2017年11月29日水曜日

行きと帰りのストローク数を同じにして16秒短縮する

スイム 2600yds

来年の目標を長水路で1500m22分30秒(2015年のベストタイムより5.8%アップ)と定めた。今後はこの目標を達成するための練習ステップを記録する。

○ペースの計算と練習の方針

普段は25ヤードプールなので、1500m=1650ydsとなる。
  • 目標の100ydsペースは22.5×60÷1650×100=81.8秒(1分21秒8)
  • ベストタイムの100ydsペースは1371÷1650×100=83.2秒(1分23秒2)
  • 目標ペースはベストペースより1.7%速い。
ベストタイムを出したときは毎日5000yds以上泳いでいた。そこで次のように組み立てることにした。
  1. ベストタイムを出すことを最初の目標とする。
  2. つまり100ydsペースで83秒を16.5回維持できるようにする。
  3. 一方で劣化せずに確実に泳げるペースとして、ベストペースの8%落ち(6.7秒遅い)である89.9秒を設定する。
  4. 練習では、ベストペースの83秒と劣化しないペースの89.9秒の2つをキーとなるペースとして使う。
  5. 練習では、(1)劣化しないで完泳できるペースの引き上げと、(2)ベストペースで泳げる距離の延伸を同時に行う。
  6. 技術的な面では、(1)はリラックスした状態で加速を上げること、(2)は力の入れどころを絞り込んで持続力を上げることが必要になる。
  7. 練習はできるだけシンプルな内容にする。多くて3種類の練習にとどめる。

○ストロークピラミッド:2×10×100yds

100ydsは25ヤードプールを2往復(4ラップ)する。最初のラップはプッシュオフによるグライドの距離が増えるので、ストローク数は少なくなる(逆に言えば2ラップ目以降はストローク数が増える)。
2ラップ目以降のストローク数を最初のラップと同じにするためには、次のいずれかを行う必要がある。
  • 2ラップ目以降のテンポを遅くして、グライドして伸びる時間を増やす。
  • 2ラップ目以降の加速を上げて、1ストロークで進む距離を延ばす。
ストローク数が減るほど速度が落ちるので、加速を上げる後者を狙う必要がある。道具として以下を使う。
  • 1ストロークたりともおろそかにせず、丁寧に動作を行う:入水、スイッチ動作、手を前に伸ばす動作、水中ストローク動作
  • 入水てこ:入水動作とキャッチ&プルの連動
  • 肘てこ:キャッチ&プルでより多くの水を手に当てる
  • 体幹てこ:プッシュで体幹を使ってさらに遠くに水を押し出す
ピラミッドでは、最初のストローク数を15とした。以降14, 13, 12, 11まで4下げて、その後16まで上げた。それぞれ2回行った。

結果は以下の通りである。ストローク数を減らす局面で得られた加速が、ストローク数を増やす局面において有効に使われていることがわかる。最初に比べて後の15ストロークでは16秒近く短縮している。


ストローク数1回目2回目
151:39.61:37.2
141:37.21:38.8
131:38.31:38.6
121:39.21:37.2
111:38.41:37.1
121:31.81:33.0
131:28.51:29.1
141:28.31:27.4
151:23.31:22.9
161:22.41:19.0

また今回の結果から、劣化しないペース1分30秒で泳ぐためには13~14ストロークで泳げばよいことがわかる。一方ベストペース1分23秒で泳ぐためには15~16ストロークで泳ぐことになる。

このように、ペースを保つための泳ぎを作るために、ストローク数を決めることはとても重要である。各回の泳ぎのタイムが計測できるのであれば、テンポ・トレーナーを使わなくてもペースの泳ぎが決められる。

今後は1回に泳ぐ距離を200ydsまで延ばして、ストローク数を維持して泳ぐための道具を身につける。そのうえで劣化しないペース、ベストペースの両方の泳ぎを作り上げる。




2017年11月26日日曜日

テンポ・トレーナーが使えないときのスピードアップ練習

スイム 2000yds

久しぶりの地元でのプール練習であったため、40分間の慣らし運転とした。
先日千駄ヶ谷のプールでテンポ・トレーナーを使って練習していたら、終わり頃になって使用できないとライフガードが忠告してきた。1コースあたりのスイマーは多いし、あれはダメこれはダメと制約も多いし(練習メニューを置くこともできない)、日本のプールは実に練習しづらい環境であると実感した。

今回はそのような環境でもスピードアップ練習するにはどうすればよいかを試すことにした。

○アップ 400yds

100ydsずつ意識を変える。

  1. ラップごとにリラックス感ー前のめり感ー安定感ーなめらか感を高める
  2. 入水の場所を頭頂部の横延長線上にする
  3. キャッチとプルで肘てこを使う
  4. プッシュで体幹てこを使う

○ストロークピラミッド 18×50yds

最初にストローク数を数える:行き16(=n)帰り17
次の回は同じストローク数で泳ぐ
以降はn-1, n-2, n-3, n-4, n-3, n-2, n-1, nで2回ずつ泳ぐ
帰りは行きの+1とする

ストローク数を2減らすまでは伸びる時間を増やしてゆっくり泳ぐことで対応できる。
さらに減らすためには、水中で動かす手の距離を延ばしたり、水を強く押すなどの加速の道具が必要になる。

最初の50ydsのタイム:50秒
12ストローク(n-4)のときのタイム:52秒

ここからストローク数を増やし始めるが、急激にタイムが3秒速くなり49秒となる。以降は毎回タイムが速くなり43秒で終えた。つまり最初と同じ16/17ストロークで泳ぎながら、50ydsで7秒速くなったのである。これが加速を上げる練習の効果である。


○ストロークピラミッド 6×100yds

n-2/残りn-1, n-1/残りn, n/残りn+1でそれぞれ2回泳ぐ。つまり14ストローク/残り15ストロークで100を2回、15ストローク/残り16ストロークで100を2回、16ストローク/残り17ストロークで100を2回泳ぐ。

14/15ストローク 1分32秒
15/16ストローク 1分29秒
16/17ストローク 1分24秒

ストローク数の増加がタイムの短縮につながっていることから、空回りしていないことがわかる。

私の来年の目標は23分であり、目標ペースで100ydsを泳げたことになる。

以上より目標達成のためには最初のラップを16ストローク、以降のラップを17ストロークで泳ぎ、100ydsあたり1分24秒のペースで泳げばよいことがわかる。
実際には6%の劣化を考慮する必要があり、そうなると15/16ストロークで1分24秒が維持できる泳ぎを作ることになる。

このようにテンポ・トレーナーがなくても目標を達成するための泳ぎを作ることができる。
なおテンポ・トレーナーがあればペース練習ができるので、長距離における泳ぎの誤差が小さくて済む。この代替としてはインターバル練習を取り入れるのがよいかもしれない。
今後自分で試すことにする。








2017年11月17日金曜日

水と仲良くしなければ美しく泳げない2

水と仲良くするとは、
・水から得られる反応を観察する。
・自分が得たい結果であったどうか判断する。
・得たい結果を得られるように姿勢や動作を修正する。
という一連の流れのことである。
これはコミュニケーションのまさに本質であり、「水と仲良くする」ことを言い換えれば「水とコミュニケーションする」「水と対話する」となる。

○水から得られる反応を観察する

水泳は自分の姿や手足をほとんど見ることができないので、観察する対象が限定される。
しかしそれでも次のようなものが観察できる。
  • 水中の手(視覚):伸ばした手の形、入水する手との連動、キャッチとプル
  • 水の表面(触覚):入水時の指先、頭頂部、かかとで感じる
  • しぶきや泡(視覚/触覚/聴覚):手足が水と接触したときに発生する
  • 水面からの深さ(触覚):頭の位置、伸ばす手の位置、腰、足の位置を水の圧力で感じる
  • からだの表面で感じる水が押し返す力(触覚):体重を前にかけたとき、手で水を押すとき
  • 座標系(主に平衡感覚):対水面、対進行方向、対垂直面
  • 感覚:リラックス感、前のめり感、安定感、なめらか感、滑り感、加速感、水抱え感

水と仲良しになるためには、これら水から得られる反応を増やす必要がある。
これまでの指導経験によると、水と仲良しの人が得られる水からの情報量を10とすると、そうでない人が得られる情報量は2か3程度である。

○情報量を増やすためのカンタンなトレーニング

・鏡の前でドライランド・リハーサルを行う

水と仲良しの人は、自分のからだからも情報を得ようと努力している。
鏡の前に立って素振りをしてもらうと、チェックすべき箇所を自分で決めて確認しながら素振りをしている。
水と仲良しでない人は、鏡の前に立っているのに鏡を見ないで素振りをする。
まずは姿勢が動作を正しく行っているかを確認する必要がある。

・浮いて進んでみる

両手前グライドで、浮いて進んでみる。
浮いているというのは、水に上方向に押されていることだと感じる。
進んでいるというのは、水に前に押されていることだと感じる。
自分の力で浮いて進んでいるのではなく、水に浮かせてもらい、進ませてもらっていると感じる。

さらに進む力の元が、重力と自分の力を合わせたものであることがわかればさらに良い。

2017年11月13日月曜日

食わず嫌いのインターバルトレーニング

スイム 30×100m 2分30秒サークル

キャンプが終わり、午前中はランとスイム、午後はゴルフでもしようかと思っていたら、お客様のMMさんよりインターバル練習100m30本の誘いを受けた。
私は強烈なアンチインターバル派であり悩んだが、通常のインターバル練習を発展させるチャンスと思い参加することにした。

○水泳のインターバル練習とは

水泳でいうインターバル練習は、決めた時間でスタートすることを何本か繰り返す練習である。この決めた時間を「サークル」と呼ぶ。
今回は他に参加される方のスピードを考慮して、100m2分30秒で30本泳ぐことにした。

○私がインターバル練習に反対する理由

・前提となる心拍数の増加が水泳では見られない

インターバル練習の目的は、運動直後に心拍数が上がる特性を利用して、短い休憩時間で繰り返し運動することで持久力を増加させることである。
ところが水泳において心拍数が逐次計測できるようになり、運動直後に心拍数は上昇しないことが明らかになった(グアムキャンプ参加者実測値に基づく)。
つまりインターバル練習の前提が崩れているのである。

・速く泳ぐためのプロセスが提示されていない

スタート時間を固定することで何が起きるか。
 ー遅く泳ぐと休み時間が短くなる
 ー速く泳ぐと休み時間が長くなる
この2つだけである。速く泳げば長く休めるという報酬はあるものの、具体的に速く泳ぐにはどうすればよいかというプロセスの提案はない。
ややもすると「根性」とか「頑張る」とか再現不可能な非技術論になってしまう。

・運営者側の論理である

インターバル練習はグループスイムで多く導入されている。
あるコーチは「この方が多くの人数を回せる」とまで言った。
お客様に対して失礼ではないか。猿回しではない。
多数のお客様でも個別のレベルを考慮しながら上達させられるようにするのが付加価値である。

・達成感がクセモノ

集団で行うことで、連帯感や一体感が生まれて頑張れるという意見がある。
また達成感が味わえるという意見もある。
結構なことである。それが速さに直結する明確な論理があれば。
達成感は得られても、技術的には何一つ得るものがない。

○テンポピラミッドを取り入れる

30本を単純に泳ぐだけでは意味がないので、10×3として10段階のテンポピラミッドをインターバル練習に取り入れた。
最初はテンポ1.15秒でスタートして、3本泳いだらテンポを0.05秒遅くする。1.30秒で3本泳いだら今度は0.05秒速くして、テンポ1.00秒で終了する。
テンポが遅くなる局面ではストローク数をできるだけ減らす。
テンポが速くなる局面ではストローク数をできるだけ維持する。

・テンポ1.15秒→1.30秒

1本目のストローク数は行き43帰り45であった。泳ぎ慣れてきた2本目からはスカリングによるプルとプッシュ、入水てこ、肘てこなど加速の道具をフルに使った。
テンポを0.05秒遅くする毎にストローク数は1から2減らすことができ、テンポ1.30秒の段階で行き38帰り40まで減少した。

タイムは1分44秒で、テンポが遅くなるにつれてタイムも遅くなった。ストローク数は減っているのでタイムはもうちょっと速いままかと思ったが、2本目よりも4秒近く落ちて1分49秒であった。

・テンポ1.25秒→1.00秒

ピラミッドの効果が出たのがテンポを速くした局面である。
テンポを0.05秒速くしたときに、前のタイムより3秒速くなった。
ここから先は同じテンポの3本ともタイムが速くなるだけでなく、3本の中でも次第にタイムが速くなるディセンディング状態であった。
最後の30本目はテンポ1.00秒で1分32秒、ベストよりも速いペースで終えることができた。最初のペースより12%速いペースである。

・検討時間の締切があるのがよい

3000mを泳いでベストタイムより速いペースが出せたので、インターバル練習の効果はあったと評価できる。
時間が経ったら強制的にスタートするというのは、次に何をするのかを考える時間に限りがあることを意味する。このためあれこれ考えず、一つの道具に集中することができる。
また今回初めてピラミッドで同テンポにおいて複数本を泳いだが、一つの道具に集中して失敗した場合に、同じテンポで他の道具を使ってみることができるのは非常に良かった。

インターバル・トレーニングに良さを見いだすことがなかったが、実際にやってみると良い面もあることがわかった。ただしそれはテンポピラミッドやペーススイムと組み合わせて、別のタスクを設定した場合に限る。

インターバル・トレーニングの良さを見いだすことができたので、MMさんには大いに感謝したい。

○お勧めのインターバル・トレーニング

  • 100m以上であれば20秒~30秒休憩できるように時間をセットする。
  • 速く泳いで休み時間を増やそうとしない。
  • テンポピラミッドを必ず取り入れる。
  • できれば同一テンポで2本か3本泳ぐ。
  • ストローク数を数えて、テンポが遅くなる局面ではストローク数を減らす。
  • テンポが速くなる局面ではストローク数の増加を抑える。

以上がグループ練習でも使用できるやり方である。
休み時間を確保するために、普段よりも遅めのサークルのグループに入った方が、結果的に速く泳げるかもしれない。







2017年11月3日金曜日

泳げない子と泳げないお母さんが泳げるようになる話 2

レッスン2回目

泳げない人に対する2回目のレッスンは、1回目に学んだ内容を頭で理解することに重点を置く。
1回目のレッスンでは慣れない環境で慣れない動きを行っていたので、言われるがままにやってできたというところであろう。持ち帰ってみて再現しようとしても、ビデオを見てメモでもとらない限り何をしていたか思い出せない。
2回目は1回目とほぼ同じ内容を繰り返すことで、姿勢や動作の正しいやり方について理解するとともに、クロールを泳ぐためには何が必要なのかをマクロの眼で確認する。

両手伸ばしグライド

肘を伸ばすこと、水平面と垂直面の手の位置、頭の向きなどをA/Bコントラスト(極端なケースを試しながら自分の現在位置を知る)を使って正しい状態を理解する。

特に手の深さについては注意深く決める。人間の本能として進む方向=水面に沿って手を伸ばすが、これを斜め下にすることでからだがより前に進むことを理解する。ここは脳が手にコマンドを送る重要なポイントである。

斜め姿勢グライド

斜めと水平の違いがまだ理解できないので、手の位置を下げてから、水面に対する両肩の位置を観察し、上下関係を作るようにした。

斜め姿勢キック/スイッチ姿勢の維持

キックが水平だと腰や背中も水平になるので斜め姿勢が作れない。ひざを斜め向きに動かせるか確認して、動かせたら「ひざ→腰→肩→手」の順番で斜め姿勢を作る。最近は脳からの命令の順番についても細かく決めている。初心者はこの順番が決められないためである。

斜め姿勢をキックで維持できるようになったら、次にスイッチ姿勢を保つ。成功確率は3割程度だが、不安定になることが体験できればOKとする。泳げる人でも確率は5割程度である。

倒れ込みスイッチ(水平姿勢でスイッチ)

倒れながらではなく、床を蹴って水平姿勢になってからスイッチする。
浮いた姿勢でスイッチするので、入水する手の形が下がりやすく変わりやすい。また姿勢が不安定になるのでスイッチ動作もあいまいになる。
ここでは姿勢の完璧さを求めるのではなく、入水動作ができて両手が同時に動けば良しとする。

肘を沈めたリカバリー

2回目のレッスンでリカバリーを導入する。手を前に送ることについて、大人はどうしても上に動かそうとする。それにより肘が背中の面を越えて、肩の可動域を越える動きになる。
まず肘を沈めたまま手を「横」に動かすリカバリーで、手の動かし方の基本を理解する。

ここからビデオ撮影と再生を取り入れる。自分がどう動かそうとしているのか、なぜそれでは問題なのかを眼で見て確認する必要がある。泳げる人のレッスンとほぼ同じ流れになる。

手首を沈めたリカバリー/スイッチ

次に肘の位置を上げて、手首を沈めたままリカバリーする。ここで大人は直線軌跡にしようとするので、半円を描くように肘の軌跡を変える。重要なのはわきの下が動作を決めることである。

息継ぎなしの複数スイッチ

前回と異なるのは、ビデオを見ながら正しい姿勢や動きを作る過程が入ることである。ここで斜め姿勢の重要性を理解することができる。斜めにならないとリカバリーで手が水中に入ってしまうためである。

泳ぐービデオ確認ー意識を変えて泳ぐー変化をビデオで確認、という流れの中で、手足をどのタイミングでどのように動かせばよいのかについて、脳が命令文を作成することができる。

またここで、脳が命令を出さない限り手足はそれなりにしか動いてくれないということもわかる。得たい結果を得るためには脳がフル回転する必要がある。

加速の理解

ここまでくると、入水した手の肘を素早く前に伸ばすことで、加速することがわかってくる。素早い動作が加速につながれば、手でかいたり足で蹴ったりすることを意識しなくなり、ラクに泳げるようになる。

素早く動かすタイミングが力を入れるタイミングでもあるので、泳ぎにメリハリが生まれる。

加速により姿勢がさらに安定するので、上向き息継ぎに移ることができる。

息継ぎは2人ともできないままではあるが、息継ぎしないで泳いでいる姿は、息継ぎができないとは誰も想像できないくらい普通のクロールに進化した。


82歳の女性がラクに泳ぐには

前日の9歳の女の子に続いて、今日は82歳の女性(私の母親)を教えた。
手術や高血圧、さらには裂傷などにより1年半以上水泳から遠ざかっていたのだが、来月シンガポールに行き、例のマリナ・ベイ・サンズのプールで泳ぐという目標を掲げて練習することになった。

春には安全装置の充実した新車を買い、これで伊勢丹に週3行くと意気込んでいたのだが、先日松戸伊勢丹が閉鎖されることになり相当なショックを受けたようであった。このままではボケてしまうと思ってシンガポール行きに誘ったのだが、新しい目標ができて何よりであった。

所見:浮いてかいて進んでいる

脂肪による浮力で、バランスについては何の問題もない。ウェットスーツを着ているのと同じ状況か。
浮いていれば、手で水をかいていれば前に進む。
一方姿勢が平らになっているので、肩が半分水没していてリカバリーが難しくなる。
手を水上で運ぼうとすると、肩の可動域を越えるため上腕がロックされ、手を入水するときの肘の位置が下がってしまう。

・両手前グライド

足首の軟骨がすり減り足が痛いというので、倒れ込んで床を蹴る動作ができないと判断した。
倒れるだけの勢いを使う。
昔教わったように手を中央に伸ばそうとしているが、肩が動かなくなっているので伸ばしたまま手を寄せることができず、肘を曲げてしまう。60歳代以降によく見られる。
手は肩幅より広げて伸ばし、さらに水面から30度下げるようにしたらラクにグライドができるようになった。
もともと浮力があるので、本人は「からだが浮いた」という感覚よりも、「姿勢が安定した」感覚が大きいようである。

・斜め姿勢グライド

以前米国で浮力の大きい女性を教えたときに得られた知見が、「浮力が大きいと斜め姿勢ができない」であった。
斜め姿勢が今できなくても、スイッチと組み合わせればできるようになるという期待から、ここではできないまま次に移った。

・倒れ込みスイッチ

入水する手を水中で伸ばすことで体重が前に移動して、片手を前に伸ばした姿勢でグライドできること(まだ斜め姿勢はできないので平らな姿勢のまま)を、ビデオ撮影・再生で確認した。

この時点でのビデオ撮影と再生は非常に有効である。未知の動作を積み上げているので、本人としては何がなんだかわからなくなってくる。自分の姿勢や動作を目で確認できれば、次も正しい姿勢を作ることができる。

両手の倒れ込みになって、スイッチ後にからだが斜めになる場面が増えていった。あとは伸ばした手に体重を乗せることができれば、スイッチの趣旨を脳が理解したことになり、より正確な命令を手足に送ることができる。

・バタ足

足をももから動かして大きな動きを作っていたので、両足キックから始めてバタ足までを教えた。
テンポは緩慢であるが、これは年齢上仕方がない。
足が浮いていて、本人がラクに感じればOK。
バタ足を入れたことで、ラクになっただけでなく下半身が安定した感覚が得られた。

・完成形

入水した手を深く伸ばすことで斜め姿勢ができるようになったので、リカバリーの軌跡を上ではなく横にするように指示したところスムーズに手を動かせるようになった。

息継ぎは頭頂部を沈めたまま頭を回す意識だけで、がまんの手も少しできるようになった。

30分程度の練習ではあったが、本人もその違いに驚いて、納得したようである。

実は母は2011年にテリーが来日したときに、テリーから直接教わっている。何を教わったかは今となっては忘れてしまっただろう。もったいないことである。
ラクリン夫妻が母と庭で撮影した写真を先日偶然見つけてから、1週間もしないうちに訃報を聞いたので、何か運命的なものを感じた。

グライド姿勢で肘を伸ばすことが次の課題





2017年11月2日木曜日

泳げない子と泳げないお母さんが泳げるようになる話 1

最近水泳を教える時間を減らして、カリキュラムの作成に力を入れている。
5月にはカンタン・クロールが完成し、現在カイゼン・クロールと3種目のカリキュラムを新たに作っている。
ここで抜けていたのが「泳げない人」である。まさに偶然か天命か、知人のお子さんとお母さんを教えることになり、これまで3回60分のレッスンを行った。


○こんな子供さんです

9歳の女の子。全く泳げず水も怖がっていた6歳のときに水泳の短期教室に通ったが、ほとんど成果がなかった。
学校では年数回水泳の授業があるが、具体的なことは教えてくれずにテストだけ行う。これまでの3年間で、顔浸けからけのびまでできるようになった。

○こんなお母さんです

息継ぎができないので息が止められる範囲で「泳げる」。何回か手でかいてから立つ。
顔を出したまま平泳ぎをすることもできない。

10歳で泳げないのは親の責任重大

現在検証しているが、クロールで息継ぎしながら25mを泳ぐことが10歳までにできないと、一生できないままになってしまう仮説を立てている。
もちろん現在のお客様の多くは大人になってから水泳を始めた人達であるが、この人達のように「水泳で健康になる」という強い意志を持たない限り、大人になってから自主的に水泳を学ぶことはない。

これまで多数のお客様から聞いた話によると、顔浸け、けのびができるレベルから25mとりあえず泳げるようになるまで、40歳以上がフィットネスクラブなどのレッスンを受ける場合数ヶ月~1年程度かかる。そこからさらにターンや別の種目となると数年単位である。そこまでの長期間少しずつ技術を磨くことのできる忍耐力のある人達だけが、泳げるようになる。おそらく何倍もの方達が途中で挫折しているのであろう。

一方子供は、10歳ぐらいまでなら一般のスイミングクラブで半年ぐらいで泳げるようになる。圧倒的に早い。だから子供のうちに学ぶ必要がある。

ところが小学校高学年になると、泳げないことが恥ずかしいと考えるようになり羞恥心が芽生え、低レベルのクラスに入ることを嫌がる。中学生以降なら教わる場もなくなってしまう。そして泳げないまま大人になってしまうのである。

自転車に乗ることと同じように、泳げるようになることも親の責任である。中高年にとって水泳を有酸素運動の手段として持つことは非常に重要である。自分の子供の40年後、50年後を見据えて、将来生活習慣病にならないように今から準備をしてあげるのが親の努めである。

レッスン1回目

水に対する恐怖心がどの程度あるかわからなかったため、以下をテストした。
  • 口で吸って口で吐く
  • 息を止めて口の上まで頭を沈める
  • 息を止めて鼻の上まで頭を沈める
  • 頭を横にして耳を水に浸ける
  • 下を向いて顔を水に浸ける
  • 頭を水没する
  • 顔を水に浸けたまま足を床から離す
  • 浮く
いずれも親子でクリアしたので、ここから先はカンタン・クロールのドリル進行とした。

平らな姿勢:問題なし

浮くことができれば、姿勢をまっすぐにすることができる。あとは前傾して床を蹴ることができれば、両手前グライドの完成である。
水慣れテストでは5秒しかもたなかった息も、この段階で8~10秒まで止めることができるようになった。

斜め姿勢:できない

当たり前である。こんな姿勢は陸上で作らないので、水中ではイメージができない。
カンタンレベルのお客様が斜め姿勢を安定させるのに苦労するのを見てきたが、その前段階でも大きな山があることがわかった。問題のステップは以下とみた。
  1. 斜め姿勢がなぜ必要か、脳が理解できていない。
  2. 水面に対してからだを斜めにするという座標感覚がない。
  3. 斜めにするためにからだのどの部分に何を命令してよいかわからない。
どれか一つでも解決できないと、斜め姿勢はできないのである。
何回かアドバイスしながらやってみて、一つの結論を得た。
できないまま先に進める
脳が重要性を理解するためには、スイッチで体重をかけたり、リカバリーで手を水上に出すという斜め姿勢が前提となる動きを行うことが必要と判断した。そこでできないまま倒れ込みスイッチに進めたのである。

片手スイッチ:平らな姿勢で終わる

斜め姿勢から始まる片手スイッチも、平らな姿勢で終わる。
しかし手を入れて前傾すればからだが前に進むという後ろから前への重心移動はこの段階で理解し実践できるようになった。これで良しとする。


両手スイッチ:両方の手が同時に動かせるようになる

これまで大人を教えているときに苦労していた「両手を同時に動かす」ということは、一発でOKであった。これは「手で水をかく」という動作を習ったことがないのが理由である。

キック:バタ足ができるようになる

両足から片足ずつ交互、さらにバタ足への流れも、子供さんは一発でOK。お母さんは「水を後ろに押す」という考えが残っていてクセのあるキックになったが、ラクになったということでこれもOKにした。

最後:6回スイッチで終わる

リカバリーについてはわきの下を開いて手を前に送ることだけを教えて、続けてスイッチできるか試した。
結果は二人とも6回スイッチまでできるようになった。息継ぎなしクロールの完成である。
リカバリーの手は半分沈んでいたり水上で投げ出したりしていたが、いずれもこの段階ではOKとした。
グライドするときの斜め姿勢も、子供さんはほぼできるようになった。お母さんは「からだの浮き輪」もあるのでできなかったが、これは次回修正する。

顔浸けからけのびまで3年かかっていたのが、60分でクロールが泳げるようになったことに二人とも大喜びであった。お母さんは娘と自分の分とで2倍の喜びであった。

最後にお楽しみタイムとして、エンドレスプールの流れに乗る遊び方を教えたところ、最高速の水流に乗って流れるのを大層喜んで繰り返していた。60分前までは頭を沈めるのがやっとだったのに、トラウマがなければ恐怖はすぐに除くことができるのだと感心した。


知らないうちに斜め姿勢ができている