「強さ」を感覚の指標として取り入れることが必要である。強さとは力を入れることであり、まず「強く泳ぐ」ほど「速くなる」関係を作る必要がある。そのためにはテンポを一旦ゆっくりにしてから速くするとともに、ストローク数をタスクに加える。

・テンポを遅くするときには

  ストローク数を減らすことを目標にして泳ぎの強さを次第に増やす。強さを作るためには弱い状態にする必要がある。リラックスして関節をゆるめた状態から、力を入れて関節を伸ばしたり、手に当たる水の量を増やす。目標は0.10秒あたり25mで1ストロークを減らすことである。

・テンポを速くするときには

  減らしたストローク数を維持することを目標にして泳ぎの強さの部分を次第に減らす。テンポが速くなっても強さを残せるところはどこなのかを練習により見つける。経験では、遅いときに10あった強さは、テンポが速くなっても7程度まで維持できればかなり速く泳ぐことができる。

・ピラミッド練習の結果

  テンポ1.15秒スタート、1.30秒で折り返して1.00秒まで上げた結果が以下のグラフである。ストローク数はGarmin使用により左手の分だけをカウントしている。テンポ1.15秒から一度ゆっくりにして、また元に戻った1.15秒のときのタイムは7%速くなっている。ストローク数は左手だけで5減っている。強い泳ぎはテンポが速くなっても生きており、テンポ1.00秒では最初に比べて9.3%速くなった。

 

  テンポを変化させたときの計算値との比較でみると、ようやく計算値に近づくことがわかる。


  運動強度として心拍数を見ると、1.30秒から1.00秒まで上げたときの最後のセットの平均心拍数が132、1.15秒から1.30秒そして1.00秒までストローク数を意識して泳いだときの心拍数が156(18%増)であった。速くなった分だけ強度も上がっている。

  人間のからだはテンポを上げれば速くなるような単純な仕組みではない。ゆっくりなテンポで強い泳ぎを作り、次第にテンポを上げて強さとなめらかさを相殺しながら、ようやく速いテンポで速く泳げるようになるのである。




2017年7月5日水曜日

泳ぎを変える決め手は「ゆるめる」こと

  日本での滞在が長くなるにつれて、普段の生活と同じ環境でトレーニングする必要が生じてきた。近くのスポーツクラブで都度払いという仕組みがあったので、週に1~2回利用している。
  地元のプールで泳ぐときにはコースをシェアすることはほとんどないので、物理的に人のからだと接触することはない。ところが日本のプールは数人と一緒に泳ぐことになるので、泳ぎながらからだが接触する機会が増える。さらにコース幅が狭いので、となりのコースの人とも接触することになる。
  そこで久しぶりに思い出したのが、他人の手の硬さである。水上にしても、水中にしても、もの凄く固い。見た目リラックスしているように見える人のリカバリーでも、偶然触るとものすごく固くて驚くことがある。
  瞑想しながら泳いでいると、前の人に追いついて足を触ってしまうことがある。このときも足が硬いことに気づく。
  プライベートワークショップではドライランドに時間をかけているが、リカバリーで「腕を持ち上げる」と意識した瞬間に肩から先、全ての部分が緊張する。この緊張はリカバリーの間続き、入水のときも緊張しているので肘が自由落下しない。
  全身が完全にゆるんだ「くらげ浮き」では、みなさん30秒以上姿勢を保つことができる。それが泳ぎ出すとすぐに苦しくなるのは、筋肉の緊張が原因であると考えられる。
  つまり筋肉の緊張を取り除けば、苦しくなくなるだけでなく泳ぎのコントロールもできるようになり、泳ぎが上手くなるのである。

●ゆるめ方

  筋肉の緊張を除くということは、ゆるめることである。しかし筋肉を緊張させることはできても、筋肉をゆるめることは難しい。
  瞬間的にゆるめるためには、関節に注目する。肩、肘、手首の関節ごとに、ゆるめるように指示すればその関節につながっている筋肉をゆるめることができる。これがゆるめ方の基本である。
  次にどの程度ゆるめるかを決める必要がある。肩、肘、手首いずれも、手や腕の形を維持する必要があるため、その形を維持するのに最低限の緊張が必要である。初心者の場合この程度がわからないので、全部緊張か全部ゆるいかの二択になっている。


  • 腕の形を維持するためには、上腕を持ち上げるのに必要な肩の緊張を残す。
  • 肘を伸ばしておくには、力を入れて伸ばした状態からゆるめた程度の緊張を肘に残す。
  • 手と前腕を水上で一直線にするには、手の甲を持ち上げたり、指の向きを変えて形を作ったら形が維持できる程度に手首をゆるめる。水中で一直線にする場合は、水の抵抗を受けても手首が曲がらない程度に緊張する。


●ゆるめる時間

  ゆるめる時間はどのくらいか。これは逆に「緊張して締める」時間を最小限にして、その残り全てがゆるめる時間になる。
  具体的にはテンポトレーナー・プロの「ピッ」という音が聞こえる間だけ力を入れる。時間としては0.1秒程度である。テンポ1.2秒で泳いでいるのであれば、0.1秒だけ力を入れて1.1秒はゆるめることになる。つまりほとんどゆるんでいるのである。

●ゆるめる練習

  ゆるめ方がうまくなるには、ドリル練習が適している。
  まず姿勢を維持するために動かさない関節(スーパーマングライドの手、スケーティングの畳んだ手など)に注目し、上記のようにゆるめた上で形を維持するために最低限の緊張を加える。
  次に動作が伴うドリルで、力を入れる瞬間を決めて他はゆるめてみる。テンポトレーナーを使って、音が鳴る間だけ力を入れるのがよい。
  最後にクロールを泳いで、ゆるめる方を意識するときと、締める方を意識するときに分ける。

●速く泳ぐときにも有効

  速く泳ぎたいときこそ、ゆるめる練習が有効である。
  手をゆるめることで水中で素早く動かし、加速を上げることができる。
  また疲れにくくなることで速度劣化を抑えることができる。
  速いテンポ、速いペースほどゆるめる場所や時間を拡大する練習が必要になる。


2017年5月12日金曜日

速い人の泳ぎを「活用」する

スイム 4450 yards

  泳ぎ始める時間を一定にすることで、どのような人が頻繁に泳ぎに来ているのかがわかるようになった。プールはほぼ1人1コースとなるので(混んでいると2人1コースで中央で分ける)、練習の質を上げるためにできるだけ速い人の隣で泳ぐようにして、その人の泳ぎを分析して自分の泳ぎに活かすようにしている。

隣に速い人が来たら(いたら)観察すること

  自分の隣で泳いでいる人のスピードは気になるものである。自分より遅いとわかったら自分の泳ぎに集中するが、自分より速い場合には次のように観察する。

1)ストローク数を数える

  泳いでいて抜かされたり、なかなか追いつけないことで隣の人が速いことがわかる。そのときに悔しがらずに、「自分の泳ぎを上達させるチャンス」と考える。そして自分の休憩時間を少し長くとり、速い人のストローク数を数える。
 ここで自分のストローク数より多い場合には、「ストローク数を増やせば同じスピードにできるか」ということ、次に「そのストローク数を目標距離だけ維持できるか」と考える。実際に100~200を泳ぎ、相手のストローク数と同じストローク数で泳ぐことでスピードが変わるか、ストローク数が維持できるかを確認する。
 自分のストローク数より少ない場合はラッキーである。さらにいろいろ取り組めるからである。

2)キックを見る

  ストローク数が少なくて速いということは、自分より1ストロークあたりのスピードが速いということである。このスピードアップに何が貢献しているかを観察する。
 キックを激しくうっているのであれば、自分がやった場合にどの程度の距離においてキックを強く打ち続けられるか試してみる。
 スピードに比例して足を動かしていない場合、特にツービートキックの場合にはさらにラッキーである。足で推進力を得ていないということは、水中の手の動きで自分以上の推進力が得られるということである。

3)水中の手の形と動きを見る

  小学生でも自分より速い子がたくさんいることを考えると、「腕力」で推進力が決まるわけではない。しかし結果として姿勢が同じであれば「水をより多く押す」人の方が速く泳げる。
 ここでは「動かし始めの手の深さ」「キャッチの動き」「プルの動き」「プッシュの動き」を見ながら、どのようにすればより多くの水を押すことができるかを考える。また手がより速く動けば、水中で水を押す力が大きくなるので、手の動きを見てどのフェーズで一番速く動いているかを確認して試すことが大切である。

スタートするタイミングを合わせて泳いでみる

   節度のある範囲で、スタートするタイミングを合わせて泳ぐ。相手がターンをしていれば大胆に同時スタートできるが、壁で立つようなら少しタイミングを遅らせてスタートする。
 できるだけテンポを合わせて、自分と相手のスピードの違いを見る。1ストローク毎に離されるようなら、手の形を変えて手に当たる水の感覚を増やしたり、力を入れて素早く動かしたりする。

最後に持続できる距離を延ばす

  速い泳ぎができるようになったら、テンポトレーナープロを使いながら泳ぐ距離を次第に延ばしてペースが維持できるかどうか確認する。
 このとき相手のストローク数にできるだけ近づけるように、力の加減を決める。

  自分より速い人に対して劣等感を感じても意味がない。活用するぞという決意で泳ぎを分析し、得られた知見を自分の技術に取り込むことで練習の効果が上がる。

2017年4月28日金曜日

年齢の数だけ100を泳ぐ

スイム 5200ヤード

  健康のために水泳を始めてから15年が経過し、今ではあらゆる意味で水泳が生活の大きな割合を占めている。水泳を始める前に比べて8kg減量することができ、いまでは血圧、血糖値いずれも良好である。もし水泳をやっておらず、カウチポテトを続けていたらと思うとぞっとする。
 52歳の誕生日を迎えて、いつものように練習して1日が終わるのも寂しかったので、100を52本泳いでみることにした。それも単に泳ぐのではなく、意味のある内容にしたかったので次のように泳いだ。

  • アップ:4本
  • ストロークコントロール:12本
  • テンポピラミッド:20本
  • ペース練習:14本
  • ダウン:2本

○休み時間の設定

  短い距離を繰り返して泳ぐときに気をつけなければならないのが休憩時間である。51回の休憩で30秒休むとそれだけで25分以上かかることになる。そこで15秒を基本として、ペース練習のみ30秒とした。

○ストロークコントロール

  4ラップのストローク分布は0:+1:+1:+2を基本とした。最初のセットの第1ラップが16ストロークだったので、以降は第1ラップを15, 14, 15, 16, 17に設定して各2セット泳いだ。
 ストロークコントロールはテンポの制約がないので、ストロークを減らすときにはゆっくり泳げばよい。正しい動作を行うことで加速が上がるように力を入れ具合を調整する。

○テンポピラミッド

  いつものように1.15秒からスタートして1.30秒まで落とし、そこから1.00秒まで上げた。1つのテンポで2回泳ぎ、1回目はテンポに合わせることに集中し、2回目は加速を上げてストローク数を減らす/維持することに集中した。

○ペース練習

  目標ペースより15%遅い23秒、22秒、21秒で4本ずつ、最後に目標ペースより速い20秒で2本泳いだ。途中でSwiMP3のバッテリーがなくなり集中力が切れそうになったが、毎回同じ場所でビープ音が聞こえるように意識してスピードを出した。
 ペース20秒でも借金を作らずに2本できたので、もう1本欲を出して泳ごうとしたところプッシュオフで足をつった。足をつりながら2本クールダウンに切り替えて泳いだ。
 総時間1時間35分、移動時間は1時間17分であった。休憩の平均は21秒である。

  100ヤード52本を泳いで目標を達成することができた。ラスト前に欲を出して足をつったことから、もう若くないので無理をしてはいけないということ、欲を出さずに当初決めたことを確実に行うべきであるということを学んだ。これから10年は同じように年齢分だけ100を泳いでみようと思う。


 

2017年4月25日火曜日

【プライベートWS】なぜ「すぐに」上達するのか

  プライベートワークショップは、2回のプールセッションで「これまでより遙かに速いスピードで」上達していることを、感覚的および客観的に理解していただくことを目標にしている。

  カリキュラムは「問題を発見して解決する」パートと、「新しい技術を身につける」パートに分かれている。ここでは問題を発見して解決するパートについて注目する。

  お客様の問題のほとんどは、

  • 水の抵抗が大きい。
  • 進行方向以外の方向に力を使っている。
  • 筋肉を緊張するタイミングがわからない。
である。そしてこれらの問題を解決するのに、エンドレスプールが非常に効果的である。

○水の抵抗が大きい

  エンドレスプールは水の流れに逆らって泳ぐ。つまり水がからだを後ろ向きに押す。下半身が下がると水に当たる面積が増えるので、後ろに押される力が強くなる。さらに水の流れは下に向かうため、足が水の流れに巻き込まれてしまい、泳いでいると足が床に着いてしまうケースも少なくない。

 ここで下半身を上げられれば、水を受ける面積が減るので後ろに押される力が弱くなる。この改善効果は通常のプールよりも遙かに大きい。

 また水の抵抗が減るので速く泳げるようになることもわかる。これまでより速い水流で泳ぎながら、疲れは全くないということで「ラクに速く泳げる」ことが実感できるのである。


○進行方向以外の力

  エンドレスプールは水が後ろに流れる。もし入水する手を前から見て斜め(からだの中央)に入れると、水の流れで横に押されてしまう。これを続けると左右にふらふら泳ぐようになる。

 そこで中央に向かって手を伸ばすのではなく、肩の延長線に沿って手を伸ばすと、進行方向に沿って手が伸びるので横に押されなくなり、結果として左右の安定感が増す。

○筋肉を緊張させるタイミング

  まず水上の動作については、ほぼ全ての段階において筋肉を緊張させる必要はない。肘や手首を意識してゆるめることで、腕全体をリラックスさせることができる。
 次に水中の動作については、エンドレスプールの前の鏡を見る。スイッチ後に眉毛の下に手が来るときに、肘が直角になるようにする。
 前腕をこの位置に動かすと、エンドレスプールの水の流れを運ぶことになるので水を運ぶ感覚が上がる。前腕に当たった水をそのまま後ろに押す感覚も得ることができる。

 このようにクロールの主な問題を解決するときに、正しい動作を行うと違いがよくわかるというのがエンドレスプールのメリットであり、上達も早くなるのである。


2017年4月19日水曜日

借金返済の道筋を立てる

スイム 4000yds

  毎週末はそれまで練習してきた成果を確認するためにテストを行っている。先週はペース22秒で100を20本泳ごうとしたが、1本目の1ラップ目から借金になり、復活することはなかった。
  このため3本目から23秒にペースを落としたものの、3ラップ目には借金に突入した。この最大の原因は「テンポピラミッドを最初に行わなかった」ことである。テストということで途中の練習を省略したのだが、予めテンポとストローク数をコントロールしておかないと、ペース維持が難しいことが分かった。

ストローク数のコントロールを中心に

  そこで今日の練習では、テンポピラミッド(10×200)においてストローク数に焦点を当てた。1.15秒から0.05秒刻みでゆっくりする段階では、ストローク数を18→17→16と減らすことに注力した。具体的には動作を素早く行い、グライド時間をこれまで以上に長くする。
 テンポを速くする段階では、4つの道具(入水、キャッチ、プル、プッシュ)毎に力を入れる部分を強調して、ストローク数が維持できるようにした。この結果16ストロークでテンポ1.15秒まで戻ることができた。
 さらにテンポを速くする段階では、ストローク数の増加を2までに抑えてなめらかさを上げた。この結果通常3分台のタイムが2分55秒程度まで速くなった。

練習ペースの距離を延ばす

  練習ペースは目標ペースより8%遅い22秒として、100を2回泳いだ。1回目は確実に貯金ができるようにオーバーペースとして、2回目はリラックスして貯金ぎりぎりで泳いだ。
 これまでは4本泳いでいたが、コントロールができる確信が持てたので200に移り2回同様に泳いだ。200でもリラックスして貯金が出きたので、次に300を泳いだ。練習ペースではコントロールできると判断したら本数を増やすより距離を延ばす方がよい。これは3分以上泳ぎ続けないと心拍数が高い状態を作ることができないためである。最終的には500(1本)まで延ばす必要がある。
 貯金を維持するために、力を入れる時間をできるだけ短くする代わりに強さを上げた。この結果300でも貯金を維持することができた(敢えて増やしてはいない)。

目標よりも速いペースに挑戦

  4つの道具において、力の入れ方を意識して泳ぐことで練習ペースでうまくいった。そこで今日は目標より8%速いペースである19秒で50を2本、100を2本泳いでみた。
 前のセットよりもラップあたり3秒速くなるので、かなり力が入る。それでも50の2本目は借金のできない範囲でゆるめてみて、それを次の100に活かしたところ練習での自己ベスト(いろいろな組合せで長い距離を泳ぐなかでの100の最短時間)を出すことができた。


  心拍数の推移を見ると、テンポピラミッドを10本行っているときには140からスタートして155まで上がり、練習ペースの練習では160まで上がっている(ただし100を泳いだときはテンポ練習の200よりも下がっており、運動強度は小さい)。
 目標ペースの50では心拍数が急激に上がるが、短時間で終わるのでペース練習の100並みの強度しか得られていない。しかし100を泳いだ瞬間に急激なペースで上がりつづけ、172に達している。最大心拍数の理論値は168なので、理論値を越えるほどきつかったわけである。

 調子の悪いときの状態を冷静に分析して対応することで、借金を返済するだけでなく、さらに高いレベルに引き上げることができた。目標ペースでより長く泳ぐ自信にもつながった。


2017年4月10日月曜日

【プライベートWS】トライアスリートが速く泳ぐためには

  プライベート・ワークショップで、「速く泳ぎたいのです」と真剣な顔で話すトライアスリートが多い。そんなときは「どのくらい速く泳ぎたいのですか?」と聞くことにしている。

1.1シーズン4カ月で10%を目安にする

  現在よりも20%速く泳ぎたい、という場合には、2シーズンかかることを理解してもらう。25m30秒ペースが24秒で60ラップ泳げるようになるというのは、夢でしかない。まず10%を目標にすることで、実現可能なステップを策定することができる。

2.ペースに換算する

   次に、全体のタイムではなくペースで考える。普段はプールで練習するであろうから、プールの長さに合わせて目標タイムをペースに換算する。例えば目標が1500m30分の場合、25mプールで考えると目標を達成するためのペース(目標ペース)は30×60÷60=30秒になる。つまり25mを30秒で60回泳ぎ続ければ、1500m30分という目標が達成できるのである。

3.2つのアプローチを決める

  目標ペースで目標の距離を泳げば目標は達成できる。このために2つのアプローチで練習する。
  1. 目標の距離を劣化せずに泳げるペースを引き上げる。
  2. 目標のペースで泳げる距離を延ばす。
  最初のアプローチであるが、ベストタイムの10%アップを目標として設定しているのであれば、ベストタイムのペースより5%遅いペースであれば目標の距離を泳ぐことができる。現在1500m33分であれば、25m35秒ペースなら1500m泳ぐことができるであろう。
  ここで大切なのは、劣化をしないために使う道具を磨くということである。続けて泳ぐよりは、短い距離を繰り返し泳いで合計で目標の距離に達するようにする。1回に泳ぐ距離は400m程度を最長とする。泳げるようになったらペースを1秒引き上げて、同じ練習を繰り返す。
  次のアプローチは、目標のペースで25mや50mを繰り返し泳いで、よりラクに泳ぐ方法を身につけるということである。こちらは最初のアプローチよりも短い距離のセットとして、十分に休み時間もとって(それでも最長60秒)確実に目標ペースで泳げるようにする。こちらは次第に泳ぐ距離を延ばし、最終的にセット合計で目標の距離を泳げるようにする。
 練習の段階的な目標は以下の通りである。

  1. 最初は目標より15%遅いペースで目標の距離をセットで泳げるようにする。泳げるようになったらペースを1秒引き上げて繰り返す。
  2. 最初は目標のペースで、セット合計で目標の距離の20%程度を泳げるようにする。泳げるようになったらセット合計の距離を延ばす。

4.目標ペースで泳ぐためのストローク数とテンポを決める

  3の練習と同時進行で、ストローク数とテンポをコントロールする力を高める。具体的には目標ペースで泳ぐためのストローク数を決めて(そうすればテンポも決まる)、そのストローク数の前後、テンポの前後で変化させながら決めた数字(ストローク数やテンポ)で泳げるようにする。

  以上が速く泳ぐためのシンプルなステップである。このステップのメリットは、上達度合いが数値でわかることである。
 なおこれらの練習を行うためには、テンポ・トレーナー・プロが必須である。テンポ・トレーナー・プロの持ち込みが許可されないプールでは、速く泳ぐための練習は限られる。また数値で上達がわかる仕組みを取り入れることができない。


2017年4月7日金曜日

【プライベートWS】掻く、蹴るから「水を押す」へ

  大人が水泳を上達させるには、脳の果たす役割が非常に大きいと考えている。脳がどのように情報を解釈してからだの各部位に指令を出すのかが、水泳上達の鍵となる。

○手で「掻く」

  脳が手に水をかくように指令を出すと、手は陸上で得られた知見に基づいて次のいずれかの動作を行う。

  • (a)「雪かき」のように、からだの前にある水を手前に引き寄せる。
  • (b)かゆいところを掻くときのように、肘を引いて手と前腕を後ろに動かす。
  (a)の雪かきをするときは、雪や地面との摩擦を使って雪かきを固定してから、雪かきを手前に引くことで雪を集める。水中で同じことをしようとすると、手を水中でひっかけて手前に寄せることになる。しかし実際は手が水の中で沈んでしまう(摩擦や地面がない)ので、肘が伸びた状態で手が下に動き、棒がきの状態になる。
 (b)のように水の中で肘を引くと、水の抵抗が減って速く動かすことができるものの、抗力となる推進力も減ってしまう。
 従って1も2も水の中では効果的な動きとは言えない。脳は手に対して、「水をかく」ように指令してはならないのである。

○足で「蹴る」

  同じことが足にも言える。脳が足に対して「蹴る」ように指令を出すと、足は陸上で得られた知見に基づいて、以下を順番に行う。

  1. 立ってボールを蹴ることをイメージして、まずかかとを後ろに引き上げてボールとの距離を作る。
  2. 足の自由落下、足の筋肉および腰のひねりを使って最大のスピードで足がボールに当たるようにする。
  3. ボールに当てた後は、できるだけ遠くに蹴るように足を前に運ぶ。
 まずかかとを引き上げることで、足が水上に出てしまう。もともとボールがないため、どこがインパクトポイントかわからない状態となり、水上に出た足は水面をインパクトポイントに設定してしまう。そして最大のスピードで水面に足が当たり、大きな水しぶきが上がる。ここまでの動作は足の位置を水面に近づけることにも、推進力にも貢献しない。

  ビデオを見ると、この人はかいているな、この人は蹴っているなというのがすぐにわかる。脳が具体的な指令を出さないので、手足はこれまでの知見に基づいて精一杯努力しているにもかかわらず得たい結果が得られない状態である。このようなときは手足を責めてはいけない。管理職である脳が的確な指示を出せるように知識を得なければならないのである。

○掻く、蹴るから「水を押す」へ

  まず「水を押す」という考え方に切り替える。次に押す場所=水が当たる場所を決める。最後に水を押す方向とどのように押すかを決める。
 手の場合、手のひらと前腕に水を当てて後ろに押す。
  1. 手は水面に対して垂直面を維持することで、水に当たる面積を最大にする。水面に対して前腕が垂直である(指先がまっすぐ下を指す)必要はなく、垂直面に収まっていればよいので肘は鋭角になる。
  2. 前に進みたいので、水を後ろに押す。下に押さないように肘や肩をコントロールする。
  3. 陸上で物体を押すのと違い、水中では筋肉を緊張させても水を押すことにならない。押す=力を与える=手を素早く動かす(ニュートンの第2法則)ために、関節をゆるめて素早く動かすための筋肉を特定して使う。
  足の場合、 まず足の位置を水面に近づけて水の抵抗を減らすことを最大の目的にする。足の位置を水面に近づけるために、足で水を下に押す。
  1. ニュートンの第2法則を使って効率良く足で水を押すには、素早く動かせる場所を特定する必要がある。ここでは足の甲と決める。
  2. 足首の先が素早く動けばよいだけなので、蹴り幅は足の大きさ程度になる。この蹴り幅を作るには、ひざをひざの厚みだけ曲がるようにゆるめればよい。足首から先を素早く動かす=足首が運動の支点になるので足首はできるだけ動かさない。
  3. ひざをゆるめて蹴り幅を作ったら、ただちにひざの裏を素早く伸ばすと同時に足首から先をゆるめる。こうすることで足首が支点、ひざが力点、足の甲が作用点となるてこを作ることができる。
  4. 足首から先がゆるんでいれば、足の甲で水を素早く押した反動で水が足を押し上げる。あとは足を締める意識だけで、足が水面近くに上がってくる。
  どのような目的に基づいて、どこをどのタイミングでどのように動かすのかを脳が理解し、手足に指令すれば、手足は指令した通りに必ず動いてくれる。得たい結果が得られなかったら、手足への指令の内容を変えればよい。
 プライベート・ワークショップはこのプロセスを一人でじっくり学習することができる。このようにして得たい結果が得られたときに、上達したと感じることができるのである。

2017年4月3日月曜日

うねりを使う

スイム 4000yds

  4月に入り4000ヤード(3.6km)を合計距離に設定する。気温も18度近くまで上がり、晴天の中屋外で泳ぐのは非常に気持ち良い。
 先日の道具箱講習会でうねりを使ってクロールを泳ぐお客様がいらした。自分の中ではうねりは最終兵器と考えていたので、まず文章にしておく。

○クロールのうねりとは

  うねりとは伝搬する波のことで、水泳では上下動が全身において伝搬することである。うねりを使う泳ぎとしては平泳ぎとバタフライが挙げられる(ただしTIスタイルではうねりを使わない)が、ここではクロールのうねりに注目する。
 クロールでは、頭の上下動を使ってうねりを作ってはならない。入水するときの肩からスタートする。肩が最も高い位置に達したら手を入水し、高い位置を後ろに伝搬しながら(背中をうねりながら)手を前に伸ばす。このうねりを支えにして、手を伸ばすスピードを上げる。

○プッシュとの組み合わせによる「てこ化」

  うねりはプッシュと組合せることで、さらに大きな推進力を生み出す。手の入水直後はうねりが始まった直後でもあるが、このときに水中の手は眉毛の下にある。ここで水中の手を「菱形」(顔と親指の距離が30cm、顔の中央線から中指まで7.5cmの距離、肘は直角)にしておけば、水中の手は最大の推進力を出すことができる状態になる。
 この状態でうねりを使って入水した手を素早く伸ばすことで、この手が力点として働き水中の手が作用点となり、水中の手でさらに多くの水を押すことができるようになる。タイミングとしては、入水→うねり→入水の手を伸ばす→水中の手で水を押すの順番になる。

○うねりのメリットとデメリット

  うねりは小さなからだの動きなので、エネルギー消費量も小さい。また大きな背中の筋肉を使うので、疲れることもない。毎ストロークうねろうとするとうまくいかないが、4ストローク毎の息継ぎで肩の位置が通常より高くなるときだけうねりを使えばほどよい間隔になる。
 デメリットは上下動によりテンポアップが難しくなることだろうか。これも4ストローク毎にすれば影響が小さくなる。

○うねりの作り方

  最初はドライランドでからだ全体のうねり方を練習する。鏡の前で横を向いて立ち、頭を前後に動かしてその動きを背中-腰-ひざまで伝える。動かし方がわかってきたら、頭の動きを最小限にする。
 水中ではボディドルフィンの練習が効果的である。両手をももの前に置いたまま、うねりだけで進む。最初は全く進まないので、フィンを使った方がからだの動かし方がわかりやすい。前に進むための上下振幅やうねりの周期を練習しながら理解する。
 このように両肩を均等に動かすボディドルフィンができるようになったら、クロール用に片方の肩だけを動かしてボディドルフィンする。ボディドルフィンで進むことではなく入水する手を加速することが主な目的になるので、下にいくほど振幅を小さくする。

○うねりに適したレベル

  タッセイレベルである。さらにツービートキックで吟醸レベル(足の大きさの60%×2の振幅)、水中動作でスカリングも使えるようになってから挑戦すべきであろう。
 手足のコントロールが不十分なままでうねりを取り入れると、入水前加速となり水しぶきが上がり格好悪い。また頭が上下動するとノッキングとなりこれも格好悪い。


 練習内容はプライベートワークショップに参加のお客様に提出しているメニューとほぼ同一であり、ステップ3を実践している。目標ペースは20秒/25ヤード、練習ペースは22秒である。距離合計は4000になるように調整している。


【プライベートWS】管理職研修

  プライベートワークショップでは、まず15分程度のカウンセリングを行う。お客様が会社勤めや自営業の場合には、理解を早めるために「管理職研修」という隠喩(メタファー)を使った説明を行っている。

○管理職としての脳

  管理職とは「脳」のことである。部下はからだの各部位と考える。自分の意志でからだを動かすとき、脳がからだの各部位に指令を出している。ただし普段の生活ではこれまでの経験の蓄積があるので、脳が細かく指令を出さなくても手足が自主的に動く場面の方が圧倒的に多い。
 つまり脳は優秀な部下を擁した管理職といえる。部下が管理職の意向を「忖度」して行動して結果を出すので、管理職の資質があまり問われない。
 そのような状況のなかで泳ごうとするとどうなるか。管理職である脳は、部下である手足に対して細かい指示を出さない。それでいて脳はきれいに泳いだり、速く泳いだりすることを結果として期待する。
 一方部下である手足は、脳から発せられた「手でかく」「足で蹴る」「呼吸をする」という言葉に従って、これまでの経験に基づいて動作しようとする。ところがこれまでの経験は全てが陸上で得られたものであるので、水中ではうまく動くことができない。そうなると脳は得たい結果が得られず不満に思い、手足のせいにする。
 うまく泳げないのは、手足が思うように動かないのが理由ではない。手足が思い通りに動くように、脳が指示できていないのが理由なのである。

○管理職研修とは

  水中で動くという、これまでの環境とは全く異なる状況で手足を使わなければならないことを脳がまず理解し、手足にどのように指令を出せば得たい結果が得られるのかを理解することが管理職研修の内容である。得たい結果を得るために伝える内容を決めるというのは、コミュニケーションの本質でもある。脳と手足のコミュニケーション方法を学ぶといってもよい。
 研修には次のような内容が含まれる。
  • 脳が手足に対して指令を出すことで、手足が動いていることを理解する。脳が得たい結果を得るためには、手足に対して適した指令を出す必要がある。
  • 動作について、脳が理解する=納得する。脳が理解しなければ手足に指令を出すことができない。水泳についての様々な動作の理論的背景を説明する。
  • 一貫性のある指令を出すために、言葉を見直す。常に同じ指令を出せるようにするためには、言葉にする(文字化する)必要がある。これまで使っている言葉が適切かどうか判断して、得たい結果が得られるような言葉を選ぶ。

  この後に続くドライランドリハーサルでは、からだの各部位に対して指令する内容をストロークフェーズ毎に細かく分けて説明する。お客様にはそのときの動かし方を、自分の言葉で説明してもらうことで脳からの指令に置き換える。こうすると理解が深まるだけでなく、レッスン後の再現性も高くなる。
 プールセッションでは指令した内容と結果との差についてビデオを見ながら理解してもらう。この差を埋めるために指令をチューニングすることで、再現性のある動きが可能になる。

 このように脳の活用を前面に出したレッスンを行っている。まだ実験段階であるが、これまでのレッスンよりも進行が早く理解度も上がっている。

2017年4月2日日曜日

【プライベートWS】泳ぐとは?

  これまでの指導の総集編として、プライベートワークショップで説明した内容について紹介する。

  プライベートワークショップは通常のワークショップに比べて時間のコントロールがしやすいので、私の水泳に対する知見を説明する場として活用している。お客様は水泳を上手になるためにわざわざ松戸まで足を運んでくださるので、できるだけ丁寧に説明して、脳から上達して頂くようにしている。

  今回のテーマは「泳ぐとは?」である。そもそも泳ぐとは何であろうか。泳ぐとは、
  1. 水中で(浮いた状態で)
  2. 前に(方向)
  3. 進む(動く)
ということである。泳ぐためには、上記の123全てを考慮して脳が手足に何をするか命令する必要がある。

陸上に置き換えて考える

  人間は陸上で生活しているので、手足に命令する内容を決めるにあたってまず陸上に置き換えて考える。
  1. 陸上で
  2. 前に
  3. 進む
とした場合、何をするであろうか。お客様5人に聞いたところ「足を動かす」が主な答えであった。ところがじっくり考えてみると、足を動かす前に「からだを前傾する」という動作があることに気がつく。前傾しないで足を前に出すのは、コントで演じられる泥棒だけである。

  それではからだを前傾するのはなぜか。重心を前に移動するためである。前傾して重心を前に移動し、一番不安定になる状態で足を一歩前に出すことで人間は前に進むのである。これは歩くときも走るときも同じである。従って、「前に進む」ために「重心を移動している」ことがわかる。

  次に陸上では一歩足を出すのであるが、そのときには足で地面を押して、地面からの摩擦で得られる抗力で足が前に出る。つまり「前に進む」ために、「足で地面を後ろに押す」ことを行っている。

  このように、
  • からだを前傾して(あるいは手を前に出して)重心を前に移動する
  • 足で地面を後ろで押す
という2つの動作を行うことで、人間は陸上で前に進んでいるのである。

水中でやるべきこと

  人間が前に進む原理はわかったので、次に水中の場合について考える。

○重心を前に移動する

  水中で重心を前に移動するには以下の方法がある。
  • からだを前傾する。伸ばした手やからだを水に委ねることで前傾できる。
  • 伸ばす手の位置を下げる。重心は変わらないという説もあるが、これまでの指導経験ではほぼ確実(95%以上)に下半身が浮く。
  • 入水した手に体重をかける。入水する手は肘が曲がった状態で、入水する角度は鋭角である必要がある。
  • リカバリーで重心より後ろに手があるときは素早く動かす。重心より前に手があるときはゆっくり動かす。

○水を後ろに押す

  地面の摩擦の代わりに水の抵抗があり、摩擦の抗力の代わりに水の抗力を使う。従って水を後ろに押すことで前に進む。水を後ろに押す「力」は以下のような方法で得られる。
  • 手の投影面積を増やす。水の抵抗は投影面積に比例する。
  • 手を素早く動かす。一定速度に到達するまでの時間が短いほど加速が大きくなり、押す力も大きくなる。
  • 水を押す時間(または距離)を延ばす。上記2つの条件を満たしたうえで、時間や距離を延ばせば力は増える。

○陸上と水中の違いを考える

  最後に陸上と水中の違いを考える。
  • 水の抵抗は空気の840倍である。水中で前に進むためには、抵抗を減らすことを第一に考えるべきである。抵抗は投影面積に比例する。
  • 水は流体である。地面では摩擦により力が得られるが、水の場合素早く動かすことにより力が得られる。

「泳ぐ」ためには、以上のような点を脳が理解したうえで、手足に対してどのように動くか指令を出さなければならない。

2017年3月21日火曜日

大吟醸キックとレバレッジのかけ方を研究する

  今年の美しいクロールワークショップ(通称美クロ)が終わった。2008年3月に第1回の美クロを実施して以来、これで17回目になる。今回のテーマは、カイゼン技術を磨いて美クロレベルまで引き上げるというシンプルな内容であったが、みなさん美しい泳ぎになり満足されたようだ。

  美クロに参加するお客様はいろいろな面でこだわりを持っていらっしゃるのだが、足の姿勢や動作だけは見えない場所だけに意識が届かず、カイゼンポイントが多く見つかる。次の2つが主なポイントである。

1)かかとを引き上げてキックしている

  これは「蹴る」という陸上の動作を水中で行うときに現れる。陸上ではボールを蹴るときに、まずかかとを後ろに引き上げて蹴り幅を確保し、次に自由落下と足腰を使って足の速度を最大にしてボールに足を当てる。
 これを水中で行うと、ひざを曲げてかかとを引き上げることになり、大きな抵抗になる。また予めかかとを引き上げて、手の入水を待っているケースもあるが、このときにはバランスを崩してしまう。

○対応策

  脳が足に指示するのは「蹴る」のではなく「水を下に押す」ことである。陸上で言えば「ボールを足に着けた状態から前に押す」動作になる。押すための幅を確保するためにひざを曲げ、曲げると同時にひざの裏を素早く伸ばして足の甲で水を押す。

2)グライド姿勢で足が開いている

  性別や年齢、体型を問わず発生する。グライド姿勢で足が締められず、両ももや両ひざの間隔が開いていてゆるんだ印象を与える。

○対応策

  腰が回転するほど足のコントロールが難しくなる。肩と腰の回転角を分けて、腰をできるだけフラットにすることで足を締めやすくする。

両方の問題を一気に解決するツール

  かかとの引き上げと足が開く状態を一気に解決するのが、アンクルストラップの8の字足首巻きである。この状態でキックをすると、かかとを引きつけられないので蹴ることができなくなる。
 また両足の可動範囲が狭まることで、腰を斜めにすることが難しくなりフラットに近づく。結果として足が締めやすくなる。

○ひざの使い方から腰の使い方に

  ストラップを巻いた状態では、かかとを引きつけることができないのはもちろんであるが、ひざを曲げたキックも難しい。実際にやってみると足が沈む。ワークショップで実施したところ、みなさん両方のひざを曲げてドルフィンキックのようにして対応していた。
 そこで自分でも試してみたが、ひざを曲げるかぎり足の位置が変わるので、ストラップで引っ張られることがわかった。
 ストラップで引っ張られないようにするためには、ひざを曲げるのではなく腰からのうねりを作ればよい。このときドルフィンキックのように腰を上下させるのではなく、入水のときの肩の上下動から派生するうねりを使う。このうねりを腰で素早く切り返すことで、足に素早いスナップを作ることができる。
 イメージとしては、かかとを引きつけて「足で蹴る」からひざをゆるめて「足で水を下に押す」になり、さらにうねりを使って「足で水に乗る」ようになる。
 この結果足の大きさの50%の蹴り幅となり、大吟醸(精米歩合50%の日本酒をモチーフにして)キックを実現することができた。

○速いスピードでも水に乗ってラクに足を動かす

 うねりを使った大吟醸キックでは、足に力を入れることがほとんどない。速いスピードにおいても同様なので、足の動きがテンポアップを邪魔することもない。肩で派生するうねりを腰で加速して足に伝えるだけなので、足で使うエネルギーを減らすことができる。
 ストラップを取って泳いでみたが、ほぼ何もしないで足が水面近くにとどまっているのは新鮮であった。これまで足を動かさないときは上半身で前のめり感を上げる必要があったが、それも必要なくなった。

レバレッジのかけ方を練習する

  美クロワークショップではツービートキックのレバレッジについても試したが、必ずしもお客様全員に伝わったわけではない。個人レッスンであればタイミングを見ながら毎回合っているか伝え、微調整を加えることで正しいレバレッジのタイミングをわかって頂くことができるが、グループレッスンではキックのタイミングをずらすことを体感することが難しかった。
 そこで自主練習でレバレッジのタイミングを理解するステップを考え、試した。
  1. スイッチ姿勢のまま床を蹴って平らな姿勢になり、そのまま足を伸ばして滑る。従ってキックはしない。足が沈みそうになったら立つ。前後左右のバランスを調整して、スイッチ姿勢で足を伸ばして浮いている時間を増やすようにする。
  2. スイッチ姿勢のまま床を蹴って平らな姿勢になったら、スナップしてスイッチする。スイッチするまでは足を伸ばしておく。スナップにより入水する手を押し出すようにする。
  3. 2が安定してできるようになったら、スナップしてスイッチ後にリカバリーしてスイッチ姿勢を作り、足を伸ばしたままにする。沈んでも構わない。
  4. 3が安定してできるようになったら、さらにスナップしてスイッチする。以降スイッチ姿勢になったときに足が伸びていることを確認してから、スナップしてスイッチする動作を加える。
  このようにスイッチ直前まで足を伸ばしておけば、手の入水が始まるときに足の準備、肘の伸ばし始めで足を打つことで足がてこになり、手をさらに遠くに伸ばすことになる。こうすると足の蹴り幅に対して進む距離が格段に伸びるので、レバレッジ(てこ)をかけると呼んでいる。
 レバレッジがかかれば足を伸ばす時間が長くなるため、姿勢が安定するだけなく減速を抑えることもできる。より多くの方にレバレッジをかけてもらえるように、上記のステップをプライベートワークショップでも実施する。


 

2017年3月17日金曜日

ペース練習の実践

スイム 2350m

  効率的なペース練習として、様々なパターンを試しては運動強度(心拍数)と比べている。
 新しく組み立てた練習メニューを、ワークショップで使用する横浜の25mプールで試すことができた。

1)目標ペースの設定

  目標ペースは目標タイムをラップ数(壁から壁まで泳ぐ回数)で割る。1500mの目標タイムが30分であれば、25mプールでは60ラップなので30×60÷60=30秒となる。
 従って1500mの場合の計算は簡単で、目標タイム(分)=目標ペース(秒)となる。ただし実際には泳ぎが劣化するため、5%程度は速いペースにする必要がある。
テンポトレーナーのモード2の設定上、ペースは切り捨てで整数にする。

2)ベースペースの設定

  ベースペースは練習用のペースである。現時点で目標の距離を泳いだときの、最も速いペースを想定している。
 目標タイムが現在のベストタイムより10%速いとすれば、練習で最も速いタイムはベストタイムの5%落ちを想定して、目標タイムより15%遅いと考えることができる。そこでベースペースは目標ペースの15%落ちになる。目標ペースが30秒であれば、ベースペースは30秒×1.15=34秒となる。
 ただしこれは下限と考えたい。実際には泳ぎながら貯金の状況を確認して、ベースペースを1~2秒修正する必要がある。

3)テンポの決定 

  ベースペースが決まったら、25mをベースペースで着くようにして(壁をタッチして1秒以内にビープ音が聞こえるようにして)ストローク数を数える。ベースペース÷(ストローク数+2)でそのときのテンポが算出できる。この2はプッシュオフとひとかきに要する時間である。
 何回かテストする。ベースペースは遅めなので、テンポもゆっくりになる。
 今回のテストではベースペース26秒で16ストロークだったので、テンポは1.40秒になった。ベースペース25秒では1.35秒である。これでペース-ストローク数-テンポの関係が明らかになる。

4)テンポピラミッドの実施

  速いテンポに適応するための技術を身につけるために、テンポピラミッドを行う。テンポは上記のテンポ+0.15秒からスタートして、ストローク数を増やさないようにして-0.10秒まで速くする。
 ゆっくりしたテンポで加速を上げる泳ぎを作ることで、ペース練習に入っても空回りしなくなり、ストローク数を変えることでペースに対応できるようになる。

5)ベースペースで長く泳ぐ

  いよいよペース練習である。始める前に、ラップあたりのストローク数を決める。スタートは伸びるので他のラップよりもストローク数を1減らす。
 ベースペースはコントロールしながら泳げるので、ストローク数を決めたらそれを守るように徹底する。今回は16/17であった。

6)ペースを上げる

  ペースを1秒上げるごとに、ストローク数がラップあたり1増えるようにする。25mプールであれば短いのでストローク数1増加=ペース1秒短縮を維持することができる。

7)目標ペースで泳ぐ

  今回は26秒でスタートしたが、貯金が多すぎた(ターン後壁を蹴って2ストロークでビープ音が鳴る)ので1秒減らして25秒にするとともにストローク数を1増やした。25秒:17/18
 さらに24秒で50、50、100、200を行った。このときは18/19である。
 最後に目標ペースである23秒で50、50、100、200を行った。ストローク数は19/20である。あわてることなく貯金を1秒程度作ることができた。
 あとは200mを3本、4本と増やす流れと、400m、500mと距離を伸ばす流れを日替わりで行えば良い。

 このようにペース練習ではステップを作ることが大切である。単純にペースを1秒縮めただけでは、根性で速くしようとして成果が伴わなくなる。ペースを1秒縮めるときに、どのような形(ストローク数やテンポ)で実現するのかを明確にして、その通り泳ぐことでペースを保つ必要がある。

運動強度の考察

  心拍数の推移が下のグラフである。基本的に時間とともに心拍数は上がっているが、30秒でそのセット開始前近くにまで下がることがわかる。運動強度の高い練習を行うことで、かろうじて右肩上がりを保っている。急激に下がっているのは1分休んだときで、心拍レベルで言えばウォームアップ終了直後まで低下している。
 心拍数が上がるのは100mや200mを泳いだときである。高い状態を維持したいのであれば200mを泳ぐことは必須となる。
 心拍数を上げて練習することは、本番の状態に自分のからだを慣らすために重要である。効率的に心拍数を上げるためには、

  • 休憩時間は30秒を最長とする。短い距離のセットほど休憩時間を短くする。
  • ペース練習を、200mを最低距離としたセットで行う。




2017年3月1日水曜日

貯金を殖やして速く泳ぐ

ペース練習を本格的に取り入れてちょうど1年になる。主にスピードアップキャンプでお客様にペース練習の効果を実感して頂けるようになった。そしてほぼ同時期に取り入れた心拍計により、練習内容の強度を評価できるようにもなった。
ペース練習ではペースをどのように設定するかが大切である。グアム滞在最終日に、新しい設定方法に基づいて1500mを計測した結果をまとめる。

○ペース練習の前提条件

 ペース練習に入る前に、ペースを達成するための泳ぎをデザインする必要がある。具体的にはテンポとストローク数をいくつにするのかということである。そしてテンポとストローク数を決めた通りに泳ぐためのコントロール力が必要になる。
 そこでペース練習に入る前にテンポピラミッド練習を行い、テンポを遅くしたり速くしたりして、加速やなめらかさを上げておく。
 ピラミッドの範囲は±0.15秒、ストローク数の範囲はマイナス2(テンポが最も遅いとき),プラス1(最も速いとき)が理想である。

○ペースの設定

 ペースは壁から壁まで(1ラップ)の所要時間を秒で示したものであり、以下のような種類がある。

・目標ペース:目標タイムを達成するためのペース。目標タイムをラップ数で割るだけでなく、最低でも5%程度の劣化率を加味して1.05でさらに割る(例:長水路1500m目標タイム30分であれば30×60÷30÷1.0557秒)。
・ベストペース:現在当該距離を最も速く泳ぐことのできるペース。直近のレースの結果に基づいて計算する。
・基本ペース:ベストよりも遅いが、緊張感を持って泳げばこの程度のタイムは何度も出せる、というタイムに基づくペース。
・リラックスペース:このペースであれば目標となる距離を越えてさらに長く泳ぎ続けることができるというペース。

私の場合50mプールでは以下のようになる。
・目標ペース:43秒(5%の劣化率を考慮)
・ベストペース:46
・基本ペース:50
・リラックスペース:54

目標ペース以外のペースがわからない場合は、次のようにテストする。
1)テンポピラミッドを10本行う。通常の練習テンポ(なければ1.25秒)からスタートして、0.05秒ずつ3回遅くする。このときストローク数を最低1減らすように加速を上げる。通常の練習テンポ+0.30秒で泳いだら、今度は0.05秒ずつ速くして6回速くする。このときはもっとも遅いテンポで泳いだときのストローク数からできるだけ増やさないようにする。
2)最後のテンポで泳いだときのストローク数に3(プッシュオフからひとかき分)を足してテンポを掛ける。小数を切り上げて整数にする。これを基本ペースにする。
3)100mを泳いでペースを維持できるか確認する。壁に着いてからビープ音が聞こえればペース内で泳いでいる。これを貯金ができたと呼ぶ。
4)200mを泳いで貯金ができるか確認する。貯金が3秒以上ある場合はペースを1秒速くする。借金が続くようであればペースを1秒遅くする。

キャンプ終了後でからだが疲れているせいか、200mを基本ペースで泳いだときに貯金借金が0になった。そこで翌日の1500mタイムトライアルでは、あえてテンポトレーナーで着けて基本ペース+1秒(51秒)で泳ぐことで、何が起きるかを観察することにした。

○タイムトライアルでの発見

1500mの方針

テンポトレーナーにより51秒ペースで泳ぐ。基本ペースより遅いので、貯金ができたら貯金を殖やす。道具は以下を用意する。
a) 入水する手を肘の自由落下で素早く前に伸ばす
b) キャッチで水を支えて素早く入水する:入水てこ
c) 肘を使って素早くプルし、手を顔の前に運ぶ:肘てこ
d) 体幹を使ってプッシュの手を押し出す:体幹てこ
-負荷はa-b-c-dの順に大きくなる。
100mずつa-b-c-dの順番で意識するセットを3回繰り返す。
50mずつa-b-c-dを1回行う。
-残り100mは2ストローク毎の息継ぎでスパートをかける。

・泳いでいるときの観察

使う道具と貯金の増減の関係を調べることができた。ラクな道具ほど貯金は殖えない(速くならない)ことが1順目でわかったので、2順目以降は力の入れどころを強調して常に貯金が殖えるようにした。
最初はターンして1ストローク目あたりでビープ音が聞こえたが、2ラップごとに1ストローク貯金を殖やし、最後は30ストローク程度の貯金になった。

・結果

 ペースを完全に維持した場合の想定タイムは2530秒である。貯金を少しずつ殖やした結果タイムは2452秒となり基本ペースによる25分よりも速くなった。

 ラップタイムを見ると、300m以降は次第に速く泳ぐディセンディングができている。これは貯金を殖やそうと意識して、道具を使って実践したからである。
 一方500m800m近辺でタイムが落ちている。ストローク数が増えているので、集中が切れていたのであろう。何もなしのタイムトライアルほどの緊張感を持たなかったのが原因かもしれない。
 心拍ゾーン分布では、最も強度の高いZ5が約30%、次いで強度の高いZ440%、Z320%と理想的な結果になった。無理のない形で強度を上げることができている。



○まとめ

基本ペースよりも1秒遅くすることで泳ぎに余裕ができるだけでなく、ディセンディングも貯金という結果を伴って意識することができる。

このような練習を継続的に行いながらペースを嵩上げすることで、ベストペースで泳げるようにする。貯金ができるように泳げばベストタイム更新である。