2016年9月16日金曜日

短時間で効率の良い練習のまとめ

スイム 4200ヤード


今年の本格的なスイム練習シーズンが終わりに近づいている。今年の最大の収穫は、心拍数に基づいて練習を高度化できたことである。以下にその変遷をまとめた。

○心拍数導入初期(5月17日)

  • 距離:4000ヤード
  • 練習時間:1時間29分(実質1時間8分)
  • 平均移動ペース:1分42秒
  • 平均心拍数:131bpm(毎分)、最大心拍数:151bpm
  • 練習内容:10×100のテンポピラミッド、10×100のストロークピラミッド、2×500のロング、5×100のスプリント
心拍数の推移を見ると、途中で上がらずに下がっている。また休憩時間が長いため心拍数の落ち込みが大きい。ロングではスピードを上げずに心拍数が上がっている。これは心拍数を上げるための運動としては理想的であるが、スピードを上げる練習では無駄なエネルギーの消費を意味する。スプリントをしているにもかかわらずペースは1分30秒前後で「やや速い」状態にとどまっている。

ゾーン分布(Z1:カルボーネン法による予備心拍数の60%未満、Z2:70%未満、Z3:80%未満、Z4:90%未満、Z5:90%以上)を見ると、ゾーン3と2で50%を占めており、完璧な有酸素運動になっていることがわかる。健康のための練習であればこれが理想的だが、スピードアップの練習としては物足りないことがわかる。


○心拍数導入中期(6月17日)

  • 距離:4200ヤード
  • 練習時間:1時間7分(実質1時間4分)
  • 平均移動ペース:1分32秒
  • 平均心拍数:152bpm(毎分)、最大心拍数:164bpm
  • 練習内容:4×1000のペーススイム(ペース25秒)
心拍数の推移を見ると、最初の9分で心拍数の上昇がゆるやかになり、その後は確実に上昇している。20秒の休憩で心拍数は10%程度下がる。ただし休憩時間が倍になっても20%下がることはなく、継続的な運動を行う上でのボトムライン(私の場合135~140)があるようだ。



ペース25秒はウォームアップよりも少し速い程度である。この段階では速いペースを維持することができなかったので、1000ヤード続けて泳いで確実にキープできるペースで泳いでみた。それでもゾーン分布の結果では6割がZ4(運動強度80~90%)、Z5と合わせて7割となった。練習後の感じでは「速く泳ぐ練習をした」満足感が高い。これ以降Z4が最低5割、Z4とZ5の合計が7割をスピードアップ練習の評価基準とした。




○心拍数導入後期(9月16日)

  • 距離:4200ヤード
  • 練習時間:1時間12分(実質1時間1分)
  • 平均移動ペース:1分28秒
  • 平均心拍数:151bpm(毎分)、最大心拍数:166bpm
  • 練習内容:10×100のテンポピラミッド、10×300のペーススイム(ペース22秒)
テンポピラミッドでフォームと力の入れどころを確認する。テンポピラミッドの休憩時間は15~20秒として心拍数の低下を最小限に抑えた。ペースは香港のリレーを意識して4~5回10分~20分を速く泳ぐペースとして22秒に設定した。21秒は現在のタイムトライアルペースである。

ペース練習の休憩時間は30~40秒として、この速いペースを300ヤード維持する回数を練習毎に増やした。今日が最多の10回である。この次のステップで連続で泳ぐ距離を400ヤードに増やし、ペース練習の回数を5に減らして練習毎に回数を増やしていく。


ゾーン分布はきれいな逆ピラミッド形になった。Z5で3割以上を占めた経験は水泳ではないが、泳いでいるときはこれまでに比べて格段にきついという印象はなかった。ウェイトトレーニングを行うことで、力の入れどころがわかったことが貢献している。Z5が最も長く、Z5とZ4で50%を越えているので、スピードアップ練習としては理想的な練習であったと評価できる。



○まとめ

これまでの心拍数を使った練習から、以下のような考察が得られた。
  1. 心拍数で練習の「質」を評価することができる。この3回の練習を比べても、泳ぐ時間は減ったにもかかわらず運動強度は非常に上がっていることがわかる。
  2. 運動強度を上げる練習を行えば、スピードの底上げが期待できる。
  3. どのような練習で運動強度(心拍数)が上がるかを理解しておく。漫然と泳ぐ<テンポ一定<ストローク数一定<ペースで、ペース練習が最も強度が高い。
  4. 心拍数を上げるだけならスプリント練習の方が上がるが、本数をこなすことができない。また休憩時間が増えると心拍数は急激に下がる。練習の主眼はあくまでゾーン分布で高いゾーンの時間を増やすことである。
  5. 運動停止直後に心拍数が上がる特性を利用したのが水泳のインターバルトレーニングである(と理解している)が、実際には心拍数は上がらず、15秒で10%程度下がる。従ってインターバルトレーニングの前提が成り立たないことがわかった。なお陸上ではランの直後に心拍数が上がることが確認できた。
  6. 自分を追い込みたいのであれば、リラックスして泳げるペースより1~2秒マイナスしたペースで泳ぎ、休憩時間を30秒以内にする。1回に200以上泳げばゾーン4にすぐ到達できる。ただし最低でもセット合計で1000を泳ぐ。
今後は1回に泳ぐ距離を500程度まで伸ばして現在のペースを維持して泳げるようにする。11月に入ったらいよいよペースを1秒上げて、本格的なスピードアップの練習に移行したい。このときにはスイムの回数を減らし、ウェイトとラン、バイクの複合練習に切り替える。



2016年9月8日木曜日

水中ウェイトトレーニング

スイム 4200ヤード

ウォームアップ 200
テンポピラミッド 10×100@1.15-1.30-1.00秒/0.05秒刻み
ペーススイム 10×250@22秒
ペーススイム 4×100@21秒
クールダウン 100

健康投資プロジェクトを開始するにあたり、米国疾病予防管理センター(CDC)が公表している運動ガイドラインに従い運動を始めた。


  • 1週間に150分の中強度の運動、または75分の高強度の運動
  • 1週間に2回以上のウェイトトレーニング(足、腰、背中、腹筋、肩および腕)
中強度は運動強度65%( CDCでは50-70%と指定)で、カルボーネン法によると私の場合目標心拍数は134となる。高強度は運動強度80%(CDCでは70-85%と指定)で、目標心拍数は147となる。

ウェイトトレーニングは16種類の器具を使う。いずれも10回ぎりぎりできる重さに設定し、10回を2セット行う。プロティンを補給した後で30分のランを続ける。心拍数が急激に上がり続けられなくならないように、最初の5分はゆっくりペース+傾斜5%、心拍数が135程度で落ち着いた段階でペースを上げ、さらに傾斜を10%にしてペースを少し落として145あたりを維持してトータル30分走る(ドラマを見ながらなので苦にならない)。

ウェイトトレーニングのメリットは、使う筋肉を決めて力を出す方法がわかることである。器具を動かすためには、普段出すことのない大きな力を瞬間的に出す必要がある。これを10回続けると、鍛えたい筋肉に加えて、周辺のどの筋肉を使うと持続できるかもわかってくる。

○ウェイトトレーニングの考え方を水泳に取り入れる

長時間負荷を上げるのに最適なのはペース練習である。ペースを維持するための「力の使い方」についていろいろ試してみたが、今ひとつ「これだ」というものがなかった。そこでウェイトトレーニングで学んだ筋肉の使い方を、水泳に適用してみた。

  • 筋肉を使う部位とタイミングをできるだけ小さく、短くする。
  • 力を出すときにはウェイトトレーニングのマシンを使っているときをイメージして、一気に大きな力を出す。
具体的には、以下のようにこれまで意識しなかった部分を使って、より大きな力を出す。
  • キャッチ:肘から先だけを動かすが、より大きな力を出すためにはわきの下から背中にかけての筋肉を使う。
  • プル:上腕の外側と肩の外側の筋肉を使うが、胸の筋肉を使うとさらに大きな力を出すことができる。
  • プッシュ:上腕の内側と前腕の筋肉を使うが、胸の筋肉と腹筋を使うとさらに大きな力が出せる。
10月の香港のリレーに備えて、リラックスペースより1秒速いペースで10セット泳いでいる(毎週距離を50ヤードずつ増やし、最後は10×400にする)が、これまで出したことのない力を瞬間的に出すことで、これまでよりかなりラクにペースをキープすることができるようになった。

さらにペースを1秒速くして4×100を行い、さらにウェイトトレーニング的な力を出すことにした。これまではほぼ全力で泳いでペースをかろうじて維持する状態であったが、今回はかなり貯金ができて、結局2秒速いペースとほぼ同じタイムで4本泳ぐことができた。ただし4本目の最後はウェイトトレーニングと同じ状態で、筋肉が疲れて動きにくくなることを感じた。


心拍数についてみると、通常は最も高くなる最後の4×100のペーススイムで、250のペーススイムよりも心拍数が下がった。これは今までになかった現象である。泳いでいてもあわてている感じはなく、ひたすらウェイトトレーニングを行っている意識であった。

なお全てのセットにおいて以下のようにフォーカル・ポイントを4種類用意し、25または50で変えて行った。
  1. 入水時加速と斜め入水
  2. ハイエルボーキャッチ
  3. 肘の角度を鋭角にしたプル
  4. ももに水の流れを感じるフィニッシュ

○水泳の力の入れどころ

ラクな泳ぎから速い泳ぎに変えるためには、まず動きを素早く行い加速を上げる。素早い動作による加速に限界が見えた段階で、力を加える。

このとき、ウェイトトレーニングと同じで、力を入れるタイミング、力をゆるめるタイミングがある。力を入れるタイミングは、キャッチ、プル、プッシュの3つであるが、全てに力を入れると入れっぱなしになってより大きな力を加えることができないだけでなく、持続することもできない。

そこでキャッチ、プル、プッシュのどのタイミングで力を入れるかをまず決め、そのタイミングで「かなり大きな力」を瞬間的に加えることで、ラクにスピードを維持することができる。

このときの力の入れ具合は、「ウェイトトレーニングで10回できる程度の重さを動かすときの力」が目安になる。水はそんなに重くないが、重いと考えて動かす初速の高さが重要である。





2016年9月4日日曜日

オリンピック男子1500m自由形決勝を分析する

ブラジルのリオデジャネイロで開催されたオリンピックが無事終了した。競泳では現役復帰したフェルプス選手が相変わらずの強さを見せる一方で、10代や20代前半の若手選手も数多く表彰台に立ち、世代交代を印象づけた。

○2016年の自由形のトレンド

2004年、2008年、2012年そして今年のオリンピック自由形を見直してみて、大きな特徴は次の2点である。

1)斜め入水の一般化

かつてのストレートアームは影を潜め、100m以上の距離ではほぼ全てのファイナリストが肘を曲げ、手を斜めにして入水している。このため距離にかかわらず水しぶきの少ない、ゆっくりしたきれいな動きに見える。

しかし実際には入水前に加速を上げている。これは日本選手権出場レベルの選手を直接観察したときにも感じていたのだが、水中の手のプルからプッシュにかけてを力強く行うために、同じタイミングで行われる入水動作をてこにしているであろう。

2)スイッチタイミングの左右の違い

正確には息継ぎをする側としない側で、スイッチタイミングがかなり異なる。息継ぎをするときにはできるだけ直線姿勢を保つために、スイッチのタイミングはフロントクワドラント(入水するときに水中の手は肩より前)である。

一方息継ぎをしないときにはリアクワドラントとなり、入水するときに反対の手はプッシュフェーズに入っている。この結果左右のリズムが異なる。これを「ローピングテクニック」と呼び、ローピングするスイマーとして代表的なのはフェルプス選手だが、現在では決勝に残るほぼ全ての選手がこの技術を取り入れている。


2008年頃までは泳ぎ方が個性的な選手が数多く存在したが、現在では泳ぎ方に大きな違いは見られない。平泳ぎもそうであるが、速く泳ぐための方法が収束に向かっている印象を受ける。バタフライ、背泳ぎはまだ個性が見受けられる点、今後の流れが楽しみである。


○1500m自由形決勝を分析する

今年の男子1500m自由形は、2012年の勝者で世界記録保持者の孫選手が予選で脱落する波乱があった。決勝では最近4年間の成長が著しいパルトリニエリ選手(伊)が優勝、ベテランのイェーガー選手(米)が2位、新星デッティ選手(伊)が3位となり、イタリアが金と銅を獲得する一方、かつての長距離王国オーストラリアは、ホートン選手が5位であった。

以下は上位3選手の結果である。最初のラップに対して平均のラップがどの程度落ちたかを示す劣化率を比べる(表の下から二段目)と、優勝したパルトリニエリ選手が6.2%で最も小さい。決勝で出場した全選手の中でも最小である。


最初のラップはスタートを含み速いため、次のラップと平均ラップを比較した結果が表の最下段である。いずれも非常に小さい数字であり、第2ラップのタイムを基本ペースとして泳いでいることがわかる。

1位と2位の違いについてみると、最初のラップでは0.07秒とほぼ同じであるが、第2ラップで0.36秒の差がついた。上記のように第2ラップは基本ペースとして考えられるので、このペースの差の積み重ねがタイムの差につながっている。表には掲載していないが、最後の200mではイェーガー選手はパルトリニエリ選手より1秒速く泳いでいるが、それまでの差が埋めることができなかった。

3選手のラップタイムの推移を示したものが下のグラフである。パルトリニエリ選手は前半ペースを守り後半乱れたが、一方のイェーガー選手は前半遅めで後半ペースを上げている。ペースの差は0.6秒程度であり1ストローク程度しか変わらないが、トップレベルでは戦略の立て方により勝負が決まることがわかる。



○孫選手の結果を分析する

孫選手は1500m自由形で予選落ちする一方、200mでは金、400mでは銀を獲得した。1500mについて、世界記録を樹立した2つのレース(2011年世界選手権と2012年ロンドンオリンピック)と今回の結果を比較する。


第1ラップの劣化率を見ると、これまでに比べて9.6%と非常に悪い。また第2ラップの劣化率も3.5%であり、これまでのマイナスや1%台に比べて見劣りする。また孫選手はラスト100mの爆発的な加速が印象に残っているが、今回は28.88秒と第1ラップよりも遅く、これもタイムが遅くなった原因と考えられる。

ラップごとの推移を見ると、過去2大会では一定しているが、今回は第4ラップから落ち始め、750mを境としてさらに1秒近く遅くなっている。この結果過去2大会に比べて1.2秒以上ペースが遅くなり、結果として30秒遅くなった。


200m、400mでは素晴らしい泳ぎをしているので、加速を生み出す力はこれまでと変わらないのであろう。ただしこれまで見たように1500mではペースを維持することが戦略上非常に重要であるので、伸び盛りのイタリア勢や底力のあるアメリカ勢に対抗して復活できるかどうかは、中距離と長距離のどちらに焦点を当てるべきかという決断にかかっている。


○我々一般スイマーが学べること

  • 長距離はペースが全てである。そしてペースは第2ラップで決まる。そのうえで第2ラップのタイムを設定する。
  • 第1ラップに対する劣化率は一桁台、第2ラップに対する劣化率は3%未満を目標にする。
  • 順番としては、まず効率の良い泳ぎを身につける。次に劣化率を下げるためにディセンディングの技術を身につける。次にペースを上げる(劣化率が上がってもよい)。そしてそのペースでの劣化率を下げる。