効率良く速く泳ぐためには、この空回りをしないテンポである限界テンポを知ること、そして限界テンポを練習により引き上げることが大切である。
○空回りの実例
例えばテンポ1.20秒で泳いだときのストローク数が16の場合、壁を蹴ってひとかきする時間を2カウントとすると25mのタイムは21.6秒である。速く泳ごうと思ってテンポ1.00秒で泳ぐと、ストローク数によって結果は以下のように変わる。- テンポ1.00秒、ストローク数16でタイムは18秒:3.6秒(17%)短縮
- テンポ1.00秒、ストローク数18でタイムは20秒:1.6秒(7.4%)短縮
- テンポ1.00秒、ストローク数19でタイムは21秒:0.6秒(2.7%)短縮
- テンポ1.00秒、ストローク数20でタイムは22秒:0.4秒(1.9%)遅くなる
実際に1.20秒から1.00秒に変えて泳いでみるとわかるが、テンポを速くするのはとても大変である。テンポを17%も速くしたにもかかわらず、結果であるタイムで17%短縮できるのはストローク数が同じ場合だけである。しかも4ストローク増えると、1.20秒のときより遅くなってしまうのである。
マスターズなどの水泳大会では、通常申告タイムで泳ぐ順番が決まる。最後のレースとその前のレースを比べると興味深い。1つ前のレースまでは、誰もが速いテンポでしぶきを上げて泳いでいる。ところが最後のレース(最も速い8人)は、全体的に静かでゆっくりとした印象を受ける。おそらく選手は自分が最も効率良く速く泳げるテンポを知っていて、そのテンポの中でストローク数を最大にしようとしているのであろう。
速く泳ぎたいのであれば、まず空回りしない限界テンポを知ることが必要である。そのテンポにおいて最も少ないストローク数で泳げる状態が、現時点で最も速く泳げる泳ぎ方になる。
○限界テンポの見つけ方
ゆっくりしたテンポから次第に速いテンポに変えて泳ぎ、ストローク数を数える。ストローク数の変わり方を観察して、限界テンポを見つける。
- テンポを1.40秒にして泳ぐ。ストローク数を数える。通常のプール(特にウォーキングレーンのあるプール)では行きと帰りでストローク数が異なるので、2回泳いで多い方を基準値とする。
- 以下の条件を満たす範囲で、テンポを0.05秒ずつ速くして2回泳ぐ。
「1の基準値+2ストローク」
「前回泳いだストローク数+1ストローク」 - ストローク数が2の条件のいずれも満たさなくなったときに、同じテンポでもう1回泳いで再検査する。
- 再検査において、条件を満たせばテンポを0.05秒速くして続ける。条件を満たさない場合はその時点で終了する。
- 終了したときのテンポ(条件を満たさないテンポ)から0.05秒を引いた数が、限界テンポである。
例えば18ストロークでスタートした場合、21ストロークになるか、18→20のように2増えた段階で再検査となり、同じ状態であればそのときのテンポ-0.05秒が限界テンポである。
○限界テンポの活用法
限界テンポは空回りしないぎりぎりのテンポなので、このテンポ-0.15秒をベーステンポとする。テンポピラミッドではベーステンポ±0.15秒の範囲でテンポを変えて泳ぐ。
練習による上達の方向は2つある。
- 限界テンポにおけるストローク数を1減らす。これにより限界テンポ分だけ速くなる。
- 限界テンポを0.05秒引き上げる。これにより0.05×ストローク数だけ速くなる。
1については加速を上げることで達成できる。ベーステンポ+0.5秒程度の非常にゆっくりしたテンポで泳ぐことで、安定性と加速の両方を磨くことができる。
2については速いテンポで加速を維持することで達成できる。回転角度を小さくしながら水中の手の移動距離を短くして速いテンポに合わせながら、手に当たる水の感覚を維持する。
スピードを上げたときの自分の泳ぎ方をデザインすることは、効率良く練習するために必要である。限界テンポを知り、それを磨くことで練習の質が向上する。
0 件のコメント:
コメントを投稿