オープンウォータースイムにおいて方向確認は必須の技術であるが、直線距離からどのくらい膨らむと、どのくらい余計に泳がなければならないのかをこれまで計算したことがなかった。
1500mのタイムトライアルにおいて、10月のタイムに比べて2分遅くなった方がいらした。ブイの設置位置が変わったものの、直線距離としてはそれほど変わらないので遅くなる理由が見あたらなかった。そこで丁度良い機会だと捉えて、コースを外れるとどのくらい長く泳ぐことになるのかを計算することにした。
○20m膨らむと10%距離が伸びる
自分の泳ぎのクセで左右に移動する場合にしても、潮や風の影響で流されるにしても、直線ではなく曲線の動きになると考えられる。実際には複雑に動いているのであるが、ここでは単純化して100mの直線距離を泳ぐときに、弧を描くように膨らむと想定する。直線距離は弧の「弦長」、弧を描いたときに直線からもっとも膨らんだ地点と直線までの距離を「矢高」と呼ぶ。そこで矢高についていくつかのケースを考えて、そのときの弦の長さがどのように変わるかを計算した。以下がその結果である。
弦長 | 矢高 | 弧長 | 差 |
100 | 3 | 100.24 | 0.2% |
100 | 5 | 100.67 | 0.7% |
100 | 8 | 101.70 | 1.7% |
100 | 10 | 102.65 | 2.6% |
100 | 13 | 104.45 | 4.4% |
100 | 15 | 105.90 | 5.9% |
100 | 20 | 110.35 | 10.3% |
100 | 25 | 115.91 | 15.9% |
この試算によると、3mや5mではほとんど影響がない。ところが10m膨らむと2.6%、20mでは10.3%と急増する。
逆に言えば20m膨らんでいたものを、10mに抑えるだけで泳ぐ距離を7%短縮することができる。スピードが一定であれば7%の時間短縮につながる。
○膨らむ距離を知る
まず取り組まなければならないのは、底に線がなくてもまっすぐ泳ぐ技術である。これまでの数千人のスイマーのビデオ分析結果では、手の入水位置や伸ばす方向によって、40度程度までからだが水平方向に傾いている。10m泳いだとき(5~8ストローク)泳いだときに、からだが水平方向に傾いているとどの程度中央との距離が離れるかを計算したものが以下の表である。
距離 | 角度 | 膨らみ |
10 | 8 | 1.41 |
10 | 14 | 2.43 |
10 | 18 | 3.12 |
10 | 26 | 4.36 |
10 | 37 | 6 |
入水場所が中央に10cm寄るだけで、15度程度のからだの傾きが生まれる。方向修正をせずに50m泳ぎ続けると約12m直線距離から離れることになり、結果として3%長く泳ぐことになる。
自分が左右どちらに動いてしまうのか、何ストロークでどの程度まで膨らむのかを知ることは重要である。コースロープの端から目をつぶって泳いで、8ストロークでコースの反対のコースロープにぶつかるようであれば10度以上傾いているので、手の入水位置や手を水中で伸ばす方向を変えなければならない。
○うねりのあとのサイティングの重要性
ラフな状況でのOWSを経験した人ならわかるが、1回のうねりで5m流されることはそれほど珍しいことではない。しかもからだの方向が変わることも忘れてはならない。たった15度(時計の短針の1目盛り)うねりでからだの向きが変わるだけで、10m泳げば2.4mコースから外れるのである。しかもうねりは何回も押し寄せてくる。荒れた海では簡単に数十mコースアウトするのである。
従って大きなうねりの後では必ず方向確認(サイティング)をする。流されているかだけでなく、自分の進む方向が変わっていないかを確認する必要がある。
○経験が大きく効果を生む分野
自分の泳ぎのクセを知ったり、うねりに対処したりすることは、経験値が大きくものを言う。方向確認や方向修正も経験により高められる技術である。
まずはまっすぐ泳げるようにフォームを修正する。次に方向確認を頻繁に行ってもスピードを落とさないような動作にする。これらはプールで十分練習できる。
次に方向確認や潮の流れ、うねりへの対応を海で実際に練習する。海で行われる練習会は貴重な機会なので、ぜひ参加して経験値を高めたい。
プールで意識して練習して、海での練習を数回行えば、10m程度膨らみを減らすことは難しいことではない。20mの膨らみが10mになればそれだけで7%の時間短縮につながる。泳ぐ速さを7%上げて持続するよりも、はるかにカンタンである。
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