3. 支え
人間は姿勢を作るときや動作をするときに、動かさない場所を決めて姿勢や動作の支えとしている。物を運ぶときや投げるときは支えを意識して決めているし、姿勢を正すときは無意識にからだの一部を支えにして他の部位の位置を調節している。
文献やエビデンスがないので「全て」とは言わないが、水泳について言えば約20のアルゴリズム全てに支えが存在する。
例:斜め姿勢を切り替えるクロールの動作
支え:頭→従って頭は回転しない
動作:スイング→回転運動のため軸が存在する
軸:長軸→頭頂部から背骨を通り腰に至る直線
例:斜め姿勢
支え:水中で伸ばした手
動作:斜め姿勢を維持して胸で水を押せるからだの向きを決める
(回転運動および前傾運動)
(回転運動および前傾運動)
軸:長軸および横軸→腰骨を貫通する直線
例:リカバリー
支え:水中で伸ばした手
動作:水上の手を前に運ぶ→下から上への垂直スイングと横方向のスイング
軸:垂直スイング→肩、水平スイング→肘
例:リカバリーの垂直スイング
支え:胸鎖関節
動作:広背筋を使って鎖骨を前に運ぶ
軸:胸鎖関節
例:水中のキャッチ
支え:肘
動作:前傾しながら前腕を立てる
軸:肘
従って、以下のような課題は支えが見つからないことが原因となる。
- 水中で手を伸ばすと顔が横を向く。
- グライド姿勢で肘が曲がる。
- グライド姿勢で背中が湾曲する。
- 回転角が大きい(オーバーローテーション)。
- リカバリーで肩や肘、手首に力が入る。
- リカバリーで肩の可動域を越える。
- キャッチで手首が折れ曲がる、手に力が入る。
- キャッチで肘が伸びている。
これらの課題はスイマーの持つ課題全体の8割以上を占めている。
つまり姿勢や動作において何が「支え」になっているかを理解し、姿勢を作ったり動作を行ったりすることで、8割以上の課題が解決できるのである。
今後のレッスンではこれら支えについてお客様にまず理解していただき、ドライランドで確認してから水中でその支えが機能するか確認するアプローチをとる。
○静的な支えと動的な支え
一般的な支えは支え自体は動かず、他の部位が動く。これを静的な支えと呼ぶ。
水中ではおもしろいことに、物体を素早く動かすことで水の抗力が生まれ、陸上の摩擦力による抗力と同じ状態を作り出すことができる。これを動的な支えと呼ぶ。
動的な支えは次のタイミングで作ることができる。
- 入水した手を水中で素早く伸ばす。
- 水中にある前腕を肘を支点にして素早く動かす→キャッチ
- 水中にある曲がった肘を素早く伸ばす→プッシュ
- 曲がったひざを素早く伸ばす→キック
これらの動的な支えを使ってより大きな力を生み出すことを「てこ化」と呼ぶ。
てこを使うことで小さな力でより大きな推進力を生み出すことができる。
なおこれらの動作で大きなエネルギーを使わないことに注意する。力を入れたら素早く動作できないためである。得たい効果が得られるようにするために、てこの元となる動作は最小限のエネルギーで済むように練習で磨く必要がある。
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