2018年6月2日土曜日

ラクに滑って泳ぐための技術 2



ラクに滑って泳ぐ技術として、後半は滑ることに焦点を当てて整理する。

○滑って泳ぐ技術とは

「滑っている」というのは、推進力を加えなくても前に進んでいる状態のことを指す。
最も簡単にイメージできるのは、アイススケートやローラースケートである。
これらのスポーツにおいて滑っているときの特徴は以下の通りである。
  • 摩擦の小さい氷や車輪を使っていて、地面から受ける抵抗が小さく減速しにくい。
  • 減速するまでの時間が長いので、推進力を加える間隔も長くなる。
  • 推進力を生み出すのは体重の移動と地面に対して押す力である。
従って水泳において滑るためには、以下のようなことを技術して身につければよい。
  • 水の抵抗を減らす。
  • 減速するまでの時間を延ばす。
  • 体重移動と水を運ぶことで推進力を生み出す。

○水の抵抗を減らす

水の抵抗は投影面積に比例する。投影面積が増える最大の原因は下半身が下がることなので、下半身が下がらないようにすればよい。方法は2つである。
  1. 前に移動しながら体重を前にかける。
  2. キックで足を浮かせる。
1については、体重を前にかけることが感覚的に理解できればいつでも使うことができる技術である。顔と胸で水を押すというイメージでも良い。ここで重要なのは、伸ばした手の側に体重をかけるのではないということである。横方向ではなく前に体重をかけることで、下半身を浮かせることができる。
2については、足が浮くのに必要な足の動かし方を身につければよい。これは普段考える4分の1~5分の1の力で済む。前を進む目的を取り除けば、キックはものすごくラクにすることができる。

○減速するまでの時間を延ばす

水の抵抗を減らすことで減速しにくくなるが、推進力を加えるタイミングを遅くすることで滑る時間をさらに長くすることができる。具体的にはリカバリーの手を入水するまで、水中の手を伸ばしてグライド姿勢を維持する。
さらにタイミングを遅らせて、手を入水して伸ばしてから、反対の手を動かす「キャッチアップ」にすると、滑る時間は長くなるが両手を同時に動かすことによる加速が得られなくなり、手のかき動作だけで推進力を作る必要がありラクには泳げない。
従って「ラクに」「滑る」を両立させるためには、手の入水で両手を同時に動かす「スイッチ」のタイミングが最も適している。

○体重移動と水を運ぶことで推進力を生み出す

体重を前にかける動作を行うことで、重心が前に移動して滑ることができる。泳いでいるときは常に体重を前にかけるようにする。
また手で水を後ろに運ぶことでも推進力が生まれる。手のひらの向きを正しい形にして水を運び続けることができれば、力を入れなくても推進力が生まれる。

ワークショップでは「ラクに泳ぐ技術」「滑って泳ぐ技術」についてドリル形式で身につける。グループレッスンにより効果が得られた後、カリキュラムとしてパッケージングしてオンラインスクールで提供する。

90分泳ぎ続ける

スイム 5650 yd

来週より日本出張で練習時間が大幅に減ってしまうので、たっぷり泳ぐことにした。
カリフォルニアはメモリアルデイ(戦没将兵追悼記念日、5月最終月曜日)が夏の入口になる。大概の公営プールは次の週末から夏営業となり、日曜日もオープンして子供用プールも運営を始める。
本格的な夏を迎える前に練習しておこうとする大人も増えるので、1コースを専有して長く泳ぐのは今日が最後である。ということで90分続けて泳ぐことにした。

泳ぐためのコンディション


  • テンポトレーナー・プロを1.15秒に設定。これはリラックスして泳ぎ続けるテンポである。
  • MP3プレーヤー:耳栓も兼ねており非常にコスパが高い。

泳ぐためのプラン

  • 90分を30分ずつ3つに区切る。
  • 1500m(1650yd)を26分程度のペースで泳ぐ。最初の30分はフォームを意識してゆっくりめ、次の30分は速く泳ぎ、次の30分は疲れに対応する。


最初の30分

テンポ練習をしばらく行っていないためか、最初の100まではテンポがとても速く感じた。空回りしないように水中ストロークの軌跡を短くして体重を前にかけることを意識した。
テンポが合ってきたら、正しい入水場所、水中の手のひらの向きを意識して泳いだ。
1650 ydの折り返しは26分30秒でほぼ予定通り。ゴーグルに水が入るので300毎に水抜きを行った。

次の30分

肘が痛み出す。水を前腕で引っ張る意識が強いことが原因である。1時間以上泳ぐ場合にこの引っ張りは要注意である。疲れてくるとグリップが一気に緩んで空回りする。最初の30分では17ストロークを維持していたが、肘が痛み出してからは19ストロークまで落ちた。
水を引っ張らずに手のひらに水を当てて、それをできるだけ長い距離運ぶように意識した。

最後の30分

意識をしないとすぐに19ストロークまで落ちる。疲れてきたときの最初の対策は、体重を前にかけることである。からだの中央に体重をかけながら、伸ばす手の位置を下げることで「手に体重を乗せた」状態を作る。手に当たる水の強さを大きくすることができる。
ほぼ予定通りのペースで75分泳げたので、残り15分は10%速くした。18ストロークを維持してキャッチやプルに使うエネルギーを増やした。

1時間31分泳ぎ、距離は5650 ydであった。平均ペースは24秒/ラップで、長時間泳ぐため慎重に泳いでペースが遅くなった。今後長距離泳についても練習して、22.5秒ペースで6000 yd泳げるようにしたい。

2018年5月19日土曜日

長く泳ぐときに起きるトラブル

スイム 4850yds

週末は長時間を続けて泳ぐことにしている。
今日は70分を続けて泳いで、長く泳ぐとどのようなトラブルが起きるかを観察した。
これらのトラブルは集中している泳いでいるときに重大な阻害要因となる。
トラブルを未然に防げるものは防ぎ、発生が避けられないものはダメージを最小限に抑える工夫が必要である。

1.ゴーグルが曇る

ゴーグルは曇る。曇り止め機能のついたゴーグルでも、2,3回で曇るようになる。
プールでは水を中に入れてすすげば曇りがとれるが、海では絶対にしてはならない。
このトラブルは「曇り止め」を使うことで防ぐことができる。
曇り止めを使うときの手順は以下の通りである。
  1. 最初に曇り止めを塗る。スプレータイプより液体を塗るタイプが良い。レンズ内にまんべんなく塗る。レンズ内に汚れが付かないように、指を使わずに曇りだけで伸ばす。
  2. 水道水で浸す。レンズの正面部分が隠れる程度に水を入れて、あとはゴーグルを回して浸透させる。決してプールの水でやってはいけない。化粧水などを入れる旅行用のボトル(やわらかいタイプ)の小さいものを用意すれば、水道を探す必要がなくなる。
  3. 水をなじませる。曇り止めの成分は界面活性剤(洗剤)である。レンズ面に水の薄い膜を張ることで曇らないようにしている。レンズ面が濡れたら水を切る。
  4. ゴーグルを装着してから水を完全に切る。水が残っていると石けん水となり、目の中に入るととても痛い。装着してから下側に隙間を空けて、中の余計な水を完全に切る。
  5. 外さない。内面が乾くと曇り止め機能が終わる。ゴーグルを装着している限りは目が出す蒸気で内面は湿ったままなので曇らない。外さない限り7時間はもつ(個人的な経験より)。

2.ゴーグルがずれる

プールでは飛び込まない限り発生しないが、オープンウォータースイムやトライアスロンのレースでは他人とのバトルでゴーグルがずれる可能性がある。最初のバトルでゴーグルを飛ばされ、結局みつからずにリタイアしたというケースもある。プールでもプッシュオフを繰り返すことで発生する可能性がある。
ゴーグルがずれることを防ぐには、最初にゴーグルを着けてからキャップを被るのがよい。飛び込みのないオープンウォータースイムではこれを行っている人はあまりいないのだが、バトル対策、さらに以下のキャップ内の空気抜き対策としても「内側ゴーグル」は重要である。

3.キャップがずれる

シリコンやラバーなどの密閉型のキャップを被った場合、頭皮の呼吸によりキャップ内に空気がたまり、キャップがずれてくる。密閉型キャップに空気が入ると、頭にしわだらけのこぶができたようになってとてもみっともない。憐れみを感じるほどである。
対策は3つある。
  • 定期的に水を入れる。頭頂部を手で押して空気を脇に押し出したら、キャップの両耳の脇を引っ張って空気を抜くと同時に水を中に入れる。ゴーグルのストラップがキャップの外側にあるとゴーグルに水が入るので、ストラップを着けてからキャップを被る。なおラバーキャップは引っ張りすぎると裂けるので、レース用に支給されたキャップの場合は注意して水を入れる。
  • 二重にする。レース用キャップを被る必要がある場合に効果的である。空気が入ることがほとんどなくなるだけでなく、保温用にも大変効果的である。ただし二重キャップがルール上できないレース(ドーバー海峡横断)もあるので事前に調べる必要がある。
  • メッシュキャップにする。メッシュの場合は輪郭部分がきつく、その他の部分の締め付け力が弱い。このきつさをきらう人も多いので、メッシュキャップを使うときは事前に被ってみて長時間堪えられるか試す必要がある。なお当然のことながら保温効果はない。

4.耳栓がゆるくなる/痛くなる

スイマーにとって一番弱い場所は耳である。プール内の雑菌が繁殖しやすいので、耳の中に水が入ることを防ぐのは健康増進手段として水泳を続けたい人にとって必須である。
耳栓には「耳の中に入れる」タイプと、「耳の穴を塞ぐ」タイプがある。耳の中に入れるタイプは長時間入れると痛くなる場合があり、塞ぐタイプはゆるくなってはずれることがある。
耳が痛くなる場合は塞ぐタイプ、はずれがちな場合は入れるタイプを試す。
なお初夏や秋など、水の冷たい時期にウェットスーツを着て泳ぐときも耳栓は必須である。耳の中が低温に一番弱いためである。


5.頭の中が白くなる/集中できない

今回は50分を越えた頃から集中できなくなった。
30分以上泳ぎ続ける場合、集中し続けることは不可能である。そこで一旦リセットする意味で、敢えて何も考えずに泳ぐことを100程度は行ってもよい。その後でストローク数を減らす目標を立てて、そのために加速を上げる道具を具体的に使う。
500ずつで100程度のブランクを設ければ、フレッシュな気分を繰り返してスピードも維持できる。

ちなみに最近はいつも防水MP3プレーヤーを使っている。
これまではFinisの骨伝導タイプを使っていたが、充電器との接触部分が腐食して半年ももたなかったので、初めて耳に入れるタイプを使ってみた。
最初は慣れなかったが、耳栓を兼ねることができるので大変良いことがわかった。
ただし水が入ると聞こえが途端に悪くなる。1時間程度が限界か。

2018年5月8日火曜日

ラクに滑って泳ぐための技術 1

「ラクに滑るクロール・ワークショップ」のカリキュラムをデザインしている。
ここ6カ月間の指導経験や練習経験を形にするためにこのワークショップを企画した。
以下のような視点で集中的に技術を磨くことで、これまでのワークショップ以上の効果が得られると期待している。

○ラクに泳ぐ技術とは

ラクであると感じるためには、ラクでない状態を取り除けばよい。ラクでない状態とその原因について考えてみる。
  • 疲れる:筋肉の緊張、前に進む以外の力の使用
  • 苦しい:呼吸→筋肉の緊張、息継ぎの姿勢
  • 進まない:水の抵抗が大きい姿勢、小さな推進力
  • 痛い:可動域を越えた動き
これらの状態を解決することで、泳いでいて「ラクに」感じることができる。
解決する順番は以下の通りである。
  1. 支えを作る。
  2. 使う部位を決める。
  3. 可動域の範囲で動かす。

1.支えを作る

成人スイマーの多くにとって、ラクに感じない最大の原因は筋肉の緊張である。しかしリラックスすることを意識してリラックスできていたら、この問題は発生しない。

最近の指導経験から、リラックスできない最大の原因は「支えがない」ことであることがわかった。人間は動作を行うときに、意識的/無意識に支えを作る。その支えの多くは重力や地面から受ける抗力が基本となっているので、浮力で重力が相殺され、かつ流体である水の中ではうまく機能しない。そこで自分のからだを「硬く」することで、無意識のうちに支えにしようとしているのである。

従って水を押してその抗力により支えを作れば、リラックスする土台が整うことになる。

2.使う部位を決める

支えを作ったら、からだのどの部位を使うかを決める。ここでは「距離てこ」を使うことポイントである。

「距離てこ」とは、大きな力を支点の近くで加えることで、作用点の移動距離を増やすことができるてこのことで、通常のてこの逆である。からだの中では筋肉の収縮により非常に大きな力を生み出すことができるので、大きな力×筋肉の収縮(短い距離)=小さな力×長い距離(部位の移動)により手や足を素早く動かしたり、長い距離を動かすのに使うことができる。

要はからだの中心に近い場所の筋肉を使うことで、手や足など先端の筋肉をリラックスすることができる。これが「ゆる締め」と呼ばれる技術である。


3.可動域の範囲で動かす

最後に手や足を可動域の範囲で動かす。このときには座標の考え方が重要になる。上体を立てた姿勢と寝かした姿勢では座標が異なることが頭では理解できるが、実際に手を動かすときには座標が混在するケースがほとんどである。

正しい座標上で、肩の可動域を越えずに手を動かすための動かし方を理解して、繰り返し練習することでからだに染み込ませる必要がある。

特に気をつけるべきは、以下のタイミングで行われる動作である。
  • リカバリーで水上に手を出す
  • 水上にある手を入水する
  • 入水した手を水中で伸ばして斜め姿勢を作る
  • 息継ぎで口を水上に出す
  • 水中で手に水を当てる
  • 水中で水を押す




2018年5月1日火曜日

年齢の数だけ100を泳いでベストを出す

スイム 5300yds


恒例のバースディスイムは、当日水泳大会だったことや、昨日は気温10度でやる気マイナスだったことなどで3日遅れで実施した。コンセプトは「タスクを全部変えて結局速くなる」である。インターバルで100を53本泳いでも達成感だけで何も残らない。53回異なる頭の使い方をすることで、結果として速く泳げるかどうかを確かめた。

アップ:5×100

1:水慣れ:胸で水を押す
2:フォーム確認:入水の角度と方向、水中の手のひらの向き
3:げんこつスイム:前腕で水を集める、スムーズに息継ぎができることを確認
4:ひとさし指スイム:リカバリーの指の向き、入水時の指の向き
5:クロール:手に水を当てて寄せて運ぶ

テンポピラミッド:10×4×100

テンポは1.15秒スタート、1.30秒まで0.05刻みで落として1.00秒まで上げる(10パターン)。
一つのテンポでげんこつ、ひとさし指、最小限の力、最大の力という4通りで泳ぐ。
  1. げんこつスイム:ゆっくりテンポでは入水動作を素早く行い加速を確保。速いテンポではなめらかな動作を意識。
  2. ひとさし指スイム:キャッチでは指に水が当たるように向きを変える。プル後の指の向きを横にする。プッシュ後の指の向きを後にする。
  3. 最小限の力:手に水を当てながら「寄せる→運ぶ→放つ」ことで力を入れずに推進力を作る。
  4. 最大の力:入水てこ(水中の手を支えにして入水の手を入水直前に加速)、体幹てこ(水を運ぶときに体幹を支えにする)、フィニッシュてこ(入水した手を伸ばす直後にフィニッシュの加速を上げる)
げんこつとひとさし指では3ストローク1回呼吸で左側の息継ぎも練習した。息継ぎがうまくいかない場合は普段手で水を下に押して頭を持ち上げている可能性が高い。また頭を立てていることも原因になる。入水した手に体重をかけながら頭を回すことで口を水上に出す。頭を回す角度を15度上向き(あごを上げる)にすることで、得意な右側と同じような呼吸ができるようになった。

げんこつ→ひとさし指→最小限の力という順番で泳ぐことで、力の入れどころがわかってくる。4本目はその力を最大にして、ストローク数を減らせばスピードが上がる。第1セットの4本目のタイムは1分27秒9で、第7セット(第1セットと同じテンポ1.15秒)の4本目のタイムは1分23秒9と4秒アップ、第10セットの4本目は1分21秒1まで上げることができた。

ペース:3×2×100

力のいれどころが分かってきたところで、ペーススイムに移る。
リラックスペースである22秒から始めて、21秒、20秒をそれぞれ2回泳ぐ。
リラックスペースの1本目では5秒近く貯金ができたので、2本目では力を逆に減らしたものの結果は速くなった。

21秒ペースでは3秒貯金ができたので、力を減らして劣化しない泳ぎにして貯金を作った。

最後の20秒ペースでは力を強調することで1分15秒になった。練習中のタイムとしてこれまでで最も速いタイムであった。ここまで5000ヤードを泳いだにもかかわらず最速タイムが出たので驚いた。

究極の鍛錬

「究極の鍛錬」という書籍が面白い。究極の鍛錬にするためにはつまらないことの繰り返しが必要だということだが、げんこつスイムはまさにそれに該当する。ストローク数は増えるし、スピードは遅くなるし、なかなか壁に着かないのでいらいらする。人生で始めてげんこつやひとさし指を2000以上泳いだが、その結果速くなったので文句はいえない。

心拍数を見ると徐々に増えていて、上記ピラミッドの4本目毎にスパイクしている。前半がおとなしかったので全体としてはまあまあの運動負荷になっている。


スタートしてから終わるまで1時間45分、泳いでいたのは1時間25分で20分間休憩があった。あと5分休憩を削りたいところである。久々に精神的、肉体的に「泳いだ」という感じであった。




2018年4月30日月曜日

[NMP]アルゴリズムのデザイン

水泳のアルゴリズムをデザインするときのステップをまとめる。

1.動きをストロークフェーズで分解する

ストロークフェーズを7つに分解する。
  • グライド
  • スイッチ
  • リカバリー
  • エントリー
  • キャッチ/プル
  • プッシュ
  • フィニッシュ

2.それぞれのフェーズの目的を明らかにする

  • グライド:滑る=支える+乗る=支える+(前に水を押す+動く)
  • スイッチ:両手のタイミングを合わせる
  • リカバリー:水上の手で重心を前に動かす
  • エントリー:手の重みで入水する手を素早く伸ばす
  • キャッチ/プル:手に水を当てて支えにする
  • プッシュ:水を後ろに押す
  • フィニッシュ:水中で水を放って手を水上で引き寄せる

3.支えとなる部位や固定する部位を決める

  • グライド:水中で伸ばした手
  • スイッチ:頭(スイング動作)、伸ばした手/肘(入水動作)
  • リカバリー:水中で伸ばした手、胸鎖関節、水上の手の上腕
  • エントリー:入水の手の上腕、胸鎖関節
  • キャッチ/プル:肘(手首の回転)、上腕(前腕動作)
  • プッシュ:上腕(前腕動作)、体幹(肘を伸ばす動作)
  • フィニッシュ:上腕(放つ動作)、胸鎖関節(引き寄せ動作)

4.動かす部位を時間順に決める

  • グライドの例
    伸ばす手を支えにする→伸ばす手の垂直方向を決める→伸ばす手の水平方向を決める→からだの長軸の回転角を決める→からだの短軸の回転角を決める→腰の位置を決める→両足の間隔を狭める(股間を締める)

5.条件判断のためのインプットと変化させる内容を決める

  • グライドの例
    ー伸ばす手の上と下を通る水の流れ:下の方を厚くする
    ー胸で受ける水の塊:増える手の方向とからだの回転角を見つける

6.意識して動かす部位の順番と条件判断を組み合わせる

  • グライドの例
    「手の上下を通る水の流れ」と「胸で押す水の面積」が最大になるように伸ばす手の方向を垂直/水平に動かして変える

7.ラベル化する

  • 一連の動作を簡単な表現に置き換える
    →動詞のみ、動詞+目的語、動詞+目的語+修飾語
  • インプット(感覚や知覚)を簡単な表現に置き換える
アルゴリズムが正しく動作するかは条件判断で使用するインプットにかかっている。どのタイミングでどのような感覚や知覚が得られるか。さらに文字化するためには、その文字を見れば対応した感覚が想起できるような文字を選ぶ必要がある。

またアルゴリズム全体を暗記しやすくさせる必要もある。組み込み関数を増やして、文字を見ればその動作ができるようになれば複雑な動きでも正しく動作させることができる。







2018年4月27日金曜日

[NMP]暗記のためのラベル化

ラベル化の必要性

動作それぞれがアルゴリズム化されれば、あとはアルゴリズムを覚えれば上手に運動できるようになる。ただし1つのアルゴリズムは20~30のステップ(現段階の分析による)により構成されるので、それらを全部覚えるのは大変である。

そこでこれまでの人生経験において組み込み関数化された動きを活用する。これらの組み込み関数は名前がついており、その名前を見ればからだが何をすればよいかがわかるようになっている。

例:「歩く」

歩くという動作のアルゴリズムは以下の通りである。
  1. 前傾して重心を移動する
  2. 片足が前に出やすいように反対側の足に重心をかける
  3. (インプット)重心がどの程度移動しているか
  4. (条件判断)からだが前に倒れる直前の重心の移動状態を前のめり感100%とすると、30%に達したとき(目標速度による)に片足を前に出す
  5. (インプット)動かした足の移動距離
  6. (条件判断)歩く速さに合わせて移動距離を決めて着地する
  7. 着地した足に重心をかける
  8. 3~7を繰り返す
なおここではどこを支えにしてどの筋肉を使うかまでは記述していない。それらを加えるとステップ数は倍増、三倍増することになる。
速く歩きたいときは4の前のめり感を50%に上げたり、6の移動距離を大きくしたり、3~7をより早く繰り返したりする。

このように複雑なステップを、「歩く」という文字を使えば(歩ける人ならば)誰でもできるようになる。「速く歩く」「ゆっくり歩く」というバリエーションも条件判断基準(パラメータ)を変更することで対応できる。

「泳ぐ」ためのラベル化

それでは「泳ぐ」はどうか。歩くほどシンプルではないからこそ、多くの人が困っているのである。「速く泳ぐ」「ゆっくり泳ぐ」も何をパラメータとして変化させてよいかわからない。
つまり「泳ぐ」を複数のラベル=アルゴリズムに分解する必要がある。一つのラベルはさらに複数のラベル=アルゴリズムに分解することができる。
以下が「泳ぐ」をラベル化する例である。
  • 泳ぐ=滑る+押す
  • 滑る=乗る+支える
  • 乗る=押す+動く
  • 押す=当てる+伸ばす
  • 押す=放つ
  • 伸ばす=縮める
  • 呼吸する=回す+ひねる
  • 回す=伸ばす+つなげる
  • 運ぶ=放つ+抜く
このように「泳ぐ」という複雑な動作を、既知の動作の名称の組み合せにすることで、短時間で暗記して動作できるようにするのがNMPの目的である。



水泳動作の三原則:「重力」「座標」「支え」3

三原則の最後が「支え」である。姿勢や動作がうまくできない方の最大の要因だとわかったのは、プライベートワークショップで時間をかけてからだの動かし方を教えることができたためである。これまでの10年間の課題が一気に解決した。

3. 支え

人間は姿勢を作るときや動作をするときに、動かさない場所を決めて姿勢や動作の支えとしている。物を運ぶときや投げるときは支えを意識して決めているし、姿勢を正すときは無意識にからだの一部を支えにして他の部位の位置を調節している。

文献やエビデンスがないので「全て」とは言わないが、水泳について言えば約20のアルゴリズム全てに支えが存在する。

例:斜め姿勢を切り替えるクロールの動作

支え:頭→従って頭は回転しない
動作:スイング→回転運動のため軸が存在する
軸:長軸→頭頂部から背骨を通り腰に至る直線

例:斜め姿勢

支え:水中で伸ばした手
動作:斜め姿勢を維持して胸で水を押せるからだの向きを決める
(回転運動および前傾運動)
軸:長軸および横軸→腰骨を貫通する直線

例:リカバリー

支え:水中で伸ばした手
動作:水上の手を前に運ぶ→下から上への垂直スイングと横方向のスイング
軸:垂直スイング→肩、水平スイング→肘

例:リカバリーの垂直スイング

支え:胸鎖関節
動作:広背筋を使って鎖骨を前に運ぶ
軸:胸鎖関節

例:水中のキャッチ

支え:肘
動作:前傾しながら前腕を立てる
軸:肘

従って、以下のような課題は支えが見つからないことが原因となる。
  • 水中で手を伸ばすと顔が横を向く。
  • グライド姿勢で肘が曲がる。
  • グライド姿勢で背中が湾曲する。
  • 回転角が大きい(オーバーローテーション)。
  • リカバリーで肩や肘、手首に力が入る。
  • リカバリーで肩の可動域を越える。
  • キャッチで手首が折れ曲がる、手に力が入る。
  • キャッチで肘が伸びている。
これらの課題はスイマーの持つ課題全体の8割以上を占めている。
つまり姿勢や動作において何が「支え」になっているかを理解し、姿勢を作ったり動作を行ったりすることで、8割以上の課題が解決できるのである。

今後のレッスンではこれら支えについてお客様にまず理解していただき、ドライランドで確認してから水中でその支えが機能するか確認するアプローチをとる。

○静的な支えと動的な支え

一般的な支えは支え自体は動かず、他の部位が動く。これを静的な支えと呼ぶ。
水中ではおもしろいことに、物体を素早く動かすことで水の抗力が生まれ、陸上の摩擦力による抗力と同じ状態を作り出すことができる。これを動的な支えと呼ぶ。

動的な支えは次のタイミングで作ることができる。
  • 入水した手を水中で素早く伸ばす。
  • 水中にある前腕を肘を支点にして素早く動かす→キャッチ
  • 水中にある曲がった肘を素早く伸ばす→プッシュ
  • 曲がったひざを素早く伸ばす→キック
これらの動的な支えを使ってより大きな力を生み出すことを「てこ化」と呼ぶ。
てこを使うことで小さな力でより大きな推進力を生み出すことができる。

なおこれらの動作で大きなエネルギーを使わないことに注意する。力を入れたら素早く動作できないためである。得たい効果が得られるようにするために、てこの元となる動作は最小限のエネルギーで済むように練習で磨く必要がある。




2018年4月26日木曜日

水泳動作の三原則:「重力」「座標」「支え」2

三原則の2番目が「座標」である。

2.座標

座標とは自分を中心にした三次元の空間座標のことである。立った姿勢では、進行方向をX軸、地面と平行で進行方向と垂直な軸をY軸、地面と垂直な方向をZ軸とする。
この座標を捕捉するのが位置覚である。位置覚は深部感覚の一つで,視角などに頼らずに,自分の身体の各部がどういう相対的な位置にあるかを判断する感覚をいう。

地面に垂直に立った姿勢では位置覚による座標が、絶対座標とほぼ同じになる。このためからだを動かしたい方向と実際の方向は一致する。

ところが上半身を前傾させると、脳が考える水平面と実際の水平面にずれが生じる。このため「からだに対して」水平に動作させようとしても、絶対的な水平面を意識してしまい動作がうまくできなくなる。ゴルフのスイングが難しい理由である。

○水泳の座標が難しくなる理由1:軸が混ざる

水泳の場合は横に伏して運動する。そうなると本来はXYZ軸が変わるはずであるが、陸上のXYZ軸に基づいた位置覚を引きずって動かすことがある。

簡単な例が、リカバリーの素振りである。陸上で上体を垂直にしたままリカバリーの手の動作を行うとき、からだは地面に垂直なので本来は上方向に泳ぐように動作をしなければならないが、前方向に泳ぐことを想定して手を動かそうとする。この結果肩の可動域を越えて手を動かすことになる。初心者では10人中9人がこの動かし方をする。

○水泳の座標が難しくなる理由2:軸が動く

もう一つの理由が、「頭の向きで軸が変わる」ことである。
位置覚は頭を中心に構成されるため、頭が傾くとXYZ軸がその分だけずれる。
  • 前を見ながら泳ぐ
  • 下半身が下がる
  • 息継ぎで頭が曲がる
  • 手を内側に入水することで頭がはじかれて外を向く
のようなときに、自分の考える座標と実際の座標に差が生じる。
自分では正しい位置に手を動かしているつもりでも、実際には異なるところに手があるケースはかなり多い。

○正しい座標を「補正力」で身につける

自分の考える(位置覚による)座標と、絶対的な座標を近づけることができれば正しい動作にしやすくなる。そのためには、
  • 自分の考える座標は絶対的な座標とは異なっていることを認める。
  • そのうえで補正をかける。
が必要である。

例えば入水位置が狭いと指摘されたのであれば、進行方向(時計盤でいえば12時の方向)に手を入水するのではなく。2時や10時の位置に入れる。
手を伸ばす位置が浅いと指摘されたのであれば、今よりも30cm深いところに手を伸ばす。

このようにして補正をかけることで、正しい状態に近づける。繰り返し練習すれば(1万回)、補正をかけた動作が組み込み関数になるので意識しないでも正しい動作ができるようになる。

具体的には以下のように場所を決める。
  • 水平面の動作は、水面上に時計盤をイメージして短針の位置で場所を決める。
  • 垂直面の動作は、水面からの距離で場所を決める。
  • 進行方向をからだの軸と一致させ、立位のときのZ軸にする。立位のときのX軸にしない。

○自分の座標を絶対座標にする

主にプールで泳ぐのであれば上記の方法だけで良いが、オープンウォータースイムを行う場合はもう一段階ステップアップする必要がある。

プールで静かな水面を基準に動作を行うことに慣れてしまうと、水面が大きく変わるオープンウォータースイムで混乱する。そこで自分のからだを絶対座標化して、自分のからだの動きの少ない部位を基点した距離や角度を使うようにする。以下が例である。
  • 手を入水する場所は頭頂部の横延長線上
  • 手を伸ばす方向は伸ばした手が視界に入る方向
  • リカバリーは背中の面を越えない。水が被さってきたときはリカバリーせずに待つ。
こうすればどのようにラフな海でも、落ち着いて泳げるようになる。



2018年4月24日火曜日

水泳動作の三原則:「重力」「座標」「支え」1

水泳のアルゴリズムを最適化するためには、水泳に特有の動きを考慮する必要がある。
これを水泳動作の三原則と名付ける。

1.重力

○重力を活用しない水中の動作「はいはい」

人間が歩行するときに最初に行うのが、「前傾して」重心を前に移動することである。足はこの重心移動の次に動かしている。
陸上で歩行できない=前傾による重心移動ができない赤ちゃんは、「はいはい」する。
はいはいのアルゴリズムは以下の通りである。

  1. 手を地面に着く。
  2. 手に体重を乗せる(重心を移動する)ことで上体を前に動かす。
  3. 上体を前に動かすことで足を引きずって前に動かす。
  4. 1~3を片側ずつ交互に行う。
はいはいのビデオをいくつか見ると、両手による1と2が最初のステップ、斜め姿勢を作ることで下半身を引き寄せることができると片手交互の1~3までのステップまでできるようになる。

泳ぎの下手な人や泳げない人を見ると、まさに「はいはい」と同じような動きをしている。手を前に伸ばして押さえれば(かけば)からだが前に動くと期待するが、実際には水は地面ほどの摩擦が得られないので手が手前に動くだけになる。空回りである。

それではなぜ下手な人は「はいはい」しようとするのか。それは前傾による重心移動ができないという固定観念を持っているためである。

レッスンではお客様に「前のめり感」100%を試してもらう。水中ではその10分の1が最大で得られるが、それは非常に微細なものである。最大でも「その程度」しか得られないので、前のめりを意識することが難しく、はいはいに頼ってしまうのである。


○重力を活用する第一歩:入水動作

横になった姿勢では前傾が難しい。そこで入水する手を水中に伸ばすことで、前のめり感を作る。
入水する手の肘を高い位置にすることで、入水時の運動エネルギーに転換する。水中で素早く手を伸ばすことで、体重を前にかけることができる。ゆっくり手を伸ばすとからだが水に押されるので体重を前にかけることができない。水に押される力を上回る加速を手に与える必要がある。

○重力を活用する第二歩:浮力を活用する

重力を活用する次のアプローチが、浮力を活用することである。
水中にある物体は、その体積の同体積の水の重さだけ浮力を受ける(アルキメデスの原理)。
この浮力を受けることについて、簡単な実験をやってみた。

ペットボトルの脇にフォーク、下にセラミックを輪ゴムで着けて、シンクの底にボトルが触れない程度にボトルの中に水を入れる(写真1)。なお全体の重量は300g、フォークは22gで体重に対する腕の重さとほぼ同じである。
そのままシンクに入れると、セラミックを着けた側が沈む(写真2)。
写真1
写真2

フォークをボトルの上の方に伸ばす(写真3)。沈めると平らになる(写真4)。フォークを上の方に移動すると、前の方がさらに沈む。手元には割り箸(比重0.4~0.7)とフォーク(比重7.7~7.9)しかなかったので、人間の手の密度に近い物質で比較することができないが、重いものを前に移動するほど重心が前に移動し、その結果受ける浮力の分布が変わることはわかる。
写真3
写真4


次にこのボトルを押してみる(写真5)。静止した状態で押すと押す前よりも位置が上になるが、その後押す前の位置に落ち着く。前に動かしながら手を放すと、後が浮き上がってから、その後押す前の位置(前後のバランス)に落ち着く(写真6)。
写真5
写真6
根拠がないのだが、おそらく、
  • 手を放した場所で水が押し返す
  • ボトルは前に移動しているので、ボトルの下部が水に押し返される
  • その結果前が沈んで後が浮いた状態になる
これを人間で試しても全員が同じように足が浮く。最初に床を蹴っているため足が上に来るという理由もあるだろうが、それを強化しているのが浮力であると考えられる。

上記の実験やお客様を対象にした結果から、
水を前向きに押し続けることで水がからだを前向きに押してくれる
ということがわかった。
これを「水に乗る」と定義する。
この技術を使えているアダルトスイマーは、残念ながら非常に少ない。
しかし競泳の選手は全員この技術を使っているのである。


[NMP]神経動作プログラミングとは

運動学習メソッドとしてNMP(Neural Motion Programming)を確立するため、考えがまとまった部分から文字化することにした。

○最小運動単位

運動における全ての姿勢や動作は脳が指令を出す。
 a) からだのどの部位が
 b) どのタイミングで
 c1) どのような形にするのか(姿勢)
 c2) どのような動きにするのか(動作)
これが最小運動単位になる。
一つの姿勢や動作は、この最小運動単位を複数組み合わせることで実施される。

○インプットによる条件判断

運動には、環境や状況に応じて動きを変化させる場合がある。例えば、
  • 相手の動きに合わせて自分の動きを変える(武道、格闘技など)
  • 物体の動きに合わせて自分の動きを変える(球技全般)
  • 物体が置かれた環境などに合わせて自分の動きを変える(ゴルフ、ボウリング)
  • 環境に合わせて自分の動きを変える(水泳)
これらは主に視覚により情報を入手する。水泳は触覚や平衡感覚など他の知覚を使用する点でユニークである。

これら運動を変えるための情報を「インプット」と定義する。球技では役割が変わるとインプットの種類も変わってくる(例:ピッチャーとバッターと野手)。

得たい結果が得られるように動作を行うのが目的であり、この目的を達成するために必要最小限のインプットがあれば良い。インプットが多いほど条件判断が多くなり、得たい結果を素早く得ることができなくなる(と考えられる)。

○動作をプログラムに見立てる=アルゴリズム化

誰でも短期間で運動できるようにするためには、
 ・運動をできるだけ小さい単位に分解して、
 ・必要なインプットと変えるべき条件を明確にして、
 ・運動のステップを記憶しやすくする
必要がある。

そこで一連の動作をプログラムに見立てて、「アルゴリズム」と呼ぶ。
アルゴリズムには複数の運動が存在し、インプットによる条件判断も含まれる。
おおまかに分類すると、水泳には約20のアルゴリズムが存在する。
これらを暗記して、からだ対して実行命令できるようになれば、誰でもラクにきれいに泳げるようになるのである。

○組み込み関数の存在:運動神経の善し悪し

アルゴリズムの中の運動の一部は、これまでの人生経験において既知のものがあり、これらはステップを一つずつ追わなくても結果を得ることができる。
これを「組み込み関数」と呼ぶ。

運動神経の良い人とは、この組み込み関数を多く持っている人のことである。その人にとって新しいスポーツであっても、その動きを見ながら自分の組み込み関数を呼び出すことにより、見よう見まねでそこそこできるようになってしまう。

ただしこのような人は、組み込み関数を使っているので脳がどのように命令したかを意識していない。そこで人に教えるときには動作を示したり、擬態語(シュッとかバシッとか)や意味不明語(しっかり、きちんと、ちょっと、少し)を使ったりして説明しようとする。教わる方が組み込み関数を持っていればそれでも通じるが、組み込み関数を持っていない(運動神経の悪い人)にはちんぷんかんぷんになる。

子供の頃から水泳を習っていて、水泳について組み込み関数を多く持っている競泳あがりのコーチが、泳げない大人に対して教えづらいのはこれが理由である。

○動作を「暗記する」必要性

レッスンでアルゴリズムができるようになっても、その後の自主練習でうまく行かないことがほとんどである。これはアルゴリズムを正しく行っていない(=バグがある)のが理由である。そしてアルゴリズムを正しく行えない最大の理由が「暗記できていない」からである。

からだを動かす以上脳がその手順を覚えなければならない。「からだが覚える」という表現があるが、これは意味をなさない。からだは勝手に動かないからである。正確には、「脳が手順を伝えなくても得たい結果が得られる」、すなわち組み込み関数にすることである。

一つのアルゴリズム全体が組み込み関数となるためには、1万回の動作が必要と言われている(1万時間とも言われる)。水泳の主な動き全て(20アルゴリズム)が意識しないでできるようになるには、20万回の動作が必要になるのだろう。25m20ストロークなら25万m=250キロ=200日(1回1.25キロとして)と大したことはない。朝晩に素振りをすればその半分で済む。ポイントはアルゴリズムを暗記することを目的にして練習することである。






2018年4月8日日曜日

実録レッスン:ラクに滑るように泳ぐには

短時間で水泳がどこまで上達できるのか。
新しいメソッドの検証の場としてレッスンを始めた。

○お客様:Kさん(52歳)

ー6ストロークしか泳げない(からだが沈むため)。
ーTIレッスン受講歴:なし
ーDVDなどの教材の購入:なし
ードリルの練習:なし

からだが沈むので、泳ぎ続けることができない。
フィットネスクラブの成人レッスンに参加したことはあるが、コーチから「腹圧をかけろ」と言われたものの何をすればよいかわからなかった。
トライアスロンの大会に参加登録をしたので、1カ月で1500m泳げるようにならないといけない。
YouTubeのビデオを見て、これだと思って申し込んだ。

過去のスポーツ経歴

・剣道:小学校および中学校
・空手:高校
・ゴルフ:成人になってから少々

○レッスンのアプローチ

Kさんのスポーツ経歴より、以下についての理解は深いと判断した。
  • 重心移動
  • 素早い動作による加速
  • 支えになる場所と動かす場所の区別
  • てこの利用
  • 相手の動きに合わせて自分を動かす
そこで、以下のような点をまず理解してもらった。
  1. 水泳こそ重心移動が必要であること
  2. 力ではなく加速であること
  3. からだの使い方はどこに指示するかで動かし方が変わること
  4. エネルギー消費が減れば苦しくなくなること
そのうえで、上記の点を阻害する以下の言葉を脳から削除してもらった。
  • 浮く
  • かく
  • 蹴る
  • 運ぶ
  • 伸びる
この段階で新しい技術を吸収できる素地が整う。
次に技術をドリルで身につける。それぞれの技術は動詞でラベル付けするので、動作全体を覚えるのに役立つ。
  • 委ねる:からだのできるだけ多くの面積を使って水を押し、重心を移動する。
  • 跳ねる:ひざをゆるめ、ひざの裏を素早く伸ばして加速する。
  • 乗る:初速を加えた後に、上半身で水を押し続けることで下半身を上げる。
  • 滑る:前後左右がバランスした姿勢で水を押すことで、減速を抑えて前に移動する。
  • 合わせる:手と足、左右の手の動作のタイミングを合わせる。

過去の運動経歴が役に立つ

これまでの指導経験により、どのようなスポーツであれその経験は水泳に役立つことがわかった。
  • からだの動かし方
  • 重心の捉え方
  • 感覚・知覚
こちらにそのスポーツの経験が全くなくても、一般的な知識から「そのスポーツのこの動きはこのようなことをしていますね?」と問い掛けると、ほぼ正解であった。

結局人間がやる運動である以上、人間がやれる範囲でやれることをやっているのである。
従って水泳固有の視点(重力、座標、支え)さえ理解できれば難しいものではないことがわかる。

○レッスンの成果

15分のドライランド・リハーサルと45分のレッスンを1つのセットとして、休憩をはさんで2セット行った。

6ストローク泳いでも沈まなくなり、息継ぎなしで12ストロークまで泳げるようになった。またスピードもほぼ倍に速くなった。

大会まで日が浅いため、確実に呼吸ができる技術と、方向確認する技術を次の習得目標とした。



2018年3月8日木曜日

道具箱を使った効果的な練習(見本ビデオ付き)

美しいクロール ワークショップ(美クロ)を先週実施した。
今回は尖ったテーマばかりだったので、お客様にとっては新鮮であったと同時に、これまでのやり方とは異なるやり方だったので困惑される場合もあった。

例えば斜め姿勢では、これまで「伸ばした手に体重を乗せる」と教えている。お客様にとっても慣れれば側に体重をかけることは心地良くなる。ただ一方では回転のしすぎ(オーバーローテーション)や足の開きを招き、修正が難しい。

そこで美クロワークショップでは「胸の中心で水を押しながら斜め姿勢を作る」という新しい概念を取り入れた。中央に体重をかけながら斜め姿勢ができるのか?については、無意識に側を作ることができるカイゼンレベルのスイマーであれば可能である。この概念がわかると、力の方向が下から前に変わるので、格段に滑るようになる。

この他リカバリーの軌跡や水中の手の助走など、これまで学んだことをゼロベースで次々と見直すことは、心地よさから抜け出して新たな技術に挑戦するうえで欠かせない。今後も美クロは尖り続けるワークショップにしたい。

クロール泳ぐ前の3秒のリハーサルで泳ぎが変わる

「意識をして泳ぐ」ことを勧めているが、実はそんなにカンタンではない。
実際には「意識をして泳ぎを変える」ぐらいにしないと、フィードバックが得られないので修正できたかどうか確認できない。そして泳ぎを変えるためには、意識だけでは足らないのである。

そこで効果的なのが、泳ぐ直前に動作を練習することである。意識をして動作したときに感じられることを予め練習で身につけておき、それがクロールで再現できるように泳ぐのである。動作の所要時間は3秒~5秒と短いが、これまでのレッスンでは非常に高い効果が得られている。これを道具箱と呼んでいる。

例えば「レーザービーム」という道具がある。頭頂部が水面すれすれに来るように泳ぐことで、バランスをカイゼンして姿勢を安定させる目的で使う。

また「入水する感触」という道具は、静かな入水のために必要な感覚である。これをグループレッスンで行うと、驚くほどみなさんの泳ぎが静かに、なめらかになる。

道具箱講習会は非定期で開催しているが、4月の講習会では美しく速く泳ぐために少し尖った道具を用意する。
DVDでは紹介していない新しい道具なので、切れ味を楽しんで頂きたい。

また大阪のスピードアップ実践ワークショップでも、速く泳ぐための道具を徹底的に紹介してすぐにスピードアップできるように準備している。どのように効果が出るかが楽しみである。





2018年2月21日水曜日

力の入れどころを決める

スイム 4000yds

ここしばらく最高気温が17度を超えたので、もう春かと思っていたらいきなり10度以下の日が続く。更衣室からプールサイドに移動するまでにとても冷える。それでも水温は26度あるのでとても暖かく感じる。

基本構成はしばらくの間
500のフォーミング
2000のテンポピラミッド(10×200)
1500のペース練習
としている。

このうちペース練習は、以下のペースを使い分けている。
 22秒:このペースで1650を泳ぎ続けることが現在の目標
 21秒:このペースで1650を泳ぎ続けることがこのシーズンの目標
 20秒:最終目標
22秒で泳ぐ長さは最短400まで延ばしている。
21秒で泳ぐ長さは現在200である。
20秒で泳ぐ長さは現在100である。

テンポピラミッド 10×200

テンポに合わせて泳ぐだけではスピードアップ練習にならない。
ストローク数を減らすために、どこに力を入れればよいかを決めて泳ぐ。

力を入れるというはどういうことか

水泳は力を入れる/抜くというコントラストが見た目にはっきりしない。
ビデオで見てもよくわからないので、真似しようがない。
そのため手をゆるめたまま水中で動かしている人が非常に多い。
しかしスピードを上げるためには力を使わないとならない。
どのように力を入れるのかがポイントになる。
力の入れ方は3つに分けられる。
  • 曲げる
  • 伸ばす
  • 形を維持する
曲げるときには内側の筋肉を意識する。
伸ばすときには外側の筋肉を意識する。
形を維持するときには受ける力(主に水の抵抗)に合わせて使う筋肉を決める。
具体的には各動作において主動筋と拮抗筋が何かを理解して、使う側を締めて使わない方を緩めることで共に緊張する共縮を防ぐことが必要である。

4種類の力の入れ方

今回は以下のように4種類の力を入れ方を決めて、50ずつで力の入れ方を変えて200を泳いだ。
  1. 入水する手を伸ばす:上腕三頭筋を縮める
  2. キャッチとプル:手のひらを手前に向けるために前腕屈筋群を使う
  3. プッシュ:主に前腕の筋肉を使って肘を曲げた形を維持したまま、広背筋を使って手を後に送る
  4. フィニッシュ:上腕三頭筋を縮める
意識する筋肉を変えながら最も良い結果(同じテンポでストローク数が減る)が得られたのが上記の筋肉の使い方である。

同じピラミッド10本でも、前日に比べて200あたり4~6秒短縮することができた。

ペース練習 2×400+2×200+2×100

ペース練習でもピラミッド練習と同様に力の入れどころ=筋肉の使い方=筋肉のメリハリのつけ方を変えて行った。

貯金の割合を同じにしたためタイム自体は変わらなかったが、泳いでいてメリハリがつけやすいこと、メリハリをつけると若干ラクに貯金できることがわかった。

どの筋肉をどのタイミングでどのようにONにするかを今後も磨いて、スピードアップのカリキュラムに導入する。







2018年2月3日土曜日

美しいクロールの技術テーマ

美クロワークショップまであと1カ月となったので、テーマを固めることにした。
過去4カ月間のプライベートワークショップや、夢の島で行った練習会のビデオ分析を通じて、次のような技術テーマを定めた。

1.水を押す技術

滑っているように見えるか、見えないかの差は水が押せているかどうかであることがわかった。大人になってから水泳を始めた人で、水を正しく押せている割合は1割以下である。
水を押すことで、水がからだを押し返してくれる。前に進みながら水を押すことで、水がからだを前に運んでくれるのである。

プライベートワークショップでは、正しい水の押し方を教えると、全員が「水がからだを運ぶ感覚」をつかむことに成功している。伸ばす手の側ではなくからだの中央に体重をかけることで、斜め姿勢がより安定して水がからだを運ぶ感覚も得られるようになる。

ポイントは「どこで」「どのように」水を押すかである。押すという能動的な行動がないと、水も押し返してくれない。

2.リカバリーの軌跡

肩の可動域を越えて手を動かしていると、上腕が水面から45度に達したときに上腕がロックされて、その後は前腕だけ動く。そして手のひらが肩の横を通り過ぎる頃に上腕が動くようになるが、肘の角度は広がって入水の角度は小さくなり、きれいな手の動きには見えない。

このときに肘を常に動かそうとしても問題は解決しない。肘は上腕がロックすることを知らないためである。上腕が常に動く美しいリカバリーにするためには、筋肉の命令場所を根本的に変える必要がある。

さらに「一点出水」「一点入水」をするためにコントロール力を高める。

3.水中の手のアンカリング

ヒトが陸上で前に進むためには、

  1. 前傾して重心を前に移動して
  2. 片方の足に体重をかけることで得られる地面からの力を使って
    (てこの支点と力点に相当)
  3. 反対の足を前に出す
という動作を行っている。このうち1は自重を使い、2は地面の摩擦を使っている。
陸上では無意識に行っているこの動きは、次のような理由で水中に適用することが難しい。
  1. 水中では体重が10分の1になり、しかも横になっているので前傾動作で重心が前に移動できない。
  2. 足が地面から得られる摩擦力に比べて、水中で手を動かすことにより得られる抵抗は非常に小さい。
そこで技術を使って、歩くときの両足と同じ役割を泳ぐときの両手に適用させる。
水中の手をてこにして、入水する手を前に伸ばしてからだを前に滑らせることをアンカリングと呼ぶ。アンカリングするためには、
  1. 重心が前に移動していること
  2. 水中の手が作り出す抵抗が大きいこと
が条件となる。この条件を満たすために「水上の手による重心移動」「水中の手の助走」「水中の手に体重を乗せる」技術を磨く。


4.水上の体面積の増加

美しく見えるためには、入水直前において水上に露出している面積を最大にする必要がある。右の写真では、首の下から肋骨の終わりにかけて水上に出ている。
最初の技術はバウウェイブ(舳先波)で水面を下げること、次の技術は水中の手で水を押さえることと肩のひねりである。

5.レバレッジキック

通常のツービートキックでは、(1)足のスナップで水を押して、(2)それをてこにして腰が回り、(3)腰が回ることで背中に捻りが入り、(4)背中の捻りを使って手を素早く入水して伸ばすという流れになっている。

美クロレベルのツービートキックでは、(1)足で水をひっかけて、(2)それをてこにして入水した手をさらに伸ばす、としてからだの回転を取り除いている。こうすることで足を伸ばしておく時間を延ばして、より少ない力で多くの推進力を得るレバレッジキックに転換できる。

レバレッジキックができるようになるためには通常のツービートキックができていることが前提であるが、つられ足や割り込み足で問題のあった人でも一気に問題が解決できる場合もあるので、グループレッスンで取り入れてみる。

6.力の入れどころ

十分な加速が得られない全ての人に共通する原因は、力の入れどころがわかっていないことである。リラックスしているだけでは加速できない。次のフェーズに分けて力の入れどころについて理解し、実践できるようにする。
 ・入水した肘を伸ばす
 ・水中で水をひっかける
 ・水中で水を押す

なお「力を入れる」行為については、水が終動負荷型(動作が長くなるほど負荷が上がる)の運動であることに注意したうえで、
「筋肉の緊張と弛緩」
「主動筋と拮抗筋」
を理解し実際に動かせるようになる必要がある。

以上の技術ポイントについて、お客様のレベルに合わせながら最適な技術が身につけられるようにカリキュラムをデザインする。

2018年1月27日土曜日

劣化の度合いをテストする

スイム 3500yds

12月上旬から1月中旬の日本滞在中(+グアム、シンガポール)はレッスンやら旅行やらでほとんど練習ができなかった。米国に戻ってからも気温12度の中では泳ぐ意欲がわかなかったが、さすがにこれはいけないと思い泳ぎ始めたのは先週からである。

先月まではストロークカウントによる加速を上げる練習が中心であった。今月よりテンポトレーナープロを導入して、テンポコントロールとペース練習を取り入れている。

○テンポトレーナーを使ったスピードアップ練習の構成

基本的には、
  1. フォーム中心の500yds
  2. テンポピラミッド5×200、1.15秒-1.30秒-1.00秒@0.05秒増加
  3. ペース練習
である。テンポピラミッドではストローク数を数え(16)、テンポが遅くなる局面ではストローク数を2減らし(14)、テンポを戻す局面ではストローク数を1減らし(15)、テンポをさらに上げる局面でストローク数の増加を2に抑える(18)。

ペース練習については、ペースの設定が重要である。
今年の予定は7月までに自己ベストペース(25yd21秒)で泳ぐ。
このためには、
・最初のテスト:自己ベストペースの10%増し(23秒)で1650ydsを泳ぐ
・次のテスト:自己ベストペースの5%増し(22秒)で1650ydsを泳ぐ
・最後のテスト:自己ベストペースで(21秒)で1650ydsを泳ぐ
をクリアする必要がある。
距離を泳ぐことは問題ないので、近々受けるテストのペースよりも一段階速いペースで100や200のセットを練習する。そうすれば一段階落として完泳することもできる。
それが難しいのであれば、近々受けるテストのペースで200よりも長い距離を泳ぐことで、テストの準備を行う。

○1650ydsタイムトライアル(ペース23秒)

ウォームアップやテンポ練習なしにいきなり泳ぎ始めて1650ydsのタイムを測った。
ペースはベストペースより10%遅い23秒である。
フォーカルポイントは以下のように設定して100毎にローテーションした。
  1. ストローク数を減らす(15-16にする)
  2. 入水場所と肘の自由落下
  3. キャッチと入水てこ
  4. プッシュの角度
  5. フィニッシュと体幹てこ
結果は25分16秒で、ペース23秒を維持することができた。


グラフを見ると、最初のラップでもたついているがこれはスタートしてから水中に入って泳ぎ始めたためである。また1100yds付近のもたつきはキャップを直していたためである。

最初の4ラップは借金状態(壁に着く前にビープ音が聞こえる)であった。2回目以降は23秒以内で泳いでいるので、1回目の借金を返すので4ラップかかったことになる。それ以降はキャップを直していたときも含めて貯金を維持することができた。

ただし壁を蹴ってひとかきしてからビープ音が聞こえていたはずだが、実際には23秒まで0.2秒程度の貯金のラップが多かった。どおりで貯金が貯まらなかったわけである。

フォーカルポイントによるタイムの違いはほとんどなかった。ストローク数を減らすときにはゆっくり泳いで力の入れ処を強調したが、タイムは遅くならなかった。

これで初回のテストをパスしたので、しばらくは22秒7割、21秒3割でペース練習を行い、21秒の割合を増やす。