2018年4月30日月曜日

[NMP]アルゴリズムのデザイン

水泳のアルゴリズムをデザインするときのステップをまとめる。

1.動きをストロークフェーズで分解する

ストロークフェーズを7つに分解する。
  • グライド
  • スイッチ
  • リカバリー
  • エントリー
  • キャッチ/プル
  • プッシュ
  • フィニッシュ

2.それぞれのフェーズの目的を明らかにする

  • グライド:滑る=支える+乗る=支える+(前に水を押す+動く)
  • スイッチ:両手のタイミングを合わせる
  • リカバリー:水上の手で重心を前に動かす
  • エントリー:手の重みで入水する手を素早く伸ばす
  • キャッチ/プル:手に水を当てて支えにする
  • プッシュ:水を後ろに押す
  • フィニッシュ:水中で水を放って手を水上で引き寄せる

3.支えとなる部位や固定する部位を決める

  • グライド:水中で伸ばした手
  • スイッチ:頭(スイング動作)、伸ばした手/肘(入水動作)
  • リカバリー:水中で伸ばした手、胸鎖関節、水上の手の上腕
  • エントリー:入水の手の上腕、胸鎖関節
  • キャッチ/プル:肘(手首の回転)、上腕(前腕動作)
  • プッシュ:上腕(前腕動作)、体幹(肘を伸ばす動作)
  • フィニッシュ:上腕(放つ動作)、胸鎖関節(引き寄せ動作)

4.動かす部位を時間順に決める

  • グライドの例
    伸ばす手を支えにする→伸ばす手の垂直方向を決める→伸ばす手の水平方向を決める→からだの長軸の回転角を決める→からだの短軸の回転角を決める→腰の位置を決める→両足の間隔を狭める(股間を締める)

5.条件判断のためのインプットと変化させる内容を決める

  • グライドの例
    ー伸ばす手の上と下を通る水の流れ:下の方を厚くする
    ー胸で受ける水の塊:増える手の方向とからだの回転角を見つける

6.意識して動かす部位の順番と条件判断を組み合わせる

  • グライドの例
    「手の上下を通る水の流れ」と「胸で押す水の面積」が最大になるように伸ばす手の方向を垂直/水平に動かして変える

7.ラベル化する

  • 一連の動作を簡単な表現に置き換える
    →動詞のみ、動詞+目的語、動詞+目的語+修飾語
  • インプット(感覚や知覚)を簡単な表現に置き換える
アルゴリズムが正しく動作するかは条件判断で使用するインプットにかかっている。どのタイミングでどのような感覚や知覚が得られるか。さらに文字化するためには、その文字を見れば対応した感覚が想起できるような文字を選ぶ必要がある。

またアルゴリズム全体を暗記しやすくさせる必要もある。組み込み関数を増やして、文字を見ればその動作ができるようになれば複雑な動きでも正しく動作させることができる。







2018年4月27日金曜日

[NMP]暗記のためのラベル化

ラベル化の必要性

動作それぞれがアルゴリズム化されれば、あとはアルゴリズムを覚えれば上手に運動できるようになる。ただし1つのアルゴリズムは20~30のステップ(現段階の分析による)により構成されるので、それらを全部覚えるのは大変である。

そこでこれまでの人生経験において組み込み関数化された動きを活用する。これらの組み込み関数は名前がついており、その名前を見ればからだが何をすればよいかがわかるようになっている。

例:「歩く」

歩くという動作のアルゴリズムは以下の通りである。
  1. 前傾して重心を移動する
  2. 片足が前に出やすいように反対側の足に重心をかける
  3. (インプット)重心がどの程度移動しているか
  4. (条件判断)からだが前に倒れる直前の重心の移動状態を前のめり感100%とすると、30%に達したとき(目標速度による)に片足を前に出す
  5. (インプット)動かした足の移動距離
  6. (条件判断)歩く速さに合わせて移動距離を決めて着地する
  7. 着地した足に重心をかける
  8. 3~7を繰り返す
なおここではどこを支えにしてどの筋肉を使うかまでは記述していない。それらを加えるとステップ数は倍増、三倍増することになる。
速く歩きたいときは4の前のめり感を50%に上げたり、6の移動距離を大きくしたり、3~7をより早く繰り返したりする。

このように複雑なステップを、「歩く」という文字を使えば(歩ける人ならば)誰でもできるようになる。「速く歩く」「ゆっくり歩く」というバリエーションも条件判断基準(パラメータ)を変更することで対応できる。

「泳ぐ」ためのラベル化

それでは「泳ぐ」はどうか。歩くほどシンプルではないからこそ、多くの人が困っているのである。「速く泳ぐ」「ゆっくり泳ぐ」も何をパラメータとして変化させてよいかわからない。
つまり「泳ぐ」を複数のラベル=アルゴリズムに分解する必要がある。一つのラベルはさらに複数のラベル=アルゴリズムに分解することができる。
以下が「泳ぐ」をラベル化する例である。
  • 泳ぐ=滑る+押す
  • 滑る=乗る+支える
  • 乗る=押す+動く
  • 押す=当てる+伸ばす
  • 押す=放つ
  • 伸ばす=縮める
  • 呼吸する=回す+ひねる
  • 回す=伸ばす+つなげる
  • 運ぶ=放つ+抜く
このように「泳ぐ」という複雑な動作を、既知の動作の名称の組み合せにすることで、短時間で暗記して動作できるようにするのがNMPの目的である。



水泳動作の三原則:「重力」「座標」「支え」3

三原則の最後が「支え」である。姿勢や動作がうまくできない方の最大の要因だとわかったのは、プライベートワークショップで時間をかけてからだの動かし方を教えることができたためである。これまでの10年間の課題が一気に解決した。

3. 支え

人間は姿勢を作るときや動作をするときに、動かさない場所を決めて姿勢や動作の支えとしている。物を運ぶときや投げるときは支えを意識して決めているし、姿勢を正すときは無意識にからだの一部を支えにして他の部位の位置を調節している。

文献やエビデンスがないので「全て」とは言わないが、水泳について言えば約20のアルゴリズム全てに支えが存在する。

例:斜め姿勢を切り替えるクロールの動作

支え:頭→従って頭は回転しない
動作:スイング→回転運動のため軸が存在する
軸:長軸→頭頂部から背骨を通り腰に至る直線

例:斜め姿勢

支え:水中で伸ばした手
動作:斜め姿勢を維持して胸で水を押せるからだの向きを決める
(回転運動および前傾運動)
軸:長軸および横軸→腰骨を貫通する直線

例:リカバリー

支え:水中で伸ばした手
動作:水上の手を前に運ぶ→下から上への垂直スイングと横方向のスイング
軸:垂直スイング→肩、水平スイング→肘

例:リカバリーの垂直スイング

支え:胸鎖関節
動作:広背筋を使って鎖骨を前に運ぶ
軸:胸鎖関節

例:水中のキャッチ

支え:肘
動作:前傾しながら前腕を立てる
軸:肘

従って、以下のような課題は支えが見つからないことが原因となる。
  • 水中で手を伸ばすと顔が横を向く。
  • グライド姿勢で肘が曲がる。
  • グライド姿勢で背中が湾曲する。
  • 回転角が大きい(オーバーローテーション)。
  • リカバリーで肩や肘、手首に力が入る。
  • リカバリーで肩の可動域を越える。
  • キャッチで手首が折れ曲がる、手に力が入る。
  • キャッチで肘が伸びている。
これらの課題はスイマーの持つ課題全体の8割以上を占めている。
つまり姿勢や動作において何が「支え」になっているかを理解し、姿勢を作ったり動作を行ったりすることで、8割以上の課題が解決できるのである。

今後のレッスンではこれら支えについてお客様にまず理解していただき、ドライランドで確認してから水中でその支えが機能するか確認するアプローチをとる。

○静的な支えと動的な支え

一般的な支えは支え自体は動かず、他の部位が動く。これを静的な支えと呼ぶ。
水中ではおもしろいことに、物体を素早く動かすことで水の抗力が生まれ、陸上の摩擦力による抗力と同じ状態を作り出すことができる。これを動的な支えと呼ぶ。

動的な支えは次のタイミングで作ることができる。
  • 入水した手を水中で素早く伸ばす。
  • 水中にある前腕を肘を支点にして素早く動かす→キャッチ
  • 水中にある曲がった肘を素早く伸ばす→プッシュ
  • 曲がったひざを素早く伸ばす→キック
これらの動的な支えを使ってより大きな力を生み出すことを「てこ化」と呼ぶ。
てこを使うことで小さな力でより大きな推進力を生み出すことができる。

なおこれらの動作で大きなエネルギーを使わないことに注意する。力を入れたら素早く動作できないためである。得たい効果が得られるようにするために、てこの元となる動作は最小限のエネルギーで済むように練習で磨く必要がある。




2018年4月26日木曜日

水泳動作の三原則:「重力」「座標」「支え」2

三原則の2番目が「座標」である。

2.座標

座標とは自分を中心にした三次元の空間座標のことである。立った姿勢では、進行方向をX軸、地面と平行で進行方向と垂直な軸をY軸、地面と垂直な方向をZ軸とする。
この座標を捕捉するのが位置覚である。位置覚は深部感覚の一つで,視角などに頼らずに,自分の身体の各部がどういう相対的な位置にあるかを判断する感覚をいう。

地面に垂直に立った姿勢では位置覚による座標が、絶対座標とほぼ同じになる。このためからだを動かしたい方向と実際の方向は一致する。

ところが上半身を前傾させると、脳が考える水平面と実際の水平面にずれが生じる。このため「からだに対して」水平に動作させようとしても、絶対的な水平面を意識してしまい動作がうまくできなくなる。ゴルフのスイングが難しい理由である。

○水泳の座標が難しくなる理由1:軸が混ざる

水泳の場合は横に伏して運動する。そうなると本来はXYZ軸が変わるはずであるが、陸上のXYZ軸に基づいた位置覚を引きずって動かすことがある。

簡単な例が、リカバリーの素振りである。陸上で上体を垂直にしたままリカバリーの手の動作を行うとき、からだは地面に垂直なので本来は上方向に泳ぐように動作をしなければならないが、前方向に泳ぐことを想定して手を動かそうとする。この結果肩の可動域を越えて手を動かすことになる。初心者では10人中9人がこの動かし方をする。

○水泳の座標が難しくなる理由2:軸が動く

もう一つの理由が、「頭の向きで軸が変わる」ことである。
位置覚は頭を中心に構成されるため、頭が傾くとXYZ軸がその分だけずれる。
  • 前を見ながら泳ぐ
  • 下半身が下がる
  • 息継ぎで頭が曲がる
  • 手を内側に入水することで頭がはじかれて外を向く
のようなときに、自分の考える座標と実際の座標に差が生じる。
自分では正しい位置に手を動かしているつもりでも、実際には異なるところに手があるケースはかなり多い。

○正しい座標を「補正力」で身につける

自分の考える(位置覚による)座標と、絶対的な座標を近づけることができれば正しい動作にしやすくなる。そのためには、
  • 自分の考える座標は絶対的な座標とは異なっていることを認める。
  • そのうえで補正をかける。
が必要である。

例えば入水位置が狭いと指摘されたのであれば、進行方向(時計盤でいえば12時の方向)に手を入水するのではなく。2時や10時の位置に入れる。
手を伸ばす位置が浅いと指摘されたのであれば、今よりも30cm深いところに手を伸ばす。

このようにして補正をかけることで、正しい状態に近づける。繰り返し練習すれば(1万回)、補正をかけた動作が組み込み関数になるので意識しないでも正しい動作ができるようになる。

具体的には以下のように場所を決める。
  • 水平面の動作は、水面上に時計盤をイメージして短針の位置で場所を決める。
  • 垂直面の動作は、水面からの距離で場所を決める。
  • 進行方向をからだの軸と一致させ、立位のときのZ軸にする。立位のときのX軸にしない。

○自分の座標を絶対座標にする

主にプールで泳ぐのであれば上記の方法だけで良いが、オープンウォータースイムを行う場合はもう一段階ステップアップする必要がある。

プールで静かな水面を基準に動作を行うことに慣れてしまうと、水面が大きく変わるオープンウォータースイムで混乱する。そこで自分のからだを絶対座標化して、自分のからだの動きの少ない部位を基点した距離や角度を使うようにする。以下が例である。
  • 手を入水する場所は頭頂部の横延長線上
  • 手を伸ばす方向は伸ばした手が視界に入る方向
  • リカバリーは背中の面を越えない。水が被さってきたときはリカバリーせずに待つ。
こうすればどのようにラフな海でも、落ち着いて泳げるようになる。



2018年4月24日火曜日

水泳動作の三原則:「重力」「座標」「支え」1

水泳のアルゴリズムを最適化するためには、水泳に特有の動きを考慮する必要がある。
これを水泳動作の三原則と名付ける。

1.重力

○重力を活用しない水中の動作「はいはい」

人間が歩行するときに最初に行うのが、「前傾して」重心を前に移動することである。足はこの重心移動の次に動かしている。
陸上で歩行できない=前傾による重心移動ができない赤ちゃんは、「はいはい」する。
はいはいのアルゴリズムは以下の通りである。

  1. 手を地面に着く。
  2. 手に体重を乗せる(重心を移動する)ことで上体を前に動かす。
  3. 上体を前に動かすことで足を引きずって前に動かす。
  4. 1~3を片側ずつ交互に行う。
はいはいのビデオをいくつか見ると、両手による1と2が最初のステップ、斜め姿勢を作ることで下半身を引き寄せることができると片手交互の1~3までのステップまでできるようになる。

泳ぎの下手な人や泳げない人を見ると、まさに「はいはい」と同じような動きをしている。手を前に伸ばして押さえれば(かけば)からだが前に動くと期待するが、実際には水は地面ほどの摩擦が得られないので手が手前に動くだけになる。空回りである。

それではなぜ下手な人は「はいはい」しようとするのか。それは前傾による重心移動ができないという固定観念を持っているためである。

レッスンではお客様に「前のめり感」100%を試してもらう。水中ではその10分の1が最大で得られるが、それは非常に微細なものである。最大でも「その程度」しか得られないので、前のめりを意識することが難しく、はいはいに頼ってしまうのである。


○重力を活用する第一歩:入水動作

横になった姿勢では前傾が難しい。そこで入水する手を水中に伸ばすことで、前のめり感を作る。
入水する手の肘を高い位置にすることで、入水時の運動エネルギーに転換する。水中で素早く手を伸ばすことで、体重を前にかけることができる。ゆっくり手を伸ばすとからだが水に押されるので体重を前にかけることができない。水に押される力を上回る加速を手に与える必要がある。

○重力を活用する第二歩:浮力を活用する

重力を活用する次のアプローチが、浮力を活用することである。
水中にある物体は、その体積の同体積の水の重さだけ浮力を受ける(アルキメデスの原理)。
この浮力を受けることについて、簡単な実験をやってみた。

ペットボトルの脇にフォーク、下にセラミックを輪ゴムで着けて、シンクの底にボトルが触れない程度にボトルの中に水を入れる(写真1)。なお全体の重量は300g、フォークは22gで体重に対する腕の重さとほぼ同じである。
そのままシンクに入れると、セラミックを着けた側が沈む(写真2)。
写真1
写真2

フォークをボトルの上の方に伸ばす(写真3)。沈めると平らになる(写真4)。フォークを上の方に移動すると、前の方がさらに沈む。手元には割り箸(比重0.4~0.7)とフォーク(比重7.7~7.9)しかなかったので、人間の手の密度に近い物質で比較することができないが、重いものを前に移動するほど重心が前に移動し、その結果受ける浮力の分布が変わることはわかる。
写真3
写真4


次にこのボトルを押してみる(写真5)。静止した状態で押すと押す前よりも位置が上になるが、その後押す前の位置に落ち着く。前に動かしながら手を放すと、後が浮き上がってから、その後押す前の位置(前後のバランス)に落ち着く(写真6)。
写真5
写真6
根拠がないのだが、おそらく、
  • 手を放した場所で水が押し返す
  • ボトルは前に移動しているので、ボトルの下部が水に押し返される
  • その結果前が沈んで後が浮いた状態になる
これを人間で試しても全員が同じように足が浮く。最初に床を蹴っているため足が上に来るという理由もあるだろうが、それを強化しているのが浮力であると考えられる。

上記の実験やお客様を対象にした結果から、
水を前向きに押し続けることで水がからだを前向きに押してくれる
ということがわかった。
これを「水に乗る」と定義する。
この技術を使えているアダルトスイマーは、残念ながら非常に少ない。
しかし競泳の選手は全員この技術を使っているのである。


[NMP]神経動作プログラミングとは

運動学習メソッドとしてNMP(Neural Motion Programming)を確立するため、考えがまとまった部分から文字化することにした。

○最小運動単位

運動における全ての姿勢や動作は脳が指令を出す。
 a) からだのどの部位が
 b) どのタイミングで
 c1) どのような形にするのか(姿勢)
 c2) どのような動きにするのか(動作)
これが最小運動単位になる。
一つの姿勢や動作は、この最小運動単位を複数組み合わせることで実施される。

○インプットによる条件判断

運動には、環境や状況に応じて動きを変化させる場合がある。例えば、
  • 相手の動きに合わせて自分の動きを変える(武道、格闘技など)
  • 物体の動きに合わせて自分の動きを変える(球技全般)
  • 物体が置かれた環境などに合わせて自分の動きを変える(ゴルフ、ボウリング)
  • 環境に合わせて自分の動きを変える(水泳)
これらは主に視覚により情報を入手する。水泳は触覚や平衡感覚など他の知覚を使用する点でユニークである。

これら運動を変えるための情報を「インプット」と定義する。球技では役割が変わるとインプットの種類も変わってくる(例:ピッチャーとバッターと野手)。

得たい結果が得られるように動作を行うのが目的であり、この目的を達成するために必要最小限のインプットがあれば良い。インプットが多いほど条件判断が多くなり、得たい結果を素早く得ることができなくなる(と考えられる)。

○動作をプログラムに見立てる=アルゴリズム化

誰でも短期間で運動できるようにするためには、
 ・運動をできるだけ小さい単位に分解して、
 ・必要なインプットと変えるべき条件を明確にして、
 ・運動のステップを記憶しやすくする
必要がある。

そこで一連の動作をプログラムに見立てて、「アルゴリズム」と呼ぶ。
アルゴリズムには複数の運動が存在し、インプットによる条件判断も含まれる。
おおまかに分類すると、水泳には約20のアルゴリズムが存在する。
これらを暗記して、からだ対して実行命令できるようになれば、誰でもラクにきれいに泳げるようになるのである。

○組み込み関数の存在:運動神経の善し悪し

アルゴリズムの中の運動の一部は、これまでの人生経験において既知のものがあり、これらはステップを一つずつ追わなくても結果を得ることができる。
これを「組み込み関数」と呼ぶ。

運動神経の良い人とは、この組み込み関数を多く持っている人のことである。その人にとって新しいスポーツであっても、その動きを見ながら自分の組み込み関数を呼び出すことにより、見よう見まねでそこそこできるようになってしまう。

ただしこのような人は、組み込み関数を使っているので脳がどのように命令したかを意識していない。そこで人に教えるときには動作を示したり、擬態語(シュッとかバシッとか)や意味不明語(しっかり、きちんと、ちょっと、少し)を使ったりして説明しようとする。教わる方が組み込み関数を持っていればそれでも通じるが、組み込み関数を持っていない(運動神経の悪い人)にはちんぷんかんぷんになる。

子供の頃から水泳を習っていて、水泳について組み込み関数を多く持っている競泳あがりのコーチが、泳げない大人に対して教えづらいのはこれが理由である。

○動作を「暗記する」必要性

レッスンでアルゴリズムができるようになっても、その後の自主練習でうまく行かないことがほとんどである。これはアルゴリズムを正しく行っていない(=バグがある)のが理由である。そしてアルゴリズムを正しく行えない最大の理由が「暗記できていない」からである。

からだを動かす以上脳がその手順を覚えなければならない。「からだが覚える」という表現があるが、これは意味をなさない。からだは勝手に動かないからである。正確には、「脳が手順を伝えなくても得たい結果が得られる」、すなわち組み込み関数にすることである。

一つのアルゴリズム全体が組み込み関数となるためには、1万回の動作が必要と言われている(1万時間とも言われる)。水泳の主な動き全て(20アルゴリズム)が意識しないでできるようになるには、20万回の動作が必要になるのだろう。25m20ストロークなら25万m=250キロ=200日(1回1.25キロとして)と大したことはない。朝晩に素振りをすればその半分で済む。ポイントはアルゴリズムを暗記することを目的にして練習することである。






2018年4月8日日曜日

実録レッスン:ラクに滑るように泳ぐには

短時間で水泳がどこまで上達できるのか。
新しいメソッドの検証の場としてレッスンを始めた。

○お客様:Kさん(52歳)

ー6ストロークしか泳げない(からだが沈むため)。
ーTIレッスン受講歴:なし
ーDVDなどの教材の購入:なし
ードリルの練習:なし

からだが沈むので、泳ぎ続けることができない。
フィットネスクラブの成人レッスンに参加したことはあるが、コーチから「腹圧をかけろ」と言われたものの何をすればよいかわからなかった。
トライアスロンの大会に参加登録をしたので、1カ月で1500m泳げるようにならないといけない。
YouTubeのビデオを見て、これだと思って申し込んだ。

過去のスポーツ経歴

・剣道:小学校および中学校
・空手:高校
・ゴルフ:成人になってから少々

○レッスンのアプローチ

Kさんのスポーツ経歴より、以下についての理解は深いと判断した。
  • 重心移動
  • 素早い動作による加速
  • 支えになる場所と動かす場所の区別
  • てこの利用
  • 相手の動きに合わせて自分を動かす
そこで、以下のような点をまず理解してもらった。
  1. 水泳こそ重心移動が必要であること
  2. 力ではなく加速であること
  3. からだの使い方はどこに指示するかで動かし方が変わること
  4. エネルギー消費が減れば苦しくなくなること
そのうえで、上記の点を阻害する以下の言葉を脳から削除してもらった。
  • 浮く
  • かく
  • 蹴る
  • 運ぶ
  • 伸びる
この段階で新しい技術を吸収できる素地が整う。
次に技術をドリルで身につける。それぞれの技術は動詞でラベル付けするので、動作全体を覚えるのに役立つ。
  • 委ねる:からだのできるだけ多くの面積を使って水を押し、重心を移動する。
  • 跳ねる:ひざをゆるめ、ひざの裏を素早く伸ばして加速する。
  • 乗る:初速を加えた後に、上半身で水を押し続けることで下半身を上げる。
  • 滑る:前後左右がバランスした姿勢で水を押すことで、減速を抑えて前に移動する。
  • 合わせる:手と足、左右の手の動作のタイミングを合わせる。

過去の運動経歴が役に立つ

これまでの指導経験により、どのようなスポーツであれその経験は水泳に役立つことがわかった。
  • からだの動かし方
  • 重心の捉え方
  • 感覚・知覚
こちらにそのスポーツの経験が全くなくても、一般的な知識から「そのスポーツのこの動きはこのようなことをしていますね?」と問い掛けると、ほぼ正解であった。

結局人間がやる運動である以上、人間がやれる範囲でやれることをやっているのである。
従って水泳固有の視点(重力、座標、支え)さえ理解できれば難しいものではないことがわかる。

○レッスンの成果

15分のドライランド・リハーサルと45分のレッスンを1つのセットとして、休憩をはさんで2セット行った。

6ストローク泳いでも沈まなくなり、息継ぎなしで12ストロークまで泳げるようになった。またスピードもほぼ倍に速くなった。

大会まで日が浅いため、確実に呼吸ができる技術と、方向確認する技術を次の習得目標とした。