2017年4月28日金曜日

年齢の数だけ100を泳ぐ

スイム 5200ヤード

  健康のために水泳を始めてから15年が経過し、今ではあらゆる意味で水泳が生活の大きな割合を占めている。水泳を始める前に比べて8kg減量することができ、いまでは血圧、血糖値いずれも良好である。もし水泳をやっておらず、カウチポテトを続けていたらと思うとぞっとする。
 52歳の誕生日を迎えて、いつものように練習して1日が終わるのも寂しかったので、100を52本泳いでみることにした。それも単に泳ぐのではなく、意味のある内容にしたかったので次のように泳いだ。

  • アップ:4本
  • ストロークコントロール:12本
  • テンポピラミッド:20本
  • ペース練習:14本
  • ダウン:2本

○休み時間の設定

  短い距離を繰り返して泳ぐときに気をつけなければならないのが休憩時間である。51回の休憩で30秒休むとそれだけで25分以上かかることになる。そこで15秒を基本として、ペース練習のみ30秒とした。

○ストロークコントロール

  4ラップのストローク分布は0:+1:+1:+2を基本とした。最初のセットの第1ラップが16ストロークだったので、以降は第1ラップを15, 14, 15, 16, 17に設定して各2セット泳いだ。
 ストロークコントロールはテンポの制約がないので、ストロークを減らすときにはゆっくり泳げばよい。正しい動作を行うことで加速が上がるように力を入れ具合を調整する。

○テンポピラミッド

  いつものように1.15秒からスタートして1.30秒まで落とし、そこから1.00秒まで上げた。1つのテンポで2回泳ぎ、1回目はテンポに合わせることに集中し、2回目は加速を上げてストローク数を減らす/維持することに集中した。

○ペース練習

  目標ペースより15%遅い23秒、22秒、21秒で4本ずつ、最後に目標ペースより速い20秒で2本泳いだ。途中でSwiMP3のバッテリーがなくなり集中力が切れそうになったが、毎回同じ場所でビープ音が聞こえるように意識してスピードを出した。
 ペース20秒でも借金を作らずに2本できたので、もう1本欲を出して泳ごうとしたところプッシュオフで足をつった。足をつりながら2本クールダウンに切り替えて泳いだ。
 総時間1時間35分、移動時間は1時間17分であった。休憩の平均は21秒である。

  100ヤード52本を泳いで目標を達成することができた。ラスト前に欲を出して足をつったことから、もう若くないので無理をしてはいけないということ、欲を出さずに当初決めたことを確実に行うべきであるということを学んだ。これから10年は同じように年齢分だけ100を泳いでみようと思う。


 

2017年4月25日火曜日

【プライベートWS】なぜ「すぐに」上達するのか

  プライベートワークショップは、2回のプールセッションで「これまでより遙かに速いスピードで」上達していることを、感覚的および客観的に理解していただくことを目標にしている。

  カリキュラムは「問題を発見して解決する」パートと、「新しい技術を身につける」パートに分かれている。ここでは問題を発見して解決するパートについて注目する。

  お客様の問題のほとんどは、

  • 水の抵抗が大きい。
  • 進行方向以外の方向に力を使っている。
  • 筋肉を緊張するタイミングがわからない。
である。そしてこれらの問題を解決するのに、エンドレスプールが非常に効果的である。

○水の抵抗が大きい

  エンドレスプールは水の流れに逆らって泳ぐ。つまり水がからだを後ろ向きに押す。下半身が下がると水に当たる面積が増えるので、後ろに押される力が強くなる。さらに水の流れは下に向かうため、足が水の流れに巻き込まれてしまい、泳いでいると足が床に着いてしまうケースも少なくない。

 ここで下半身を上げられれば、水を受ける面積が減るので後ろに押される力が弱くなる。この改善効果は通常のプールよりも遙かに大きい。

 また水の抵抗が減るので速く泳げるようになることもわかる。これまでより速い水流で泳ぎながら、疲れは全くないということで「ラクに速く泳げる」ことが実感できるのである。


○進行方向以外の力

  エンドレスプールは水が後ろに流れる。もし入水する手を前から見て斜め(からだの中央)に入れると、水の流れで横に押されてしまう。これを続けると左右にふらふら泳ぐようになる。

 そこで中央に向かって手を伸ばすのではなく、肩の延長線に沿って手を伸ばすと、進行方向に沿って手が伸びるので横に押されなくなり、結果として左右の安定感が増す。

○筋肉を緊張させるタイミング

  まず水上の動作については、ほぼ全ての段階において筋肉を緊張させる必要はない。肘や手首を意識してゆるめることで、腕全体をリラックスさせることができる。
 次に水中の動作については、エンドレスプールの前の鏡を見る。スイッチ後に眉毛の下に手が来るときに、肘が直角になるようにする。
 前腕をこの位置に動かすと、エンドレスプールの水の流れを運ぶことになるので水を運ぶ感覚が上がる。前腕に当たった水をそのまま後ろに押す感覚も得ることができる。

 このようにクロールの主な問題を解決するときに、正しい動作を行うと違いがよくわかるというのがエンドレスプールのメリットであり、上達も早くなるのである。


2017年4月19日水曜日

借金返済の道筋を立てる

スイム 4000yds

  毎週末はそれまで練習してきた成果を確認するためにテストを行っている。先週はペース22秒で100を20本泳ごうとしたが、1本目の1ラップ目から借金になり、復活することはなかった。
  このため3本目から23秒にペースを落としたものの、3ラップ目には借金に突入した。この最大の原因は「テンポピラミッドを最初に行わなかった」ことである。テストということで途中の練習を省略したのだが、予めテンポとストローク数をコントロールしておかないと、ペース維持が難しいことが分かった。

ストローク数のコントロールを中心に

  そこで今日の練習では、テンポピラミッド(10×200)においてストローク数に焦点を当てた。1.15秒から0.05秒刻みでゆっくりする段階では、ストローク数を18→17→16と減らすことに注力した。具体的には動作を素早く行い、グライド時間をこれまで以上に長くする。
 テンポを速くする段階では、4つの道具(入水、キャッチ、プル、プッシュ)毎に力を入れる部分を強調して、ストローク数が維持できるようにした。この結果16ストロークでテンポ1.15秒まで戻ることができた。
 さらにテンポを速くする段階では、ストローク数の増加を2までに抑えてなめらかさを上げた。この結果通常3分台のタイムが2分55秒程度まで速くなった。

練習ペースの距離を延ばす

  練習ペースは目標ペースより8%遅い22秒として、100を2回泳いだ。1回目は確実に貯金ができるようにオーバーペースとして、2回目はリラックスして貯金ぎりぎりで泳いだ。
 これまでは4本泳いでいたが、コントロールができる確信が持てたので200に移り2回同様に泳いだ。200でもリラックスして貯金が出きたので、次に300を泳いだ。練習ペースではコントロールできると判断したら本数を増やすより距離を延ばす方がよい。これは3分以上泳ぎ続けないと心拍数が高い状態を作ることができないためである。最終的には500(1本)まで延ばす必要がある。
 貯金を維持するために、力を入れる時間をできるだけ短くする代わりに強さを上げた。この結果300でも貯金を維持することができた(敢えて増やしてはいない)。

目標よりも速いペースに挑戦

  4つの道具において、力の入れ方を意識して泳ぐことで練習ペースでうまくいった。そこで今日は目標より8%速いペースである19秒で50を2本、100を2本泳いでみた。
 前のセットよりもラップあたり3秒速くなるので、かなり力が入る。それでも50の2本目は借金のできない範囲でゆるめてみて、それを次の100に活かしたところ練習での自己ベスト(いろいろな組合せで長い距離を泳ぐなかでの100の最短時間)を出すことができた。


  心拍数の推移を見ると、テンポピラミッドを10本行っているときには140からスタートして155まで上がり、練習ペースの練習では160まで上がっている(ただし100を泳いだときはテンポ練習の200よりも下がっており、運動強度は小さい)。
 目標ペースの50では心拍数が急激に上がるが、短時間で終わるのでペース練習の100並みの強度しか得られていない。しかし100を泳いだ瞬間に急激なペースで上がりつづけ、172に達している。最大心拍数の理論値は168なので、理論値を越えるほどきつかったわけである。

 調子の悪いときの状態を冷静に分析して対応することで、借金を返済するだけでなく、さらに高いレベルに引き上げることができた。目標ペースでより長く泳ぐ自信にもつながった。


2017年4月10日月曜日

【プライベートWS】トライアスリートが速く泳ぐためには

  プライベート・ワークショップで、「速く泳ぎたいのです」と真剣な顔で話すトライアスリートが多い。そんなときは「どのくらい速く泳ぎたいのですか?」と聞くことにしている。

1.1シーズン4カ月で10%を目安にする

  現在よりも20%速く泳ぎたい、という場合には、2シーズンかかることを理解してもらう。25m30秒ペースが24秒で60ラップ泳げるようになるというのは、夢でしかない。まず10%を目標にすることで、実現可能なステップを策定することができる。

2.ペースに換算する

   次に、全体のタイムではなくペースで考える。普段はプールで練習するであろうから、プールの長さに合わせて目標タイムをペースに換算する。例えば目標が1500m30分の場合、25mプールで考えると目標を達成するためのペース(目標ペース)は30×60÷60=30秒になる。つまり25mを30秒で60回泳ぎ続ければ、1500m30分という目標が達成できるのである。

3.2つのアプローチを決める

  目標ペースで目標の距離を泳げば目標は達成できる。このために2つのアプローチで練習する。
  1. 目標の距離を劣化せずに泳げるペースを引き上げる。
  2. 目標のペースで泳げる距離を延ばす。
  最初のアプローチであるが、ベストタイムの10%アップを目標として設定しているのであれば、ベストタイムのペースより5%遅いペースであれば目標の距離を泳ぐことができる。現在1500m33分であれば、25m35秒ペースなら1500m泳ぐことができるであろう。
  ここで大切なのは、劣化をしないために使う道具を磨くということである。続けて泳ぐよりは、短い距離を繰り返し泳いで合計で目標の距離に達するようにする。1回に泳ぐ距離は400m程度を最長とする。泳げるようになったらペースを1秒引き上げて、同じ練習を繰り返す。
  次のアプローチは、目標のペースで25mや50mを繰り返し泳いで、よりラクに泳ぐ方法を身につけるということである。こちらは最初のアプローチよりも短い距離のセットとして、十分に休み時間もとって(それでも最長60秒)確実に目標ペースで泳げるようにする。こちらは次第に泳ぐ距離を延ばし、最終的にセット合計で目標の距離を泳げるようにする。
 練習の段階的な目標は以下の通りである。

  1. 最初は目標より15%遅いペースで目標の距離をセットで泳げるようにする。泳げるようになったらペースを1秒引き上げて繰り返す。
  2. 最初は目標のペースで、セット合計で目標の距離の20%程度を泳げるようにする。泳げるようになったらセット合計の距離を延ばす。

4.目標ペースで泳ぐためのストローク数とテンポを決める

  3の練習と同時進行で、ストローク数とテンポをコントロールする力を高める。具体的には目標ペースで泳ぐためのストローク数を決めて(そうすればテンポも決まる)、そのストローク数の前後、テンポの前後で変化させながら決めた数字(ストローク数やテンポ)で泳げるようにする。

  以上が速く泳ぐためのシンプルなステップである。このステップのメリットは、上達度合いが数値でわかることである。
 なおこれらの練習を行うためには、テンポ・トレーナー・プロが必須である。テンポ・トレーナー・プロの持ち込みが許可されないプールでは、速く泳ぐための練習は限られる。また数値で上達がわかる仕組みを取り入れることができない。


2017年4月7日金曜日

【プライベートWS】掻く、蹴るから「水を押す」へ

  大人が水泳を上達させるには、脳の果たす役割が非常に大きいと考えている。脳がどのように情報を解釈してからだの各部位に指令を出すのかが、水泳上達の鍵となる。

○手で「掻く」

  脳が手に水をかくように指令を出すと、手は陸上で得られた知見に基づいて次のいずれかの動作を行う。

  • (a)「雪かき」のように、からだの前にある水を手前に引き寄せる。
  • (b)かゆいところを掻くときのように、肘を引いて手と前腕を後ろに動かす。
  (a)の雪かきをするときは、雪や地面との摩擦を使って雪かきを固定してから、雪かきを手前に引くことで雪を集める。水中で同じことをしようとすると、手を水中でひっかけて手前に寄せることになる。しかし実際は手が水の中で沈んでしまう(摩擦や地面がない)ので、肘が伸びた状態で手が下に動き、棒がきの状態になる。
 (b)のように水の中で肘を引くと、水の抵抗が減って速く動かすことができるものの、抗力となる推進力も減ってしまう。
 従って1も2も水の中では効果的な動きとは言えない。脳は手に対して、「水をかく」ように指令してはならないのである。

○足で「蹴る」

  同じことが足にも言える。脳が足に対して「蹴る」ように指令を出すと、足は陸上で得られた知見に基づいて、以下を順番に行う。

  1. 立ってボールを蹴ることをイメージして、まずかかとを後ろに引き上げてボールとの距離を作る。
  2. 足の自由落下、足の筋肉および腰のひねりを使って最大のスピードで足がボールに当たるようにする。
  3. ボールに当てた後は、できるだけ遠くに蹴るように足を前に運ぶ。
 まずかかとを引き上げることで、足が水上に出てしまう。もともとボールがないため、どこがインパクトポイントかわからない状態となり、水上に出た足は水面をインパクトポイントに設定してしまう。そして最大のスピードで水面に足が当たり、大きな水しぶきが上がる。ここまでの動作は足の位置を水面に近づけることにも、推進力にも貢献しない。

  ビデオを見ると、この人はかいているな、この人は蹴っているなというのがすぐにわかる。脳が具体的な指令を出さないので、手足はこれまでの知見に基づいて精一杯努力しているにもかかわらず得たい結果が得られない状態である。このようなときは手足を責めてはいけない。管理職である脳が的確な指示を出せるように知識を得なければならないのである。

○掻く、蹴るから「水を押す」へ

  まず「水を押す」という考え方に切り替える。次に押す場所=水が当たる場所を決める。最後に水を押す方向とどのように押すかを決める。
 手の場合、手のひらと前腕に水を当てて後ろに押す。
  1. 手は水面に対して垂直面を維持することで、水に当たる面積を最大にする。水面に対して前腕が垂直である(指先がまっすぐ下を指す)必要はなく、垂直面に収まっていればよいので肘は鋭角になる。
  2. 前に進みたいので、水を後ろに押す。下に押さないように肘や肩をコントロールする。
  3. 陸上で物体を押すのと違い、水中では筋肉を緊張させても水を押すことにならない。押す=力を与える=手を素早く動かす(ニュートンの第2法則)ために、関節をゆるめて素早く動かすための筋肉を特定して使う。
  足の場合、 まず足の位置を水面に近づけて水の抵抗を減らすことを最大の目的にする。足の位置を水面に近づけるために、足で水を下に押す。
  1. ニュートンの第2法則を使って効率良く足で水を押すには、素早く動かせる場所を特定する必要がある。ここでは足の甲と決める。
  2. 足首の先が素早く動けばよいだけなので、蹴り幅は足の大きさ程度になる。この蹴り幅を作るには、ひざをひざの厚みだけ曲がるようにゆるめればよい。足首から先を素早く動かす=足首が運動の支点になるので足首はできるだけ動かさない。
  3. ひざをゆるめて蹴り幅を作ったら、ただちにひざの裏を素早く伸ばすと同時に足首から先をゆるめる。こうすることで足首が支点、ひざが力点、足の甲が作用点となるてこを作ることができる。
  4. 足首から先がゆるんでいれば、足の甲で水を素早く押した反動で水が足を押し上げる。あとは足を締める意識だけで、足が水面近くに上がってくる。
  どのような目的に基づいて、どこをどのタイミングでどのように動かすのかを脳が理解し、手足に指令すれば、手足は指令した通りに必ず動いてくれる。得たい結果が得られなかったら、手足への指令の内容を変えればよい。
 プライベート・ワークショップはこのプロセスを一人でじっくり学習することができる。このようにして得たい結果が得られたときに、上達したと感じることができるのである。

2017年4月3日月曜日

うねりを使う

スイム 4000yds

  4月に入り4000ヤード(3.6km)を合計距離に設定する。気温も18度近くまで上がり、晴天の中屋外で泳ぐのは非常に気持ち良い。
 先日の道具箱講習会でうねりを使ってクロールを泳ぐお客様がいらした。自分の中ではうねりは最終兵器と考えていたので、まず文章にしておく。

○クロールのうねりとは

  うねりとは伝搬する波のことで、水泳では上下動が全身において伝搬することである。うねりを使う泳ぎとしては平泳ぎとバタフライが挙げられる(ただしTIスタイルではうねりを使わない)が、ここではクロールのうねりに注目する。
 クロールでは、頭の上下動を使ってうねりを作ってはならない。入水するときの肩からスタートする。肩が最も高い位置に達したら手を入水し、高い位置を後ろに伝搬しながら(背中をうねりながら)手を前に伸ばす。このうねりを支えにして、手を伸ばすスピードを上げる。

○プッシュとの組み合わせによる「てこ化」

  うねりはプッシュと組合せることで、さらに大きな推進力を生み出す。手の入水直後はうねりが始まった直後でもあるが、このときに水中の手は眉毛の下にある。ここで水中の手を「菱形」(顔と親指の距離が30cm、顔の中央線から中指まで7.5cmの距離、肘は直角)にしておけば、水中の手は最大の推進力を出すことができる状態になる。
 この状態でうねりを使って入水した手を素早く伸ばすことで、この手が力点として働き水中の手が作用点となり、水中の手でさらに多くの水を押すことができるようになる。タイミングとしては、入水→うねり→入水の手を伸ばす→水中の手で水を押すの順番になる。

○うねりのメリットとデメリット

  うねりは小さなからだの動きなので、エネルギー消費量も小さい。また大きな背中の筋肉を使うので、疲れることもない。毎ストロークうねろうとするとうまくいかないが、4ストローク毎の息継ぎで肩の位置が通常より高くなるときだけうねりを使えばほどよい間隔になる。
 デメリットは上下動によりテンポアップが難しくなることだろうか。これも4ストローク毎にすれば影響が小さくなる。

○うねりの作り方

  最初はドライランドでからだ全体のうねり方を練習する。鏡の前で横を向いて立ち、頭を前後に動かしてその動きを背中-腰-ひざまで伝える。動かし方がわかってきたら、頭の動きを最小限にする。
 水中ではボディドルフィンの練習が効果的である。両手をももの前に置いたまま、うねりだけで進む。最初は全く進まないので、フィンを使った方がからだの動かし方がわかりやすい。前に進むための上下振幅やうねりの周期を練習しながら理解する。
 このように両肩を均等に動かすボディドルフィンができるようになったら、クロール用に片方の肩だけを動かしてボディドルフィンする。ボディドルフィンで進むことではなく入水する手を加速することが主な目的になるので、下にいくほど振幅を小さくする。

○うねりに適したレベル

  タッセイレベルである。さらにツービートキックで吟醸レベル(足の大きさの60%×2の振幅)、水中動作でスカリングも使えるようになってから挑戦すべきであろう。
 手足のコントロールが不十分なままでうねりを取り入れると、入水前加速となり水しぶきが上がり格好悪い。また頭が上下動するとノッキングとなりこれも格好悪い。


 練習内容はプライベートワークショップに参加のお客様に提出しているメニューとほぼ同一であり、ステップ3を実践している。目標ペースは20秒/25ヤード、練習ペースは22秒である。距離合計は4000になるように調整している。


【プライベートWS】管理職研修

  プライベートワークショップでは、まず15分程度のカウンセリングを行う。お客様が会社勤めや自営業の場合には、理解を早めるために「管理職研修」という隠喩(メタファー)を使った説明を行っている。

○管理職としての脳

  管理職とは「脳」のことである。部下はからだの各部位と考える。自分の意志でからだを動かすとき、脳がからだの各部位に指令を出している。ただし普段の生活ではこれまでの経験の蓄積があるので、脳が細かく指令を出さなくても手足が自主的に動く場面の方が圧倒的に多い。
 つまり脳は優秀な部下を擁した管理職といえる。部下が管理職の意向を「忖度」して行動して結果を出すので、管理職の資質があまり問われない。
 そのような状況のなかで泳ごうとするとどうなるか。管理職である脳は、部下である手足に対して細かい指示を出さない。それでいて脳はきれいに泳いだり、速く泳いだりすることを結果として期待する。
 一方部下である手足は、脳から発せられた「手でかく」「足で蹴る」「呼吸をする」という言葉に従って、これまでの経験に基づいて動作しようとする。ところがこれまでの経験は全てが陸上で得られたものであるので、水中ではうまく動くことができない。そうなると脳は得たい結果が得られず不満に思い、手足のせいにする。
 うまく泳げないのは、手足が思うように動かないのが理由ではない。手足が思い通りに動くように、脳が指示できていないのが理由なのである。

○管理職研修とは

  水中で動くという、これまでの環境とは全く異なる状況で手足を使わなければならないことを脳がまず理解し、手足にどのように指令を出せば得たい結果が得られるのかを理解することが管理職研修の内容である。得たい結果を得るために伝える内容を決めるというのは、コミュニケーションの本質でもある。脳と手足のコミュニケーション方法を学ぶといってもよい。
 研修には次のような内容が含まれる。
  • 脳が手足に対して指令を出すことで、手足が動いていることを理解する。脳が得たい結果を得るためには、手足に対して適した指令を出す必要がある。
  • 動作について、脳が理解する=納得する。脳が理解しなければ手足に指令を出すことができない。水泳についての様々な動作の理論的背景を説明する。
  • 一貫性のある指令を出すために、言葉を見直す。常に同じ指令を出せるようにするためには、言葉にする(文字化する)必要がある。これまで使っている言葉が適切かどうか判断して、得たい結果が得られるような言葉を選ぶ。

  この後に続くドライランドリハーサルでは、からだの各部位に対して指令する内容をストロークフェーズ毎に細かく分けて説明する。お客様にはそのときの動かし方を、自分の言葉で説明してもらうことで脳からの指令に置き換える。こうすると理解が深まるだけでなく、レッスン後の再現性も高くなる。
 プールセッションでは指令した内容と結果との差についてビデオを見ながら理解してもらう。この差を埋めるために指令をチューニングすることで、再現性のある動きが可能になる。

 このように脳の活用を前面に出したレッスンを行っている。まだ実験段階であるが、これまでのレッスンよりも進行が早く理解度も上がっている。

2017年4月2日日曜日

【プライベートWS】泳ぐとは?

  これまでの指導の総集編として、プライベートワークショップで説明した内容について紹介する。

  プライベートワークショップは通常のワークショップに比べて時間のコントロールがしやすいので、私の水泳に対する知見を説明する場として活用している。お客様は水泳を上手になるためにわざわざ松戸まで足を運んでくださるので、できるだけ丁寧に説明して、脳から上達して頂くようにしている。

  今回のテーマは「泳ぐとは?」である。そもそも泳ぐとは何であろうか。泳ぐとは、
  1. 水中で(浮いた状態で)
  2. 前に(方向)
  3. 進む(動く)
ということである。泳ぐためには、上記の123全てを考慮して脳が手足に何をするか命令する必要がある。

陸上に置き換えて考える

  人間は陸上で生活しているので、手足に命令する内容を決めるにあたってまず陸上に置き換えて考える。
  1. 陸上で
  2. 前に
  3. 進む
とした場合、何をするであろうか。お客様5人に聞いたところ「足を動かす」が主な答えであった。ところがじっくり考えてみると、足を動かす前に「からだを前傾する」という動作があることに気がつく。前傾しないで足を前に出すのは、コントで演じられる泥棒だけである。

  それではからだを前傾するのはなぜか。重心を前に移動するためである。前傾して重心を前に移動し、一番不安定になる状態で足を一歩前に出すことで人間は前に進むのである。これは歩くときも走るときも同じである。従って、「前に進む」ために「重心を移動している」ことがわかる。

  次に陸上では一歩足を出すのであるが、そのときには足で地面を押して、地面からの摩擦で得られる抗力で足が前に出る。つまり「前に進む」ために、「足で地面を後ろに押す」ことを行っている。

  このように、
  • からだを前傾して(あるいは手を前に出して)重心を前に移動する
  • 足で地面を後ろで押す
という2つの動作を行うことで、人間は陸上で前に進んでいるのである。

水中でやるべきこと

  人間が前に進む原理はわかったので、次に水中の場合について考える。

○重心を前に移動する

  水中で重心を前に移動するには以下の方法がある。
  • からだを前傾する。伸ばした手やからだを水に委ねることで前傾できる。
  • 伸ばす手の位置を下げる。重心は変わらないという説もあるが、これまでの指導経験ではほぼ確実(95%以上)に下半身が浮く。
  • 入水した手に体重をかける。入水する手は肘が曲がった状態で、入水する角度は鋭角である必要がある。
  • リカバリーで重心より後ろに手があるときは素早く動かす。重心より前に手があるときはゆっくり動かす。

○水を後ろに押す

  地面の摩擦の代わりに水の抵抗があり、摩擦の抗力の代わりに水の抗力を使う。従って水を後ろに押すことで前に進む。水を後ろに押す「力」は以下のような方法で得られる。
  • 手の投影面積を増やす。水の抵抗は投影面積に比例する。
  • 手を素早く動かす。一定速度に到達するまでの時間が短いほど加速が大きくなり、押す力も大きくなる。
  • 水を押す時間(または距離)を延ばす。上記2つの条件を満たしたうえで、時間や距離を延ばせば力は増える。

○陸上と水中の違いを考える

  最後に陸上と水中の違いを考える。
  • 水の抵抗は空気の840倍である。水中で前に進むためには、抵抗を減らすことを第一に考えるべきである。抵抗は投影面積に比例する。
  • 水は流体である。地面では摩擦により力が得られるが、水の場合素早く動かすことにより力が得られる。

「泳ぐ」ためには、以上のような点を脳が理解したうえで、手足に対してどのように動くか指令を出さなければならない。