2017年11月3日金曜日

82歳の女性がラクに泳ぐには

前日の9歳の女の子に続いて、今日は82歳の女性(私の母親)を教えた。
手術や高血圧、さらには裂傷などにより1年半以上水泳から遠ざかっていたのだが、来月シンガポールに行き、例のマリナ・ベイ・サンズのプールで泳ぐという目標を掲げて練習することになった。

春には安全装置の充実した新車を買い、これで伊勢丹に週3行くと意気込んでいたのだが、先日松戸伊勢丹が閉鎖されることになり相当なショックを受けたようであった。このままではボケてしまうと思ってシンガポール行きに誘ったのだが、新しい目標ができて何よりであった。

所見:浮いてかいて進んでいる

脂肪による浮力で、バランスについては何の問題もない。ウェットスーツを着ているのと同じ状況か。
浮いていれば、手で水をかいていれば前に進む。
一方姿勢が平らになっているので、肩が半分水没していてリカバリーが難しくなる。
手を水上で運ぼうとすると、肩の可動域を越えるため上腕がロックされ、手を入水するときの肘の位置が下がってしまう。

・両手前グライド

足首の軟骨がすり減り足が痛いというので、倒れ込んで床を蹴る動作ができないと判断した。
倒れるだけの勢いを使う。
昔教わったように手を中央に伸ばそうとしているが、肩が動かなくなっているので伸ばしたまま手を寄せることができず、肘を曲げてしまう。60歳代以降によく見られる。
手は肩幅より広げて伸ばし、さらに水面から30度下げるようにしたらラクにグライドができるようになった。
もともと浮力があるので、本人は「からだが浮いた」という感覚よりも、「姿勢が安定した」感覚が大きいようである。

・斜め姿勢グライド

以前米国で浮力の大きい女性を教えたときに得られた知見が、「浮力が大きいと斜め姿勢ができない」であった。
斜め姿勢が今できなくても、スイッチと組み合わせればできるようになるという期待から、ここではできないまま次に移った。

・倒れ込みスイッチ

入水する手を水中で伸ばすことで体重が前に移動して、片手を前に伸ばした姿勢でグライドできること(まだ斜め姿勢はできないので平らな姿勢のまま)を、ビデオ撮影・再生で確認した。

この時点でのビデオ撮影と再生は非常に有効である。未知の動作を積み上げているので、本人としては何がなんだかわからなくなってくる。自分の姿勢や動作を目で確認できれば、次も正しい姿勢を作ることができる。

両手の倒れ込みになって、スイッチ後にからだが斜めになる場面が増えていった。あとは伸ばした手に体重を乗せることができれば、スイッチの趣旨を脳が理解したことになり、より正確な命令を手足に送ることができる。

・バタ足

足をももから動かして大きな動きを作っていたので、両足キックから始めてバタ足までを教えた。
テンポは緩慢であるが、これは年齢上仕方がない。
足が浮いていて、本人がラクに感じればOK。
バタ足を入れたことで、ラクになっただけでなく下半身が安定した感覚が得られた。

・完成形

入水した手を深く伸ばすことで斜め姿勢ができるようになったので、リカバリーの軌跡を上ではなく横にするように指示したところスムーズに手を動かせるようになった。

息継ぎは頭頂部を沈めたまま頭を回す意識だけで、がまんの手も少しできるようになった。

30分程度の練習ではあったが、本人もその違いに驚いて、納得したようである。

実は母は2011年にテリーが来日したときに、テリーから直接教わっている。何を教わったかは今となっては忘れてしまっただろう。もったいないことである。
ラクリン夫妻が母と庭で撮影した写真を先日偶然見つけてから、1週間もしないうちに訃報を聞いたので、何か運命的なものを感じた。

グライド姿勢で肘を伸ばすことが次の課題





2017年11月2日木曜日

泳げない子と泳げないお母さんが泳げるようになる話 1

最近水泳を教える時間を減らして、カリキュラムの作成に力を入れている。
5月にはカンタン・クロールが完成し、現在カイゼン・クロールと3種目のカリキュラムを新たに作っている。
ここで抜けていたのが「泳げない人」である。まさに偶然か天命か、知人のお子さんとお母さんを教えることになり、これまで3回60分のレッスンを行った。


○こんな子供さんです

9歳の女の子。全く泳げず水も怖がっていた6歳のときに水泳の短期教室に通ったが、ほとんど成果がなかった。
学校では年数回水泳の授業があるが、具体的なことは教えてくれずにテストだけ行う。これまでの3年間で、顔浸けからけのびまでできるようになった。

○こんなお母さんです

息継ぎができないので息が止められる範囲で「泳げる」。何回か手でかいてから立つ。
顔を出したまま平泳ぎをすることもできない。

10歳で泳げないのは親の責任重大

現在検証しているが、クロールで息継ぎしながら25mを泳ぐことが10歳までにできないと、一生できないままになってしまう仮説を立てている。
もちろん現在のお客様の多くは大人になってから水泳を始めた人達であるが、この人達のように「水泳で健康になる」という強い意志を持たない限り、大人になってから自主的に水泳を学ぶことはない。

これまで多数のお客様から聞いた話によると、顔浸け、けのびができるレベルから25mとりあえず泳げるようになるまで、40歳以上がフィットネスクラブなどのレッスンを受ける場合数ヶ月~1年程度かかる。そこからさらにターンや別の種目となると数年単位である。そこまでの長期間少しずつ技術を磨くことのできる忍耐力のある人達だけが、泳げるようになる。おそらく何倍もの方達が途中で挫折しているのであろう。

一方子供は、10歳ぐらいまでなら一般のスイミングクラブで半年ぐらいで泳げるようになる。圧倒的に早い。だから子供のうちに学ぶ必要がある。

ところが小学校高学年になると、泳げないことが恥ずかしいと考えるようになり羞恥心が芽生え、低レベルのクラスに入ることを嫌がる。中学生以降なら教わる場もなくなってしまう。そして泳げないまま大人になってしまうのである。

自転車に乗ることと同じように、泳げるようになることも親の責任である。中高年にとって水泳を有酸素運動の手段として持つことは非常に重要である。自分の子供の40年後、50年後を見据えて、将来生活習慣病にならないように今から準備をしてあげるのが親の努めである。

レッスン1回目

水に対する恐怖心がどの程度あるかわからなかったため、以下をテストした。
  • 口で吸って口で吐く
  • 息を止めて口の上まで頭を沈める
  • 息を止めて鼻の上まで頭を沈める
  • 頭を横にして耳を水に浸ける
  • 下を向いて顔を水に浸ける
  • 頭を水没する
  • 顔を水に浸けたまま足を床から離す
  • 浮く
いずれも親子でクリアしたので、ここから先はカンタン・クロールのドリル進行とした。

平らな姿勢:問題なし

浮くことができれば、姿勢をまっすぐにすることができる。あとは前傾して床を蹴ることができれば、両手前グライドの完成である。
水慣れテストでは5秒しかもたなかった息も、この段階で8~10秒まで止めることができるようになった。

斜め姿勢:できない

当たり前である。こんな姿勢は陸上で作らないので、水中ではイメージができない。
カンタンレベルのお客様が斜め姿勢を安定させるのに苦労するのを見てきたが、その前段階でも大きな山があることがわかった。問題のステップは以下とみた。
  1. 斜め姿勢がなぜ必要か、脳が理解できていない。
  2. 水面に対してからだを斜めにするという座標感覚がない。
  3. 斜めにするためにからだのどの部分に何を命令してよいかわからない。
どれか一つでも解決できないと、斜め姿勢はできないのである。
何回かアドバイスしながらやってみて、一つの結論を得た。
できないまま先に進める
脳が重要性を理解するためには、スイッチで体重をかけたり、リカバリーで手を水上に出すという斜め姿勢が前提となる動きを行うことが必要と判断した。そこでできないまま倒れ込みスイッチに進めたのである。

片手スイッチ:平らな姿勢で終わる

斜め姿勢から始まる片手スイッチも、平らな姿勢で終わる。
しかし手を入れて前傾すればからだが前に進むという後ろから前への重心移動はこの段階で理解し実践できるようになった。これで良しとする。


両手スイッチ:両方の手が同時に動かせるようになる

これまで大人を教えているときに苦労していた「両手を同時に動かす」ということは、一発でOKであった。これは「手で水をかく」という動作を習ったことがないのが理由である。

キック:バタ足ができるようになる

両足から片足ずつ交互、さらにバタ足への流れも、子供さんは一発でOK。お母さんは「水を後ろに押す」という考えが残っていてクセのあるキックになったが、ラクになったということでこれもOKにした。

最後:6回スイッチで終わる

リカバリーについてはわきの下を開いて手を前に送ることだけを教えて、続けてスイッチできるか試した。
結果は二人とも6回スイッチまでできるようになった。息継ぎなしクロールの完成である。
リカバリーの手は半分沈んでいたり水上で投げ出したりしていたが、いずれもこの段階ではOKとした。
グライドするときの斜め姿勢も、子供さんはほぼできるようになった。お母さんは「からだの浮き輪」もあるのでできなかったが、これは次回修正する。

顔浸けからけのびまで3年かかっていたのが、60分でクロールが泳げるようになったことに二人とも大喜びであった。お母さんは娘と自分の分とで2倍の喜びであった。

最後にお楽しみタイムとして、エンドレスプールの流れに乗る遊び方を教えたところ、最高速の水流に乗って流れるのを大層喜んで繰り返していた。60分前までは頭を沈めるのがやっとだったのに、トラウマがなければ恐怖はすぐに除くことができるのだと感心した。


知らないうちに斜め姿勢ができている

2017年10月30日月曜日

水と仲良くしなければ美しく泳げない1

2日間の美しいクロール・ワークショップが終わった。
遠いところから美しさを目指していらっしゃるお客様にお会いするたびに、その意欲的な姿勢に頭が下がる。

コーチ専用サイトのイベント実施履歴によると、最初の美しいクロール・ワークショップは2008年3月30日、スカイフィットで10名のお客様で実施した。今回のワークショップは18回目であり、17名のお客様が日夜美しいクロールの技術を磨いた。

10年近く続けていると、いろいろなお客様が来てくださるのでとても楽しい。最近のお客様は夜のセッションでも質問攻めというわけでもなく、また11:30で消灯となり強制終了してしまうので少し物足りない。午前2時半までクラスルームでガンガンやっていた(お客様はやらされていた)のは遠い昔である。あの頃は若かった。

過去のビデオを研究目的で見ているが、「新しいドリルの動きがすぐにできる人」と「できるまでに時間がかかりそうな人」はすぐにわかる。どちらも同じように脳がからだに対して新しい動きをさせようとするのだが、

  • できる人:意識してからだを動かすことができる。もし得たい結果が得られなかった場合(コーチにアドバイスされるなどして分かる)、意識を修正して動きも変えることができる。
  • できない人:意識はするがからだが思うように動いてくれない。得たい結果が得られない場合、意識を修正するが動きは変わらない。
という差がプールの上から見える。できない人の原因は3通りある。
  1. 脳がからだに対して指示する内容があいまいであるため、からだが脳の思うとおりに動いてくれない。
  2. スタート前は脳がやることを決めているが、いざスタートすると脳が忙しくなってからだに指示ができない。
  3. 脳は指示を出しているが、からだが忙しくて脳の言うことを聞けない。
どれに該当するかは、問い掛けて1回やってもらい、その結果を報告してもらうと確実にわかる。ワークショップはグループレッスンなのでその時間がなかなかとれないが、昔は3分プライベートレッスンを実施して、上記の原因を見極めながらアドバイスをしていた。

原因の1は、脳がやるべきことの全体像を把握して、現在どの部分に焦点を当てているのかを理解し、さらに動作や感覚(フィードバック)を「言語化」すれば解決する。1の人の特徴は「今何をしようとしていますか?」という問い掛けに対して「○○○」と即答できないことである。この場合できるだけコーチからの指示内容を自分の言葉で解釈してもらう。自分がコーチになったつもりで手足というお客様に対して説明するのである。このアプローチによってざっくり7、8割は解決する。

原因の2と3は、やりたいことよりも環境の変化に脳やからだが適応していない状態である。特に「不安定である」「息ができない」という水中での特性に対して慣れていない。
できる人は「不安定である」「息ができない」という事実を素直に受けとめ、そのうえでからだを動かそうとするが、できない人はこれらの事実を「変える」ことからスタートしようとする。
  • 不安定である→自分のからだを板みたいに硬くすれば安定するのでは、と筋肉を緊張させる→さらに不安定になる悪循環
  • 息ができない→口を膨らませて空気を貯め込む、息を止める→吐く時間が短くなり吸う量が減ってかえって苦しくなる悪循環
結局悪い方向に進んでしまい、脳が手足に命令できなくなる。
カンタン・レベルのお客様であれば半分ぐらいがこのタイプに属する。

それではどうすれば解決できるか。答えは「水と仲良くする」ことである。
次に水と仲良くするための方法についてまとめる。



2017年10月24日火曜日

TI創設者テリー・ラクリンとTIが支持された理由

2017年10月20日に伝説の人となったテリー・ラクリン。
彼の考案したトータル・イマージョンというメソッドがなぜ画期的で、多くのスイマーに受け入れられたかを考えてみる。

理由1:効率泳ぐ技術は大人になってからでも習得できることを証明した

上手な中年スイマーは、大方過去に水泳部に所属して泳いでいた人達である。大人になってから水泳を習った人とはすぐに見分けがつく。その違いを「技術」の観点で分析して、ドリルの形で習得可能にしたことが、テリーの最大の貢献である。

もっともこれは、彼自身の生い立ちが大きく影響している。最年少で大学の水泳部のコーチに就任したテリーは、速さを結果として常に求められる世界に居た。自分が遅いならあきらめもつくが、チーム全体のスイマー全員に対して責任を求められるのは大変なことであっただろう。

そのような世界がいやになって、彼は一旦水泳の世界から離れる。そして戻ってきたときには、競泳の世界ではなく成人向けの水泳指導という彼にとっても初めての世界に入ることになった。当時の成人向け水泳指導ビジネスはマスターズ、泳げない初心者と二分化されており、その中間、すなわち泳げるけど速く泳ごうとは思わない人達は相手にされていなかった。

再挑戦するにあたり、このような競争のないセグメントで教え方を考えるところがテリーらしいのである。そしてトライアスロンの勃興と共に、トータル・イマージョンのスイムキャンプは一部の狭い分野の人達に強烈に支援されるようになる。

自分で考えたメソッドなので、被験者が多いほどメソッドは最適化される。数年も経つうちにこれで食べていけるようになったところは凄い。そのあたりのエピソードはいろいろ教えてもらった。

理由2:水泳の世界に東洋的な味付けを加えた

「考えながら泳ぐ」という禅思想、「カイゼン」などの新しい概念など、テリーの思考には東洋的なアプローチ、特に日本人の考え方が深く影響している。

彼は玄米茶をたしなみ、漬物が好物(京都の百貨店では試食コーナーから引き剥がすのが大変であった)であり、日本的な発想や日本人の生産性、勤勉さなどに非常に興味を持っていた。

トータル・イマージョンが台頭した1990年代後半から2000年にかけては、米国における中国の影響は少なく、東洋といえば日本であり、日本の神秘的(言い換えれば不気味)な世界を水泳というめずらしい分野に取り入れることで、米国人の東洋に対する憧憬を満たすことになった。


理由3:自らカイゼンし続けた

コーチは教えることが仕事である。ところがテリーは教えるだけでなく、自らがレースに参加し、練習する過程で得られた経験により、カリキュラムを磨いてきた。まさに日本のカイゼンである。

練習のアプローチや意識するポイントが成果を伴わないものであっても、それを反省してさらにアプローチを変えて取り組む。その姿勢が多くのスイマーを感動させ、トータル・イマージョンのブランド価値を高めた。

ここまで自分をコミットしてメソッドを作り上げたコーチを私は知らない。一方テリーの後には、名前を挙げればきりがないくらい多くのコーチが同じ道を歩んでいる。テリーは自らをコミットする先駆者である。


理由4:一流のビジネスマンである

テリーはいつも、「私はコーチだからビジネスのことはよくわからない」と言っていた。しかし市場のセグメント、ブルーオーシャン市場の見極め、ブランド構築などの観点では、彼は非常に秀でている。

だからこそ文字通り「裸一貫」で、ここまでの世界を作り上げたのであろう。
今後トータル・イマージョンはどうなるのか。興味深い。

おまけ:「テリー・ラクリン」という呼び方

Laughlinはスコットランド由来であり、いくつかの呼び方がある。しかもいずれも日本人の発音にはない音であり、近似化する必要がある。
そこで私はいくつかの音を日本語読みで発音し、どれが一番フィットするか本人に判断してもらった。その結果「ラクリン」となった。これは本人が認める呼び方なのである。

2017年10月23日月曜日

テリーを偲ぶ

私の人生を変えた師、テリー・ラクリンが10月20日に永眠されました。66歳でした。

テリーへ

2004年5月、生徒として参加した最初で最後のワークショップ、そしてコーチ研修初日が終わりリラックスして泳いでいるときに、あなたはプールサイドに現れました。

ビデオテープではおなじみでしたが、恰幅の良いひげづらの中年白人男性はシアトルのプールにはうようよいるので、本当にあなたかはどうかは半信半疑でした。

しかしあなたがプールで泳ぎ始めた瞬間、あなたであることが確信できました。ビデオテープの中で優雅に泳いでいる人と同じだったのです!

緊張しながら、私は「初めまして。シンジです。日本でTIを教えたくてコーチ研修に参加しました。」とあなたに言いました。するとあなたは、「じゃ泳いでみて」と言いました。

緊張しながら泳いだのは生まれて初めてでした。できるだけなめらかに、リラックスして泳ぐように心がけました。1往復泳いだ後、あなたは、「上手だね。日本で教えていいよ!」といきなりOKするではありませんか!

私は日本での事業を承認してもらいたくて、コーチ研修中2回の会議の時間をとってもらい、これまでの市場調査の結果や事業プランをパワーポイントのスライドにすべく毎晩遅くまで準備していました。もちろんリハーサルも入念に行いました。

それなのに、往復泳いだだけで認めるとは!!しかも後日あなたの会社で正式に契約を結んだときにあなたは言いましたね。「日本人だから背広を着て、アタッシュケースに現金を入れてやってくると思っていたんだ。だけどTIが好きで、TIを熱心に研究して練習した人でなければ断るつもりだったんだ。シンジが一人であそこまで泳げるようになるのには、ドリルを随分練習しただろう。TIの良さがわかっていて、TIを広めたいという熱意を持っているからこそ、条件抜きにOKしたんだよ」

このとき私は、世界にTIが広まるように全力で手伝うと決心しました。そしてTIの社長になり、またYouTubeを通じて世界中の人にTIの良さを知ってもらうことができました。

テリー、あなたのおかげで私の人生は大きく変わりました。そのあなたが、66歳という若さでいなくなってしまったことはとても寂しく思います。しかしあなたが残したTIというメソッドは、レガシーとなって世界中の人達に受け継がれています。これまであなたが行ってきたこと、残してきたことに深く感謝するとともに、より良いものにすべくカイゼンに務めることを約束します。

Rest in Peace

シンジより




2017年9月8日金曜日

水面を下げて息継ぎをラクにする

カイゼンシリーズの新版を作成するため、再びドリルの撮影に取り組んでいる。
DVDジャケット用の写真を撮影するため、スマートフォンの連続撮影機能を使ったところ、高速撮影で鮮明な画像を入手することができた。
今回はこの写真を使って息継ぎの詳しい動きを説明する。

○息継ぎ完成形:水面を下げる


私が息継ぎで口を開けている瞬間(写真)である。
進行方向で頭の前の水面が盛り上がっていて、口の周りの水面の高さと隆起している部分の水面の高さの差が20cm以上あることがわかる。
口の周りの水面を下げることと、口の端が水面にかかる程度に顔を回すことで、からだの回転を最小限にして息継ぎをすることができる。

○船首波ができるステップ

この水面が盛り上がった状態を「船首波(Bow wave)」と言う。頭の前にある水が素早く押されることで、頭の周りに逃げ込むようにして波ができる。このときに頭の周りにくぼみができる。このくぼみを使って呼吸するのである。

それではこの波をどのようにして作ることができるのだろうか。
下は息継ぎをする前の状態で、プッシュが終わる前のタイミングである。頭頂部は水面下にあり、顔とからだが回っていることがわかる。
水面をよく見ると、ざわざわしているようだが船首波はできていない。


下はフィニッシュが終わる直前のタイミングである。水面を見ると、船首波ができつつあることがわかる。頭の位置は下を向いているときに比べて3cm程度上がっている。
口は水面に近づいていて、表面張力でまとわりつく水を飛ばすために息を吐き始めている。


以上より、船首波を作って水面を下げるためのステップをまとめると以下のようになる。
  1. 頭の位置は下を向いたときに水面直下(後頭部が水面下)にある。
  2. 水中のプッシュ動作で、頭を素早く前に動かすと同時に頭の位置を3cm上げる。
  3. 手を水上に出すフィニッシュ動作の直前から、口から息を吐き始める。
  4. 口の端が水面に来るぎりぎりのところまでで顔を回し終える。
  5. 横の景色、特に水面の高さを目で確認する。
練習では頭の位置と水中の手を素早く動かすタイミングを変えながら、顔を回す角度を抑えて口の端が水面に来るようにする。
水面が下がると、息継ぎをしているときに水面が目の位置よりも高く見える。景色によりできたかどうか確認することができる。



2017年8月5日土曜日

「強く泳いで」10%速くする

  新しいカンタン・クロールのコンテンツ作成が一段落して、速く泳ぐための練習について研究している。これまで提案してきた練習をゼロベースで見直して、より効率良く練習できるようにすることが目的である。

○テンポを速くすれば速く泳げるのか?

  テンポ・トレーナーはスピード練習に欠かせないツールである。製造元のFinisは、速く泳ぐためには速いテンポで泳ぐようにアドバイスしている。参考として過去のオリンピックの男女別・距離別の平均テンポ一覧が付属している。しかし0.70秒とか0.60秒とか、中年スイマーにはありえない数字が並んでいるので役に立たない。

  そこでテンポを速くすれば速く泳げるのか実験してみた。200mのセット(200mを数回泳ぐ)において、テンポを1.30秒から1.00秒まで0.05秒刻みで速くした。泳いでいるときは「入水をビープ音に合わせる」ことにのみ集中した。

  結果が下のグラフである。最初のテンポで泳いだタイムを基準としており、テンポに合わせていれば、計算値のようにタイムが22%速くなるはずである。しかし実際には途中まで5%程度速くなった後は、タイムがほぼ変わらない。




  ストローク数を見ると、1.20秒以降は150~154ストロークで推移しておりほぼ変わらなかった。従ってストローク数が増えて「空回り」しているわけではない。泳いでいる感覚としては、「ラクにテンポを上げている」状態であった。テンポに合わせるだけだとラクに泳ごうとするので、速度の上昇に限界があると考えられる。

○10%速くするためには


  より速く泳ぐためには、「強さ」を感覚の指標として取り入れることが必要である。強さとは力を入れることであり、まず「強く泳ぐ」ほど「速くなる」関係を作る必要がある。そのためにはテンポを一旦ゆっくりにしてから速くするとともに、ストローク数をタスクに加える。

・テンポを遅くするときには

  ストローク数を減らすことを目標にして泳ぎの強さを次第に増やす。強さを作るためには弱い状態にする必要がある。リラックスして関節をゆるめた状態から、力を入れて関節を伸ばしたり、手に当たる水の量を増やす。目標は0.10秒あたり25mで1ストロークを減らすことである。

・テンポを速くするときには

  減らしたストローク数を維持することを目標にして泳ぎの強さの部分を次第に減らす。テンポが速くなっても強さを残せるところはどこなのかを練習により見つける。経験では、遅いときに10あった強さは、テンポが速くなっても7程度まで維持できればかなり速く泳ぐことができる。

・ピラミッド練習の結果

  テンポ1.15秒スタート、1.30秒で折り返して1.00秒まで上げた結果が以下のグラフである。ストローク数はGarmin使用により左手の分だけをカウントしている。テンポ1.15秒から一度ゆっくりにして、また元に戻った1.15秒のときのタイムは7%速くなっている。ストローク数は左手だけで5減っている。強い泳ぎはテンポが速くなっても生きており、テンポ1.00秒では最初に比べて9.3%速くなった。

 

  テンポを変化させたときの計算値との比較でみると、ようやく計算値に近づくことがわかる。


  運動強度として心拍数を見ると、1.30秒から1.00秒まで上げたときの最後のセットの平均心拍数が132、1.15秒から1.30秒そして1.00秒までストローク数を意識して泳いだときの心拍数が156(18%増)であった。速くなった分だけ強度も上がっている。

  人間のからだはテンポを上げれば速くなるような単純な仕組みではない。ゆっくりなテンポで強い泳ぎを作り、次第にテンポを上げて強さとなめらかさを相殺しながら、ようやく速いテンポで速く泳げるようになるのである。